【誓い…?】






部屋の片隅で楽しそうな声があがる。




もう夜も遅いというのに一向に寝る様子を見せない女性達の会話は、既に1時間以上も続いていた。
内容はというと…年齢差に関係せず、多くの女性が共感できるものだ。

そうなれば、男性がその輪の中に入っていくにはそれなりの覚悟と知識が必要なわけで、
そういった知識を踏まえていない男性…或いは輪に入る気のない男性、
そして私は、その輪を眺めているしかなかった。



「女の子ってやっぱりあーゆーのに興味があるもんなんだな。」
「そうだね。プレセアはあんまり興味なさそうに見えたし…姉さんの口からも聞いたことないけど…。」

意外だといいたげなロイドとジーニアスの言葉。
博識とはいえまだ幼いジーニアスと、女性心にかなり疎いロイドにはわからないのだろう。

「…女性は皆、宝石に憧れに似た思いを見出だす。
宝石は恋人からの贈り物としても定番で、特別な意味を持つからな。」
「特別な意味?」
「そうだ。」

テセアラでは恋人同士の愛の証としたり、結婚式で誓いの品として交換をしたりする風習がある。

「…シルヴァラントでは結婚式などでは何を誓いの品として扱うのだ?」
「誓いの品?結婚式ってなんか渡すもんなのか?」
「…シルヴァラントにはそのような文化がないのか。」
「テセアラはものを渡す習慣があるんだね。
互いの家系の交流を表すための物々交換みたいなものなのかな?」
「いや…家系のためではなく…互いの絆を深めるために…」

女性の熱が引火したのか、目を輝かせるジーニアスとロイドに、
テセアラの恋愛文化を説明し始めようと思ったとき。



「やっぱりコレットにはアクアマリンが似合うね。なんか洗練された乙女って感じがするよ。」

一際明るい声があがる。
声の主はしいなだ。
しいなの自信有りげな主張にコレットは白い頬を桃色に染めて嬉しそうに笑っている。

「そ…そうかな?なんか恥ずかしいよ〜。」
「とてもよく似合っていてよ。…プレセアは透き通った色よりオパールのような淡く優しい色が似合うのね。素敵だわ。」
「そうですか?…ありがとうございます。嬉しいです。」

石を触りながら、滅多に笑顔を見せないプレセアが微笑む。



今目の前の女性達が付けては外し、様々な色合いを楽しんでいるのは「指輪」だ。
指輪はアクセサリーの中でも特別な意味を持つ。
常に身につけることができるという点から、テセアラでは結婚式で誓いの品として用いられることが多く、夫婦の愛の象徴となっている。
シルヴァラントではそのような文化はないらしいが、コレットやリフィルを見ているかぎりでは憧れの品であるようだ。


それだけではなく、指輪に施された装飾の宝石の種類によってもその意味は変わってくる。
例えば、宝石に様々な種類があるのは精霊の役割によってその姿形が変わったからであると伝えられており、
それぞれの石が精霊の思いを象徴していると言われている。

様々な色とカットが生みだす幻想的な光と、精霊にまつわるエピソードに、メンバーの女性達も虜になっているようだった。



「そうだねえ……リフィルにはガーネットが似合うね。薄い色合いよりもガーネットみたいに情熱的な色のほうが銀髪に映えるし。」
「あら、それをいうならしいな、あなただって………。」


飽きもせず、女性達の会話は弾む。
この様子では当分続くのだろう。






「ただいまぁ〜っ!……ってなにやってんだぁ?」






そんな会話の流れを唯一遮ったのは……情報収集と称し夜遊びに出掛けていた、
メンバー随一女性心に詳しい……と主張するテセアラの神子だった。

突然あけられた入り口に、弾んでいた会話がぴたりと止まり、女性達の視線は神子へと集中した。


「おかえりゼロス。」
「随分と時間のかかる情報収集ね。」


向けられた視線は女性心を知っている割に、冷たいものだった。
出掛けてから既に5時間以上経過いるのだから無理もない。
リフィルが叱咤するが、それでも神子は対して気にしていない様子だ。


「まぁまぁ〜。それより指輪広げてなにしてんの?」
「あんたには関係ないよ。あっちいきな。」


楽しんでいたところを遮られたからか、それとも他に原因があるのか、機嫌が悪そうにしいなが神子を追い払う。

「なんだよ〜!冷血鬼女!俺様も仲間にいれてくれたっていいだろ〜?」
「どうせ今日もどっかの女の移り香がするくせに。冗談じゃないよ。」
「しねえって!今日はマジだぜ!?」

