ESSAY 2
角川書店「野性時代」新・東京百景 1992年 5月号
イラストレーターの視点で東京を描くページにエッセイを書きました。
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角川書店「野性時代」1992/5月号 目次
新・東京百景 − 乗り換え駅の池袋
鈴木博美
所沢市民の私にとって身近な東京と言えば、やはり、池袋でしょう。思えば小さな頃、家族で出掛ければ、西武デパートのファミリー・レストランでパフェを食べるのが楽しみだったし、中学生の頃は、東池袋にある予備校の模擬試験の帰りに友達と映画館へ寄り道するのが、月に一度の喜びでした。
その頃のお気に入りの映画館、文芸坐は、入場料300円でアメリカン・ニューシネマの名作などが見られました。何事にも影響を受けやすかった十代の私は、すべての映画に感動し、映画館の扉を開けて外に飛び出すと、池袋のごみごみした夕暮の風景は、頭の中でニューヨークの映像へとフェイド・インして目の前のポルノ・ショップやゲームセンターに出入りするレニー・ブルースや「真夜中のカーボーイ」で、ダスティン・ホフマン演ずる、ラッツォの姿が現れました。
何年かして、社会人になって、某生命保険会社・池袋支店の受付OLになり、毎日何十人もの、現実を生きる人々を目の当たりにすると、想像力ばかりがたくましかった私も、ある程度は大人になりました。
池袋は、特に好きな街ではないけれど、現在の私の為にいくつかの引き出しを作ってくれた様に思います。本物のN.Yへ行くのも夢ではなくなり、かつて見た幻影も紙の上で創造できる仕事についた今では、ただの乗り換え駅となってしまいましたが、それでも、時々、胸を切なくさせるニクイ街なのです。
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