【捕われの姫君・・・?】
あるところに気も力も強くて、けれどとってもドジなお姫様がおりましたとさ……なーんて出だしが似合うだろうか。
いいや…そうなると王子様が助けに来るシチュエーションになるんだろうけど…そんなの似合いっこない。
第一助けを待ってるなんてあたしらしくないんだよ……どうせ「怪力女」とか「鬼女」とか言われてる身だし。
自分で抜け出そう。
いつもそうだったし…今回もきっとそう。
…しかし、そんな決意は虚しく、事態はあたしの予想よりもかなり早く、悪化してしまったようだ。
…ひょっとすると、ピンチ…ってやつだろうか。
薄暗い研究室。
静かな部屋に、低い機械音と高い金属音だけが響く。
ドジった。
こんなのに捕まるなんて…ほんと情けない。
あたしの心境を読み取ったのか、静かな部屋に声が響き渡る。
「…恨むならシルヴァラントの神子を庇った、お人よしな自分を恨みな、召喚士のお嬢さん。」
弱者と判断した者を罵る、そんな意地悪い音色を含んだ声。
あたしを容易に捕獲できたことで調子に乗っている…
自分を強者だと思い込んでいる奴に見下されるなんて、納得がいかない。
あたしは仲間には絶対に見せないきつい視線を男に送った。
「…気安く触るんじゃないよ。」
「おやおや…気の強いお嬢さんだ。」
あたしの顎を掴んでいる男から笑みは消えない……、
それはどうやっても今の現状から逃れられないと思っているからだろう。
確かに、腕はぎっちりと金具で固定されていて、普通の人間では簡単には外せそうにない。
けれど、ここで大人しくしてるわけにはいかない。
あたしはミズホの隠密、しかも次期頭領なんて立場に立っている人間だ。
こんな拘束くらい外せなくてどうするっていうんだ。
腕にはめられた拘束具は簡単な作りのようだし…こいつらの隙を見つけて外しちまえば……。
その時だった。
「例の物を取り付けろ。」
「は。」
偉そうな男の声をきっかけに、周りにいた男達…おそらくこの男の部下だろう人物達が、一斉に敬礼をした。
例の物……?
「な、なにするってのさ。」
予想外の展開にあたしは僅かに動揺してしまった。
コレットを庇って捕らえられたあたし。
そもそものこいつらの目的はコレットだったわけだし…ただの捕虜のあたしに、一体何をするつもりなのか。
…そんなあたしの疑問を知ってか知らずか…周りの男達は長いコードが繋がった装置をあたしの体に取り付けていく。
「ちょ…!どこ触ってんのさ!スケベ!」
「その達者な口、いつまで続くかな。」
「あのねぇ!言っとくけどあたしを傷つけてそれを餌にコレット達をおびき出そうとしたって無駄だよ?
あたしの仲間はそこまで馬鹿じゃないからね。」
コレットを狙って来た敵のところに、コレットを連れて来る訳がない。
幸いなことにあたしたちのメンバーは実力者が多いから、コレットは戦闘メンバーから外して、誰かガードをつけておくはず。
しかし。
「は…ははっ!」
そんなあたしの考えを、目の前の男は笑い飛ばしてみせた。
「な…なにがおかしいのさっ!」
馬鹿にされた気がしてカッとなったあたしは男に噛み付くかのように声を荒げたが、
男はその反応すら楽しむかのようにあたしの顎をがっちりと固定して、瞳を覗き込んできた。
「まだ気がつかないのか。」
「何を……──!痛っ…!」
頬に男の指が食い込む。
その力の強さと、男の言葉の奇妙さに眉をしかめると……
あたしにとって信じられない言葉が、イヤらしさを含んだ笑みとともに男の口から発せられた。
「我々の目的は…、お嬢さん、君なんだよ。」
……は…?
「シルヴァラントの神子を狙ったと見せ掛けて、君が神子を助けるのを待っていたんだ。
…こうも簡単にひっかかってくれるとは思わなかったけどね。」
な…んだって……?
