【ペテン師】







あたしが知ってるアンタのこと。



お調子者で。
バカで。
アホで。
女好きで。
いっつもへらへらしてて。


嘘がうまい、イケ面のペテン師。















「…神子がそんなにも嫌か。仲間を売るほどに。」
「ああ、嫌だね。そのおかげでろくな人生じゃなかったんだ。」


ついさっきまで仲間だったコレットを、簡単にクルシスに引き渡したアンタ。

…ううん、違う。

アンタにとっては初めから仲間なんかじゃなかったんだ。
ロイドも、コレットも。


…、あたしも。


今まで一緒に旅をしてきて、……そんなこと欠けらも見せなかったくせに。



ほんと、ペテン師だよ。



神子っていう立場が嫌いだっていうのは気付いてた。
けど、数々の困難を一緒に乗り越えてきた仲間を…簡単に差し出すとは思わなかった。
アンタの笑顔が、偽物だったなんて思わなかった。



「嘘だ!俺はお前を信じるからな!信じていいっていったのはお前なんだぞ!」

「ばっかじゃねーの?」



冷たく返された一言。

それはロイドだけじゃなく、
他の仲間にも、


……あたしの心にも、


確実に深く、突き刺さって。



たくさんの怒りと、
たくさんの後悔を、
あたしの中に滲ませていった。





あたし、アンタの言うとおり、バカだ。
ほんと、大バカだよ。

ロイド達よりもずっと長い間、アンタを見てきたのに。
アンタの隣にいたのに。

アンタに騙されてるなんて、これっぽっちも思わなかった。
アンタが裏切るなんて、欠けらも思わなかった。



胸がムカムカする。

大切な仲間が捕われるのに、なにもできなかった、後悔。
罪もないコレットを苦しめることへの怒り。

……なら、コレットを助ければいい。
コレットを助けて、クルシスを倒せばこの感情は沈められる。




─……、違う。




「…っ」



コレットをさらわれたことへの怒りよりも。




¨アンタ¨に裏切られた。



そのことがあたしの心を支配して。
その事実を認めるのが辛くて。
悲しくて。
無性に泣きたくなって。


へらへら笑ってたアンタがどれだけ苦しんできたのか。
…どうして気付かなかったんだろうって、後悔ばっかりで。


だって。
気付いていれば、アンタはこんなことしなくてよかったかもしれない。
…ペテン師になんて、ならなくても良かったかもしれないのに。



「……ゼロス…っ」



あぁ…もう、ダメみたい。

蔦に捕まる手が燃えるように熱い。
マナを消費した体じゃ、脱出することもできない。



あたしは、このまま。
アンタに、何にも言えないまま……死ぬのかな。




「………ごめん…ね…」



聞こえるわけないとわかっている。

…けど。
せめて、最後だけは。



アンタのこと、考えていたかったから……………………。






















…あたしが知ってるアンタは。

お調子者で。
バカで。
アホで。
女好きで。
いっつもへらへらしてて。

女をその気にさせるのが巧い、イケ面のペテン師。


¨愛してるぜ、ハニー¨


そんな恥ずかしい言葉を、女といえば誰構わず言ってのける、ペテン師。



…そんな、どうしようもない奴だけど。

あたしは、アンタの優しいところとか。
実はシャイなところとかを知ってる。
滅多にそんなところ見せないけど、本当のアンタの姿なんだって思ってた。
本当のアンタに、…もっと触れてみたかった。





「……っ」


辺りは真っ暗。
ここは、どこだろう。
地獄、だろうか。
あたしはいっぱい罪を犯してきたから…自然とそう思った。


暗闇の中、そんなことを考えていたら。






──、?



不意に、感じた、何か。

何?
何だろう。

体を暖かく包み込む、これは。



…ああ、似てるんだ。

傷ついたあたしを幾度となく包み込んでくれた、アンタの癒しの術に。



あったかくて、優しい、風に。



「ゼ…ロ…………。」



死ぬのなら。
せめてもう一度だけでも……と、アンタの名前を呟く。





「……?」





…そこで、違和感に気が付いた。


「……ぅ…」


耳に届いた、自分の鮮明すぎる声。
唇からこぼれた、呻き。

それに、なんだか、苦しい。
段々と自分の体が重たいと感じ始める。
暗やみが、少しずつ明るくなっていく。



……あたし、死んでない…────?



じゃあ、
今の優しい風は…………?








