【弱さ】






ねえ。



もう少しでいいから。








「─しいな、風邪を引く。」


声が聞こえ、肩から上着を一枚かけられるまで、あたしは気配にも気づかなかった。


「ん…。ありがと。」


振り向きもせず、ポツリと礼を呟く。
感謝はしていたけど、今のあたしは、作り笑いもできない。



ただぼんやりと、海を見つめて。

さらさらと波にさらわれていく砂を眺めて。



そんなことをしている間に、いつの間にか数時間経過したんだろうか。
景色は夕暮れへと変わっていた。



真っ赤な空。
橙色の波がきらきら光ってる。



「しいな、帰ろう?」



聞こえているはずなのに、その言葉は、あたしの胸には響かない。



ただぼんやりと、沈む夕日の赤に想いを重ねて。
重ねても届かない赤に、胸が苦しくなって。
苦しいなら、帰れば良いのに、それでも赤が愛しくて。


結局この場を離れられない。



「しいな。」


珍しく少しだけ、苛立った口調。



そっと目を閉じる。



待って。
まだ、駄目なんだ。



「…急がなくちゃ、だめかい?」
「もう夕暮れだ、さすがに頭領も心配なさってる。」

「…違う、そうじゃなくて。」



そうじゃない。
苛立ちが意味するものは、『時刻』じゃない。





「あたしは、あいつの死から、急いで立ち直らなくちゃだめかい?おろち。」





いつもは穏やかな顔が、瞬時に強張った。



「…俺は、…。」
「…ごめん、責めたね。…忘れて。」
「いや…。」



気まずそうな声。



「…しいな。」
「まだ、無理だよ…
──────。」



だって、こんなにもあいつの存在が大きいのに。









あたしは、弱くなった。


あいつがいた頃。
あたしは、あいつがいれば何でもできる気がして。
泣いても、怒っても。
すぐに笑えていたのに。
前に、踏み出せていたのに。



あいつがいなくなって。



あいつを探して。
いつも振り返ってばかりで。

前に踏み出すことが怖くなって。



泣けなくなって。
怒れなくなって。
笑えなくなって。



ちょうど一年前のあの日。
あいつの鼓動が止まったときから。




あたしの鼓動も止まってるんだ。





歩き出せば、そのうち時間が癒してくれるという。
いつまでも落ち込んでないで、前に踏み出さなきゃいけないという。




そんなこと、わかりきってる。



でも、あたしは。

まだしばらくは、あいつのこと、考えていたいんだ。
あいつのこと考えてやりたいんだ。





だから。



もう少しでいいから。





弱いままのあたしでいさせて…
───────────






------------------------------------------------
密かにゼロしい←おろち。
ゼロスの死から立ち直れないしいなに苛立つおろち。
しかし、暗い。
最近こんなのばっかりですね、
ラブラブが書きたい…。
さらっと書き流した即興小説なので、
文体変でも(いつも変ですが)見逃してください(汗

※ちなみにゼロス君命日の設定です。

◇ 砂 ◇