【聖夜 ─2.告白─】





「……きちゃった。」



12月25日。


それはマーテル教で最も大切な……聖なる日。
女神マーテルが世界への想いを胸に秘めたまま亡くなった日。
そのマーテルの想いを後世に残すため…祭りが行なわれるのだという。

その女神マーテルの一途な想いと恋愛感情の一途さをダブらせ、
12月25日に結ばれた恋人達は、必ず幸せになれるというジンクスまでできている。


そんなジンクスを信じるなんて、自分の柄じゃないとも思う。
けれど…あんたのことが大切だと気付いたあの戦いで、女神マーテルの真実の一途さを知ったからこそ。

このジンクスを信じてみようと思った。






「………。」






目の前に見えるはワイルダー家の立派な門。
自分を落ち着かせるなんてらしくない目的で深呼吸をして、その門を見据えた。



─…、大丈夫。



たいしたもんじゃないけど、プレゼントも用意した。
服だって、今日は女らしくワンピースなんて着てみた。
化粧だって、いつもより気合いいれた。


今日、ゼロスに告白するって決めたんだ。
誰よりも大切な人だと。
あなたのことが大好きだと。



あんたが勇気を出したんだから。

あたしだって……─!





一歩。
門に向かって。
ゼロスに向かって。

足を踏み出す。





「ゼロス様〜♪お邪魔しました〜♪」

「おう〜。ハニー達、気を付けて帰るんだぞ〜。プレゼントさんきゅ〜。」




…………!




「……っ」

突然聞こえた甲高い声と、おどけた声に驚き、踏み出したはずの足を後ろへと戻す。





馬鹿。
何隠れたりしてるのさ。



あの女の子達は別にゼロスの彼女でもなんでもない。
それに、悪いことしてるわけじゃないんだから隠れたりしなくていいのに。

けれど驚いたことで竦んでしまった足は、なかなか前に進んではくれない。



「─……。」



ゼロスは女の子達を見送って、しばらく外を眺めていた。

夕焼けで赤く染まりはじめたメルトキオの街。
イルミネーションがぽつり…ぽつりと灯り始めて、段々ゼロスの表情が見えなくなる。



ゼロス。
あんたは…この聖なる夜に何を想っている?


誰のこと…想ってる?




「………こねえな。」




小さく聞こえた言葉。

あんたは…誰を待ってるの?



「─…寒……っ入るか…。」



どこか淋しそうに背中を向け、扉に手を掛ける。



「…ぁ……っ」



今しかない。
ゼロスが外に出ている今しか。



待って。
入らないで。



───……ゼロス!







こつん。


「っ?……!?ひゃあっ!」
「─……!?」



ゼロスを追い掛けようと前へ進めた足は。
…情けないことに小さな段差に見事はまり。





…………あたしは、スカートにもかかわらずコレットに負けないくらい派手に転んでしまった。





「……痛…ぁ…っ」


馬鹿。
馬鹿。

気合い入れてきたのに。
勇気を出したのに。
なんて情けない。
こんなドジするなんて。



「──……しいな?」



さすがにあたしの声だと気付いただろう。
ゼロスの足音が、ゆっくりと外へと向かってくる。

…どうしよう…っ。
こんな情けないところ…見られたくないよ…。



「…い…っ…」



慌てて立ち上がろうとするけれど、その瞬間足首に鈍い痛みが走る。
転ぶとき受け身をとる余裕もなかったし、
久しぶりにヒールなんて履いていたせいか、足首を痛めてしまったようだった。



「──、おいおい…なーにやってんのよ、しいなちゃん。」



あたしは……地面に座り込んだ情けない姿のままゼロスに見つかってしまった……。














「ぷ…っおまえってほんと忍びとは思えねーよなぁ。」
「う…うるさいねぇっ!ほっといてくれっ」
「へーへー。ほら、治してるんだからおとなしくする〜。」

暖かい光があたしの足を包む。
治癒術によって段々痛みと腫れが和らいでいく。


ここはゼロスの屋敷であり、ゼロスの自室。


転んだあと痛みの為立ち上がれなかったあたしははというと。
見事ゼロスに抱き抱えられ、
玄関で主人を待っていたセバスチャンに目撃され、
屋敷のメイド達に注目されながら、
…応接室ではなくゼロスの部屋まで運ばれてしまった。

それだけでも十分恥ずかしいのに…治療のため足に触れる、ゼロスの大きな手。
予想外の出来事に頬も熱を帯びていく一方で、きっと赤く染まっているに違いなかった。



「んで?」
「…?え?」
「なーんであんなとこで転んでんのよ。それに…随分と珍しいじゃない。」


にやにやと笑って、ワンピースを指差す。
不意打ちで核心を突かれてしまって、あたしは顔を更に真っ赤に染めてしまった。


「こ…これは…。」
「今日は特別な日だしねえ〜…誰かとデート?」
「…!あ…あたしにそんな相手なんているわけないだろ?」
「ふーん?そうかね?お前だってそうやってしてりゃ結構いい線いってると思うけど?」
「ば…馬鹿おいいでないよ……。」


そんなこといわれたら余計に緊張してしまう。


「─…じゃあ、なんで?」


いつもならにやにやしたままからかってくるのに
…問い掛けてきたゼロスの表情が、不意に真剣なものに変わって、あたしは俯いてしまう。



そんな…顔しないで。
そんなこと言わないで。
あんたが待ってたのは…きっとあたしじゃない。
他の…貴族とかの綺麗でおしとやかな女の人。



─……こねえな。



ねえ。
あんたの中にいる人は……一体誰?