「─、いつまで寝てんの〜。メインイベントに間に合わなくなるぜ〜?」





───────!?




鮮明になっていく視界。
その視界に映った、赤。



「な……んで………」



それは、赤い髪。
にやりと笑った口元。
ぼんやりとした視界でも、間違えるはずない。





「…ゼロス………なんで……。」





ここに、いるはずがないのに。


名前を呼んだ途端、涙が溢れた。




アンタは裏切ったんだ。
あたし達を、騙してたんだ。



なのに、どうして?
どうしてあたしのところいるの?




「泣くなよ…殴られるかと思ってたのに。…俺様、しいなに泣かれるのが一番辛いのよ。」



黒い手袋が、あたしの目元を拭った。


その優しい感触は、間違いなく、本物のアンタのもの。
それを確信した瞬間、あたしはゼロスの胸ぐらをつかんでいた。


「じゃあ、裏切ったりするな…っアンタのせいだ…っ」
「しいな…悪ぃ。」



謝られたって。
あたしが、何の力にもなれなかったのは、事実なんだから。



「嫌だ…っ許さないっ。あたしのとこに戻ってこなきゃ…許してやらない…っ」


もう無我夢中で叫んで。
涙を拭うことも忘れて。


アンタを離すまいと縋りついた。


「!………しいな?」


いつか。
アンタの苦しみを、絶対取りのぞいてみせる。
あたしが神子から解放するって約束してあげる。

だから……だから…。




「…戻って、きておくれよぉ……っ」




いかないで。
いなくならないで。
もう、一人で苦しまないで。

ペテン師になんてならないで。










「……、戻るに…決まってんだろ。」

「……っ」

ゼロスの返事に勢い良く顔をあげて、透き通ったアイスグレーの瞳を覗く。

「しいなにそこまで愛されちゃねぇ。」

その目元は優しく笑っていて。
縋りつくあたしの手をそっと握り締めて。





「…な〜んてね。」

途端、優しい笑顔がいつものふざけた笑顔に変わった。



「ゼロス………?」

「……さっきのはお芝居。どうしてもこれ……アイオニトスが必要だったんだ。俺様の演技も、なかなかだったろ?」



「…………………は?」




………………信じられない言葉が、聞こえた。

¨演技¨、だって?
あれが?



『おまえらがしてることは無駄なんだよ』

『ばっかじゃねーの?』



あたし達に…あたしに冷たく言い放ったあの言葉が………?







「まあ…全部が全部嘘な訳じゃなくて……!?」


ぱあんっ


「いってぇ〜っ!!!!」

薄暗い塔の中に、悲鳴と乾いた音が響き渡る。
気付けば、あたしはアンタの頬を思いっきり叩いていた。



「……馬鹿!!」



力を緩めることも忘れて、何度もゼロスの胸を叩く。



「いて…っしいな…!いてぇって!」

「このペテン師!馬鹿!馬鹿馬鹿っ!!アホ!」



怒りが頂点に達したからか。
……それとも、安心したからか。
涙はさっき以上にこぼれていった。




「ばか…ぁ……っ」



なんて奴だ。
信じられない。



裏切ったことすら、嘘だなんて。
全部、アイツの芝居だったなんて。




「…ごめんな。もう、逃げないから。」
「…ふ……く…っ…ゼロス…っ」

泣きじゃくるあたしの髪を優しく撫でるアンタの手。
その手は、今までふれたことのない、アンタの本当の優しさそのものだった。


「おまえがいてくれれば…俺は大丈夫だから。」


傍にいて。
傍にいさせて。


もう二度と、アンタがこんなことをしなくていいように。

ペテン師になんて、ならなくて済むように。















あたしが知ってるアンタのこと。



お調子者で。
バカで。
アホで。
女好きで。
いっつもへらへらしてて。
ついこの間まで、女や仲間を騙してた、元ペテン師。

でも…、もう苦しみから解放されたから、嘘なんてつかなくても良くなって……………。

「しいな〜っ、俺様しいなのこと愛してるぜ〜っ。」



…………。
やっぱ、訂正。


……………相変わらず、ムカつくほど調子のいいイケ面のペテン師。












-------------------------------------------------------------------------------
むはああああああ。
真輝様との企画第4弾!!!
テーマは「しいなから見たゼロス」です。

・・・ごめんよ真輝どん。
あっしがテーマ決めておきながらえらく難しかったよ・・・。


◇ 砂 ◇