「我々の目的は強力なマナの持ち主を探し出し、研究に協力をしてもらうこと。
君が世界唯一の召喚士で、この世界全ての精霊と契約していることは、メルトキオの精霊研究所のデータから調査済みだ。」
「じゃ、じゃあこの装置は……───」
長いコード。
その先には、丸い硝子でできた入れ物のようなものがあって…
仕組みはよくわからないけど、電流のようなものがぱちぱちと音を立てている。
なんか…見るからに痛そうな……嫌な感じのそれは。
「あたしのマナを…吸い取る機械ってこと…?」
「ご名答。…おい、スイッチを入れろ。」
…こりゃあやばい。
こんなの使われたら逃げ出すよりもくたばるほうが早そうじゃないか。
まさかあたしみたいなのが狙われるなんて。
しかも…逃げられそうにない状況。
これじゃ本当に、王子様に助け出されるのを待ってるお姫様じゃないか。
そう考えて、あたしは思わず想像してしまった。
きらびやかに着飾った自分の姿を。
うわ…、似合わな…。
「ちょ…ちょっと…!」
電流の量が増えていく。
これじゃ吸い取るどころか…命すらまずいんじゃ…。
「あ…あたしが死んだらマナの吸収かできなくなるんじゃないのかい!?」
「何を言っている。こんなに可愛い研究材料を簡単に殺したりするものか。」
「か…可愛い…!?ふざけるんじゃないよ!」
慌てるあたしの反応を面白がる男は、頬を一撫でしてから離れていく。
それは、そろそろあの電流が放出されるという合図なのだろう。
「死にはしない、安心しろ。」
「あ…安心なんてできるか!………ちょっとま…っ!!?きゃああっ!」
途端、装置から溢れ出した電流があたしの体に流れ込む。
びくんと大きく衝撃が走った後、あたしの中を駆け巡ったそれは、マナを奪い去ってもとの装置に戻っていった。
単純な仕組み…その分奪われる側には相当な負担がかかる。
現にあたしの体には悲鳴をあげてしまうほどの激痛が走って、ショックのあまり自然と目に涙が溜まった。
「ふ…これだけ奪ってもまだ意識があるか。」
「…く…ぅ…っ…うぁぁ…!」
痛みは和らぐ事なく続く。
手にも足にも力をいれることなんて出来なくて……さっきの決意はあっさりと無効化してしまった。
だから…助けてもらう柄なんかじゃないんだよ、あたしは。
どうせ「怪力女」とか「鬼女」とか言われてる身だし。
王子様に助けられるお姫様なんてのはあたしには似合いっこないんだって。
でも。
でも。
さすがにこれは…王子様に助けを求めないと…マズイ…かも。
「う、あ……っ」
「気丈なお嬢さんを泣かせてしまうのは申し訳ない。…しかし、こうやって苦しむ姿というのは年の割に色気があっていいものだな。」
「へ…んた…い…っ!」
膨大な量のマナを吸い取られて…だんだん目の前が霞んできた。
涙は堪えることもできずに頬を滑り落ちていく。
「口答えできるのはまだまだ元気な証拠だ。…もっとマナを吸い取れ。精霊を操れるだけの力を持っているのだ…質も、量も最高だろう。」
「!……やあぁ!う…ぁぁ!」
体の中のものを全て奪われていくようだ。
同時に激しくなっていく眩暈に耐えられなくて、あたしはぎゅ、と目を閉じる。
痛い…!
誰か…!
「…これくらいでいいだろう、一度止めてやれ。」
「……ぁ…う…っ!」
急に電流の衝撃がなくなって、あたしは力無く俯く。
体が重い。
ヒリヒリと痛みが残る。
ところどころ火傷のように赤くなっていて、服からは焦げたような臭いがした。
ぼんやりとする意識。
助けにきてもらえなければ、こんなことが明日も…明後日も続くのだろうか。
「……や…めて……。」
「おや…さっきまでの勇ましさはどこへいったかな。」
触れる男を睨み付けることもかなわない。
たった一度の吸収で、あたしのマナはほとんど空になってしまった。
「ふ…さすがにもう抵抗する力もないか。こうなってしまえば召喚士と言えどもただの女だな。」
男の手が、再びあたしの頬を一撫でして……そのまま、髪へと差し込まれる。
痛い。
苦しい。
こんな男に触られて……気持ち悪いよ。
……助けて。
強く願って、仲間の顔を思い浮かべる。
コレットは、きっと悲しんでるだろうな。
自分のせいだって泣いてるだろう。
…そして、そんなコレットの側には……コレットの王子様…ロイドが寄り添っているに違いない。
…ゼロスは…どうしてるかな。
「マヌケな奴だなぁ」なんて言ってるだろうか。
あいつのことだからあたしを探すことをめんどくさがって、文句の一つや二つ、言って……。
──…ううん、きっと違う。
“お前たちの居場所くらい、俺がなんとかしてやる”
ゼロスは、おちゃらけて見えるけど、いつだって…あたしのこと一番心配してくれてた。
あたしの小さな変化に気付いてくれてたのも…いつもゼロスだったじゃないか。
だから、今回もきっとそう。
探し出してくれる。
あたしのこと、助けてくれる。
「爆乳は無事か〜?」なんて、余計な一言を言うかもしれないけど。
あんたの笑顔がみたい。
あんたのとこに帰りたい。
「ふ…毎日の実験の後は、こうして可愛がってやる。悪い話じゃないだろう?」
「ぃ…や…っ」
助けて。
助けて、ゼロス……───!
