【魔法.2】




小さく音を立てて部屋のドアが開く。

─・・・さっすが俺様。見立てがいいねえ。」
「・・・っ」

胸元は大人の雰囲気を醸し出すかのように大きめにあけられていて。
大きくスリットの開いた長いドレスから細い足がのぞく。
普段結い上げている黒髪は解かれ、胸元へと流れ落ちている。


そのしいなを見つめて、ゼロスは満足そうに目を細めた。

「普段は怪力でもこうしてるとやっぱりいい女だなぁ、おまえ。」
「・・・っ怪力は余計だ!」
「へいへい。さてと。」

すっと手を差し出すゼロス。

─?」
「いくんだろ?デート。」

自信ありげに笑うゼロスから、しいなは恥ずかしそうに視線を逸らす。

・・・し、しかたないからね。」
「おまえもーちっと素直だと可愛いんだけどな。」


くい、と手をひかれ、しいなが頬を赤く染めた。






いつもおどけているけど、誰よりも感情に敏感な男。
神子という重い使命。
自分と同じように・・・強がって生きてきた男。



・・・あたし・・・なんで。
なんでこいつにどきどきしてるんだろう・・・。



手を引かれて歩いているだけなのに。
どんどん鼓動が速まっていくのがわかる。
それに気づかれてしまわないかと妙に緊張してしまう。

自分の一歩前を歩くゼロス。

その背中に揺れる、赤い髪。

見慣れたもののはずなのに。
新鮮に感じてしまうのはどうしてだろう。



─ほら、着いたぜ。」
「え?あ・・・─」


ぼんやりと考え事をしていたら、いつの間にかホテルの外へでていた。


目の前に広がるのは、アルタミラの夜景。
遊園地区画の灯り。
そして大きく輝く月。


うわぁ・・・綺麗・・・。」


部屋から見えたのはほんの一部分ということか。
水面に映るイルミネーションが、反射してきらきらと光っている。
あまりの綺麗さに、素直に感想がこぼれてしまう。

「だろ?俺様オススメの絶景スポットだぜ?」

自慢げにゼロスが笑う。


・・・ほんと・・・綺麗だねえ・・・」


海風に遊ばれる髪を押さえながら、幻想的な景色にぼんやりとつぶやいてしまう。
そんなしいなの横顔をみつめるゼロスがふと目を細める。


普段辛辣な言葉ばかり投げてくるしいな。
普段声を出して、無邪気に笑っているしいな。
でも、落ち込んでいるときのしいなは普段と対称的で・・・どこか儚げで・・・弱々しくて。



ひとつ、小さく深呼吸をして。

ゼロスはそっとしいなの肩に腕を回した。


「!・・・ちょ・・・っ」

驚いたしいなは反射的に身を捩る。

「いいから。それとも・・・嫌?」

囁かれたその言葉の意外性に、しいなは抵抗を弱める。

「え、あ・・・あたしは・・・。」
「・・・嫌なら、解いていいから。」

そう告げて、しいなの体を自分の傍へと引き寄せた。


ふわりと香るゼロスの髪の香り。
その距離の近さに、しいなは自分の胸が高鳴るのがわかった。


・・・っゼロス・・・。」
「ん?」


見つめるアイスグレーの瞳がいつになく優しくて。

・・・何でもない・・・」

しいなは言葉を飲み込んだ。


─なんでこんなに優しいんだろう・・・こういうときだけ。
─解ける訳、ないじゃないか。

彼の優しさにこんなにどきどきしているのに。
彼の優しさがこんなに胸に沁みているのに。


ぎゅっと胸元を手で押さえる。


胸が、苦しい

「しいな」
「・・・。」

抱き寄せる腕の力が強くなる。



「泣いていいぜ?」



視線は夜景に向けたまま、そう告げられた。

!あたしは泣いたりなんか・・・」
「強がんなよ。俺が・・・一緒にいてやるから」
「!」



耳に蘇る…狐鈴の声。



─・・・しいな。狐鈴がしいなと一緒にいてあげる。



「おまえは一人じゃない。・・・だから泣いたっていいんだ。」



─しいなは一人じゃないよ?



いつも強がって。
誰にも頼っちゃいけないと思ってきた。
すべて自分の責任なんだから。
もっと強くならなくちゃ。
犠牲になった人のためにも。

泣いてる暇なんか、ない。


ずっとそう思ってきたのに。



「・・・あれ・・・変なの・・・っ」



視界がどんどん霞んでいく。
ぽろりと一粒、零れた雫。

ほっとしたように、ゼロスは笑った。

「おまえは、まだいっぱいやらなくちゃならないことがある。死んだ狐鈴や・・・ミズホの民の為にも」

背をあやすように撫でる大きな手が暖かい。

「だから今のうちに泣いとけ。気が済むまで・・・な?」
「・・・っゼ・・・ロスっ」
「ほら、しいな。」


そっと抱きしめられる。
そのゼロスの胸が予想以上に暖かくて。


─・・・っ!・・・・・・・・・っ」


涙が・・・止まらなくなった。


嗚咽を漏らして泣くしいなを、ゼロスはずっと抱きしめて、髪を撫でていた・・・─。








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砂吐き袋・・・必要でしたね。(げふん
昔書いた作品なんで必要以上に甘い。
そして今以上に文章の書き方が不自然、なんか観察してるみたいだなあ(笑
次回、更に大きい砂吐き袋をご持参してください。
でも・・・ラヴラヴっていいねえ・・・←何に飢える。


◇ 砂 ◇