日頃の行いが悪いせいだろう…否定したところで誰も信じはしないのだが、神子は声をはりあげた。

「じゃ〜証明してやるよ〜。」
「は?」

むっとした表情の神子は何を思いついたのか、途端悪戯を楽しむ子供のような表情をした。

疑問を浮かべたしいなの問いに答えることもなく。




神子は背中からしいなに抱きついた。




「きゃああっ!何すんだい!」
「こーすれば嫌でも匂いわかるっしょ〜?俺様女の香水の香りなんてしないっしょ〜?」
「わ…わかったよ!わかったから離れな!」


いつも年齢の割に随分と恋愛に不慣れな反応を見せるしいなは、
今日もまた頬を真っ赤に染めて必死で神子の腕を払おうと試みる。





通常であればここでしいなの鉄拳が入り、しいなは神子の腕から解放される。

それはしいなにとって逃げ道であると同時に、神子にとっても逃げ道であることに私は気付いていた。

避けられる鉄拳を敢えて受ける行為……それは、しいなとつかず離れずの関係を保っていたいという神子の心境。
深入りすることで傷つけることがあるとわかっているが…この関係を手放すこともできない。
神子ゼロスという人間の過去を知っている者から見れば、実にこの青年らしい行動だ。



……しかし。



「ゼロス!は…離してってば!」
「ま〜ま〜いいじゃねえの。それより指輪広げて何話してたのか聞いてんのよ。」


今日の神子はいつもと違った。
しいなを腕の中から解放することなく、会話を続ける。

「今はしいなさんに似合う宝石についてお話をするところです。」

プレセアがそう話すと神子は嬉しそうに笑い、さらに強くしいなを抱き締める。

「しいなに宝石〜?宝石が驚いて逃げちまうぜ?」
「あ…んた!殴るよ!」

そんな悪口ですら神子なりの愛情表現なのだが、いつもその悪口に本気になるしいな。
神子は明らかにその純粋さを楽しんでいるが、そんなことに気付かないしいなはさらに抵抗を強めた。

「離せってば!馬鹿!アホ神子!」
「はいは〜い。じゃあ俺様がしいなに似合う宝石の指輪を選んでやるぜ〜?」




ほんの一瞬だけ、


神子が真剣な瞳を見せた。
何か、決意のようなものさえ感じられるような……。



神子は覆い被さったまま暴れるしいなの手を掴み、しっかりと固定して、






…左手の薬指に『指輪』をはめた。






「………!」
「頑丈なしいなに似合うのはやっぱ頑丈なダイヤモンドしかないっしょ!オリジンさまさまだぜ〜。」
「あ…あんた…っ!」


その指に指輪をはめる意味と、対する神子の暴言に混乱したしいなは。



「ば…馬鹿ぁ!!」



思いきり神子を突き飛ばした。

「いってぇ!」
「こんな…こんなこと…!どうせ誰にでもこんなことしてるんだろ!?」
「な…何言ってんだよ〜!しいなが初めて…」
「あ…あたしは信じないからね!こんな口説きになんてのらないよ!」
「しいなぁ〜信じてくれよ〜」


顔を真っ赤にして怒鳴るしいなに諦めもせず神子は再度抱きついた。


再びしいなから悲鳴があがるのを見つめていると、ロイドとコレットが興味深気に私に近寄ってきた。

「あの…、リーガルさん。どうしてしいなは指輪をはめられただけであんなに怒ってるんでしょうか?」
「ああ…。男性が女性の左手の薬指に指輪をはめる行為は、テセアラでは将来を約束することを意味する。
特にダイヤモンドの指輪は一番人気だ。」

私の言葉に感心したように二人は声をあわせ頷いた。

「じゃあゼロスはしいなに求婚したのか?」
「まあ…行為だけを見ればそうなるな。あとは気持ちの問題だが………。
……もう夜も遅い。明日に備えて寝るぞ。」


あまり長く説明すると二人の騒ぎを煽ることになると判断し、話をそらした。

「はーい。」

相変わらず騒いでいる二人を放って、メンバーは眠る準備を始める。








「…ほんと、しいなにはダイヤモンドがお似合いね。」


ぼんやりと二人を見つめていた私の隣で、リフィルが告げた。


その言葉が表す真の意味を理解し、私は思わずくすりと笑う。


「ああ。しいなには『あの』ダイヤモンドの指輪が相応しい。」
「そうね。……………それにしても、いつ気付くかしら。」


手のひらで転がしていた『指輪』を私に手渡し、リフィルもくすりと笑った。





相変わらず騒いでいる二人。

いつになくしつこい神子の態度にうんざりとた表情を浮かべてこそいるが、
しいなの頬は彼女の気持ちを表すように桃色に染まっている。



…神子の決意も無駄ではなかったようだ。



「………まだ時間がかかりそうだが、心配はいらないだろう。神子の思いは必ず報われる。」



私は受け取った『指輪』……オリジンから授かった『ダイヤモンドの指輪』を道具袋へと戻した。






……しいなの指にぴたりとはまった、『ダイヤモンドの指輪』を見つめながら。









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初試み!リーガル視点!こわ!こわー!!
難しいよこの人!!
しかし、真輝さま。アクセサリーとは難しいお題を出していただきありがとうございます。
今までのお題の中で一番苦労しました…。

リーガル視点で書いていたらやたら説明文ぽくなった…気がする。

自分の指輪が普段と違うものだと、しいなはいつ気づくでしょうか。

◇ 砂 ◇