【想い】





いつも。

遠回しに伝える想い。
鈍感な彼女が気付かないとわかっていて。

それなのに真っ向から思いを伝えなかったのは。






「…おいおい、隠密が簡単に侵入許していいのか?…って、聞こえるわきゃないか。」


夕暮れ時。
風邪が冷たくなってきたと思ったら、あっという間に更けていく夜。

自分の家でもないのに勝手を知っている家。
遠慮なくあがりこみ家主に声をかけたが、いつもの威勢のいい返事が帰ってこなかった。

いつもと違う様子を不審に思い、「立入禁止」といわれた寝室に容赦なく侵入してみたら。



彼女は侵入にも気づかず爆睡していた。



「まー…しょうがねえか。たまの休みだし…。」


世界中を飛び回って、何度も何度も会合に出席している彼女。
世界統合のきっかけをつくり、全ての精霊と契約を交わし、
そしてなにより世界統合に大きく関わった張本人。

彼女がいなければ世界の統合はなかったのだから、世界中がひっぱるのも無理はない。


「大物になっちまったなぁ〜…ドジな隠密さん。」


まだ19歳の彼女。
今まで会合になど出席したこともなかった少女には、正直荷の重い仕事だろう。
場慣れした自分とは比にならないだろう彼女の疲労を思い、思わず苦笑いをする。



畳の上に広がる桃色の帯。
捲られた黒い装束から覗く素足。

うずくまるようにして彼女は眠っていた。
一向に起きる様子はない。


「─…よいしょっと。」


眠る彼女が風邪をひかないようにと布団をかけてやる。
するとやはり寒かったのか、布団を顔半分まで引き上げてしまった。


「ん〜…。」


寝呆けた声を出す彼女に呆れたように笑って。
しばらくその寝顔を見つめていようと隣に座り込む。


「…疲れた顔してるじゃないの。美人が台無しだぜ?」


あの世界統合の戦いよりも、大人びた顔つきになった気がする。
それは大勢の大人に囲まれているからか。
それとも、彼女自身が大人に近づいたからか。


「無理しすぎだっつーの。」


温もりのおかげか、先程よりも穏やかな表情で眠る彼女。
髪を撫でても反応がない。


少し調子にのって、頬にそっと口付けた。


彼女に気付かれないうちに、そっと口付けに乗せる想い。




いつも。

遠回しに伝える想い。
鈍感な彼女が気付かないとわかっていて。

それなのに真っ向から思いを伝えなかったのは。


自分は、近いうちに死ぬのだろうと決め付けていたから。




「─…もう、そんなことねえのにな。」




それなのに。
未だ真っ向から想いを伝えられないでいるのは。



彼女を守りたい。
彼女の隣で生きていたい。

そんな思いを拒否されることが怖いから。



「なあ、しいな…。」



生きているのに、彼女が隣にいない。
それは、死ぬことよりも苦しいかもしれない。


だからもう少し。
ほんの少しの間。
彼女の思いを探り出すまでは。


この思いを伝えられない。



「─…、好きだぜ?」



届かない告白。
臆病者といわれるかもしれない。

…けれど、それでもいい。




いつも。

遠回しに伝える想い。
鈍感な彼女が気付かないとわかっている。


…気付かないからこそ。
今、ここにある彼女の温もりに触れていられるのだ。


だからもう少し。
ほんの少しの間。



彼女の鈍さに甘え、今日も想いを隠し続ける。









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1000hitおはな様よりリク頂きました、ゼロ→しい小説。
ゼロ→しいって意外に難しいですね。
どうしてもゼロス君が甘えんぼになってしまう…。
おはな様に差し上げます。
…これでよろしいでしょうか??(汗)
※でも、返品不可です。(笑)

◇ 砂 ◇