【魔法.1】




ゾートシティ、アルタミラの夜。
昼間は子供たちのはしゃぐ声で賑わうこの街も、夜になれば大人のムード漂う静かな街へと変化する。


潮の香り。
波の音。
揺れる街の灯り。

それは…強がりな君を素直にさせる…ちょっとした、魔法。






「今日の部屋割りは…6人が大部屋で2人が個室。誰が個室にする?」

コレットが鍵を持って問いかける。

「僕は大部屋がいいな!ロイドとコレットとおしゃべりしたいし。プ…プ…プレセアもどう?」
「私も、お話したいです。」
「本当!?じゃあ決定〜!」


いつもの大人ぶった態度からは想像もつかないほどにジーニアスが喜ぶ。
残ったのはリフィル、ゼロス、リーガル、しいな。

「俺様は個室がいいな。
 前みたいに遅く帰ってきて鍵がかかってて入れない〜なんてのは嫌だからな。」


と、廊下で一晩空しく過ごしたことを思い出したゼロスが言う。

「それはゼロスが夜中まででかけてるからだろ?」

ロイドの最もな言葉。

「でもまあ確かに毎回毎回遅くに帰ってこられては眠れるものも眠れなくなるわ。
 ゼロスには一人部屋に寝てもらうほうがいいわね。」

リフィルが冷たい視線をおくる。

「き…厳しい、相変わらず。」

がくっと肩を落とすゼロス。

「じゃああと一人誰が…

そうロイドが口にしたとき。



「あ…あのさっ」



いつもの勝気な声とは違う、遠慮がちな声。

しいなだった。

「?どうしたしいな?」
「…あたし、一人部屋でもいいかな?」
「?いいけど…なんで?」

何気ないロイドの問いかけに思い切りしいなは動揺してみせた。

「あ…いや、ちょっと疲れちゃってさ。早めに休みたいんだ。」

いつも部屋割りのときに、大勢のほうが楽しいからと大部屋を希望するしいな。
そのしいながらしくなく個室を希望している。

だがしいなの理由が尤もだと思ったのか、鈍感なロイドは快くそれを受け入れた。

「わかったよ。はい、鍵。」
「ありがとう。」

「しいな。無理しちゃだめだよ?」
「疲れたなら言ってね!ちゃんと休まなくちゃ。」


しいなを気遣うコレットとジーニアス。

「うん。平気だよ。今日は早く寝るからさ。─おやすみ。」

しいなは笑顔で手を振って部屋から出ていった。



そんなしいなの様子がおかしいことに気づいていたのが弱冠3名。

「─・・・。」

─・・・。」
「─・・・らしくねーの。」


最年長であるリーガルと、敏感なリフィルと、そして…人の感情に意外にも鋭いゼロス。


しいなが無理をしていることくらいすぐにわかった。



狐鈴の死。
度重なる精霊との契約のプレッシャー。
そして、幼なじみであるくちなわの裏切り。


けれど彼女はそれを胸に隠し、仲間に気丈に振る舞った。
いずれ彼女は乗り越えられるだろう。その辛い壁を。


でも…それにはあまりにも時間がなさすぎた。
考える時間すらなかった。


だから一人になりたいと、そう言ったのだ。


特につきあいの長いゼロスには、しいなの気持ちなどお見通しだった。


─ったく、世話がやけるぜ。」

立ち上がるゼロス。

あら、あなたが行動するなんて珍しいわね。」

クスリとリフィルが笑う。

「あいつがふさぎ込むと、いろいろね。それに俺様は紳士ですから、リフィルセンセ。」
「一応そうだったわね。」
「またまたきついの〜。」

そういいながらゼロスも大部屋を後にする。


部屋を出るゼロスに気づいたロイドが疑問の声をあげる。

「あれ?ゼロスもう外にいったのか?」
「さあ?お子さまは知らなくてもいいのよ。
 さあ、明日の準備をして、今日は早めに寝ましょう。」
「なんだよそれ〜気になるじゃんか。」









「……。」

ごろりとベッドに寝転ぶ。
部屋から見える、穏やかな海とアルタミラの夜景。


…その景色をみると余計に感傷的な気分になってくる。

「狐鈴…。


自分が弱いために狐鈴が死んだ。
自分が弱いためにくちなわとおろちの両親も死んだ。



─手を抜いてたんだ!