「…あたしのことなんか気にしてないで、準備したらどうだい?」
「準備?」
「あんた、誰かを待ってたんだろ?さっき門のところで『こない』って言ってたじゃないか……。」




あんたと聖なる夜を過ごす女の人は……誰?







「……へぇ…。」
「な…なんだい。」

あたしの質問に一瞬驚いたような表情をしたかと思えば、なんだか嬉しそうに笑うゼロス。



「そっかそっか〜。…質問の答え、サンキューな。」
「…………は?」



言われたことがわからなくてあたしは間抜けな声をあげてしまった。
だってあたしがゼロスに告げたのは「質問」だったはず。
なのに「答え」って…?


「ゼロス………?」
「ん〜、確かに俺様玄関で『こねえ』って言った。…ってことはさ。」


いつの間にか完全に治った足から手を離し、ゼロスはあたしの顔を覗き込む。


「………しいなは俺様ん家の前で、俺様に話し掛けるタイミングを待ってたってことだ。」

「……!」


図星。


「だってよ、俺様が『こない』って言ったの……しいなが転んだのを発見するより、ちょっと前の話だし。
そうすると、しいなは通りすがりに転んだわけじゃないだろ?」
「ゼロス……!」


ああ。
やっぱあたし馬鹿だ。
大切な日にどうしてこんなドジばっかりするんだろう。


「しいなは俺様に用があったわけだ。………違う?」


あたしを見つめるゼロスの瞳は、笑ってはいるけれどいつもみたいにふざけた顔じゃない。

優しい、瞳。




「……っ」




いつから…あんたそんな優しい目をするようになったのさ。


ずるいってば。
そんなの、反則だよ。





「…………違…わない。」


心臓が煩いくらい音を立てる。
恥ずかしさと緊張で、言葉を紡ぐ唇が震えた。

「ん〜…素直でよろしい。…じゃあ、俺様に用件って、なに?」



ずるい。
ずるいよ。

あたしばっかり問い詰めて。






「──、しいなの口から、ちゃんと聞かせて。」






ほんと、ずるい。

わかってるくせに。







ひとつ。
小さく深呼吸する。

ぎゅっと握り締めた手には無駄な力が入って。
緊張のせいで目も潤んでくるし。



なんて、らしくない。



けれど。
こんな弱虫なあたしが、告白しようと決意できたのは。


あんたがいたから。
あんたが誰よりも大切だから。

幸せに笑うようになったあんたのこと…誰よりも愛しいと思うから。


だから…───。






「……あんたのこと…好き……って……言いに……きた……───。」






勇気を出して。
あんたの目をちゃんと見て。
震える唇だけど…あんたにちゃんと聞こえるように。



…告白、した。




「………っ……。」




─…、ゼロスの返事は?



しかしゼロスは時が止まったかのように、動かなくなってしまった。
あたしはただひたすら返事を待つことしかできないから、俯いてぎゅっと目を閉じる。





お願い。
なんか言って。











「──っ、!?」


一瞬。


何が起こったのかわからなかった。



あたしの目の前で赤い髪がふわりと揺れて。
妙に心地いい温もりに包まれている…そう思って。


そこではじめて抱き締められているという現状に行き当たった。



「!?…ゼロス…?」



驚いた拍子に逃れようとしたあたしの体は、更に強い力で締め付けられてしまった。



「ね…ねえ…ゼロ…──」
「──、しいな。今年の聖夜は…特別なんだぜ?」 


あたしの言葉を遮って、ゼロスが囁く。
近すぎる声が、耳を擽る。



「今年は、世界が統合されて…大切な仲間に巡り合って…。」


長い指があたしの髪をゆっくりと梳く。


「セレスが解放されて…、身分差別も和らいで…。…それに……───」


そのままゆっくりと体を離し、重なった視線。





その瞳が…やっぱりずるいくらいに優しくて。





見惚れている一瞬の隙。





「……!」





ゆっくりと、重ね合わされた唇。




「………ぁ………。」

「…今、しいなが隣にいてくれるから。」

「…っゼロス…」







窓から見える、イルミネーション。
貴族街から、貧民街まで延びた、あんたの想い。



その優しい光に包まれながら、照れたように笑ったあんたからのプレゼントは、



「おまえが来るのを…待ってたんだよ。」



………ひどく甘い、告白の言葉だった。











12月25日に結ばれた恋人達は、必ず幸せになれるというジンクス。

あんたとなら平気。
絶対に、幸せになれる。





今年の聖夜は…いつもとは違う。


大好きなあんたと過ごす、……特別な聖夜………────。








END



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連載といっておきながら2話で終わってしまいました…。スミマセン。
クリスマス企画なので思いっきり甘くしました。うひひ。
ワンピははたまた趣味です。(←おい)

クリスマス小説は1、2話ともお約束どおり真輝さまに捧げます。
日頃のお詫びです。。。゛(/><)/
いつも迷惑かけてありがとう(←日本語変

◇ 砂 ◇