「──…!」
「──っ!」
不意に、部屋の外が騒がしくなる。
「何事だ!?」
「……?」
「───っ!サンダーブレード!」
「うわぁ!」
「ぎゃああ!」
「─!まさか、神子がもう…!?」
「っ!ぁ…ぅ…!」
予想もしなかった事態に、男はあたしを突き放して、扉へと向き直る。
それと同時に激しい音を立てて、ドアが突き破られた。
霞んだ視界に映ったのは、赤い、柔らかな髪。
炎の様に揺れる、その赤は。
「……ゼ、ロス……。」
「しいな!」
やっぱりだ。
真剣な声。
真剣な表情。
あんたは、あたしのことを心配してくれてたんだ。
助けに、来てくれたんだ…───。
「…てめぇ…ただじゃすまさねえぞ。」
あたしを見てゼロスの怒りが増したのがわかる。
魔法剣士でありマナの神子であるゼロスには、あたしのマナがほとんど残っていないことくらいすぐにわかったのだろう。
それに加えて、さっき乱暴に扱われたせいで、髪の結いは乱れ気味。
…あたしがどういう扱いを受けたか、気がつかない訳がない。
「み…神子!どうやってこの場所を…!」
「おーおー。有りがちな台詞吐いてくれちゃって。」
ちゃり、と音がして剣先が男を捉らえた。
「そうだなぁ…強いていえば…愛ってところかなぁ。正義と愛は必ず勝つ!ってどっかの熱血野郎がいってたもんな。」
「ふ…ふざけるな!」
「あ?俺様ふざけてねーっつーの。」
ぼんやりとしたままゼロスを見ていたあたしの視線が、あたしを見つめ返したゼロスの視線と絡む。
そのままゼロスは、あたしに向かって優しく微笑んだ。
「気持ちってのは離れてても届くもんなんだよ。特に俺様としいなは愛し合ってるからなぁ〜。」
「ばか…いってんじゃないよ…アホ神子。」
「馬鹿とかいうなよ〜っつれねーなぁ。」
一言文句を言ったゼロスの声が、思ったよりも優しくて、あたしはほんの少し笑った。
「待ってろよ、お姫様。今、助けてやるからな。」
「…早めに…、頼むよ…王子様。」
なんだ。
似合わないと思ってたけど、そうでもないじゃないか。
あんたみたいな馬鹿で、アホな王子に助けられるドジな姫。
あたしにしか似合わない役だ。
マヌケな悪役とアホな王子の対決は、圧倒的に王子の勝ちに終わる。
悪役はというと、ほんと情けないことにあっという間に逃げていっちまったようだ。
「よ〜し、帰るか。」
「ま…まっとくれ。」
「どうしたよ?マナ分けたんだし、歩けるだろ?」
「…それが…ショックで腰が抜けてて…立てないみたい…。」
その言葉がアホな王子のスケベ心をどれだけ擽ってしまったか、後悔するのはすぐ後の話。
そうして『しいな姫』は…恥ずかしいことに『ゼロス王子』に抱えられて仲間の元へ帰還する羽目になったとさ。
…まあ、今日だけは王子がかっこよく見えたから…よしとするか。
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書きたかったんですよ(突然何)
セクハラなおっさんにしいなちゃんがいぢめられてるのをかっこよく助けるゼロス君が。
(ああ、そう)
真輝どん、お題難しいよ・・・(T.T)
今回は相当悩みました・・・。
いろいろパターンは悩みましたが撃沈の結果セクハラに。(まて)
次も頑張ろうね、真輝どん。(;°°)
◇ 砂 ◇