蘇る、くちなわの…悔しそうな…怒りに満ちた瞳。


「くちなわ・・・」


そんなふうに思っていたなんて。
ずっと恨まれていたなんて。



─しいなならできるよ。



狐鈴が教えてくれた。
勇気を出せば、仲間がいれば、どんなことにでも打ち勝っていける強さ。


でも、ちょっと・・・辛い。
気づくのが遅すぎた。
狐鈴が犠牲になってから気づくなんて。


「ごめんね、狐鈴、くちなわ・・・─」


握りしめるシーツ。
噛み締める唇。



─・・・もっと強くならなきゃいけないのに。


自分の無力さを呪いたくなった、・・・そのとき。



─・・・しいな〜いるのか?」



ノックと同時に聞こえてきた声。
声の主は・・・ゼロス。



─!」


しいなは声に驚き、しかしぎゅっと目を閉じる。


今は誰にも会いたくない。
一人にしてほしい。


─・・・まず最初に誰が裏切ったのか、考えてみるんだな。


ゼロスの忠告。


─わかってる。
自分が受け入れられなかったばかりに、多くの犠牲を出したこと。

大切な人々の命を・・・失ってしまったこと。

─わかってる。

─わかってるけど。

一度にいろんなことがありすぎて。
少し、疲れただけ。


─だから一人にさせて。




「しいな?入るぜ?」

しかし願いも空しく扉が開けられる。
そこで鍵をかけていなかったことに気づかされた。

─!ちょっと!勝手に入ってこないでよ!」

「ちぇ、返事がないからシャワーの途中かと思ったのにな〜。残念。」

にやにやと笑ったゼロスに、しいなは頬を赤く染める。

「このスケベ!変なこと考えてるんじゃないよ!」
「だって〜いつもなら俺様の夜這い防止とかいってしっかり鍵かけてあるのに、
 今日はらしくなく…開けっ放しだったし…ね。」
そ、れは・・・。」

鍵をかけるなんて考える余裕もなかった。
図星を突かれて唇を噛む。

もう言い訳はきかない。
諦めたようにしいなはゼロスを見つめる。


・・・何の用さ・・・用がないなら出てってよ。」
「そんなに冷たくするなよ。デートのお誘いにきてやったのに。」

そういってゼロスはウインクをして見せた。


「デート!?な・・・なんであたしがあんたなんかと!」

ゼロスの言葉にしいなはむきになって声を張り上げる。


「おまえねー、おまえみたいな怪力女をデートに誘ってくれる男なんて、俺様くらいだぜ?」
「大きなお世話!─・・・でてってよ!一人にさせて!」

デリカシーのないゼロスの態度に怒鳴って背を向けてしまうしいな。
そのしいなの態度にゼロスは大きくため息をついた。


─やっぱりね。"一人になりたい"ってのが本音か。」
「─!」




─しまった。

勢いに任せて告げてしまった。
"疲れているから"と一人部屋を希望したのに。


「あ、あたしは・・・。」
「今更下手な嘘つくなよ。」
「─・・・!」

見透かしたようなゼロスの瞳。

しいなは悔しくて、ぎゅっと手を握りしめる。

「ったく・・・らしくねーぞ。おまえ。」
「─・・・ほっといてよ!わかったなら出てっ・・・─!?」

そう言って顔を上げたしいなに向かってゼロスが何かを投げた。
しいなの目の前にばさりと広がる。


それは。

・・・?なにこれ。」
「デート」
「は?」
「するの?しないの?」
「!?あんた・・・っ」

勝手に話を進めるゼロスにしいながくってかかろうとするが。

「するならそれ着てでてきて。
 俺様からのプレゼント。廊下で待ってるからさ。」

そういってしいなの言い分も聞かずにでていってしまう。

「ちょ・・・っゼロス!」

ドアが静かに閉まる。


返事はない。


しいなの目の前に広がったもの。

それは…簡素なドレス。
黒くすらりとしたデザインのそれは、ゼロスがいつも愛用している仕立屋のものだった。


つまり、オーダーメイド。


・・・・・・。」



─・・・なんで・・・?。



疑問がしいなの胸を締め付ける。

ゼロスはいつもこういうことに鋭い。
自分が落ち込んでいるとき、いつも誰よりも早く気づいて、おどけて声をかけてくる。


・・・ずるいじゃないか・・・」


こういうときだけ、優しいなんて。







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初続き物万歳!次回はデート編です。
実は砂さんのゼロしいnovel第1号です。・・・暖めすぎ。
しかしまた少女漫画チックな・・・いいんです、砂は甘々好きですから(--;)
アルタミラのホテルに泊まるたびに、「いいなあ〜」と。
だって絶景で素敵なホテルですよね、
そして4階の上の部屋がお気に入り、あの部屋がなければこの話は生まれなかった・・・。
レザレノ万歳!リーガルさまさま☆
・・・どうしてゼロスがしいなのサイズを知っていたかは・・・聞かんでやってください(爆

◇ 砂 ◇