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よく写る「アグファのカメラ」紹介(1996年秋 伊勢丹)

  前回の早川通信では、よく写る二眼レフとして世界的に有名で人気が高いローライフレックスについて、戦後のモデルを中心としたカメラの選び方や使い方を簡単に紹介した。今回は、世界的に人気薄で日本ではカメラ雑誌に登場することもほとんどなく、中古カメラ店でもあまり目にすることのないアグファのカメラ群の中で、35mmフイルムを使う戦後の代表的なカメラを2機種ご紹介することにした。というのは、今からご紹介するアグファのカメラはいずれもたいへんによく写り、写真作品制作に現在でも十分通用するものでありながら、人気がないため安価に入手することができることがおもしろいと思うからである。

  食事と同じで高いお金を払えば良いものが手にはいるのはあたりまえで、それでは芸がなさすぎると思う人には格好の選択となる素敵なカメラ達である。いやむしろクラシックカメラは希少性などの要素が価格決定に大きく影響を与えるので、高いカメラが必ずしもよく写るとは限らないことは、この早川通信を手にされるレベルの方にはあらためて説明する必要はないと思う。クラシックカメラの中には、今回のアグファのカメラのように、機能的、性能的にはとても良くできているのに、どういうわけか日の目をみないカメラがたくさんある。そうしたよく写るカメラを自らの手で発掘して、作品制作に使うというのは実に痛快であるし、ほかの人には撮れない写真をものにすることができるかもしない。こうした積極性をお持ちの方には、ぜひご紹介するアグファのカメラを手にしていただきたいと願う次第である。

0.アグファのカメラとは
  今回紹介するアグファ(Agfa)のカメラとは、ドイツの総合写真メーカー アグファ社が第二次世界大戦前から製造していたカメラ群である。アグファ社は1867年に創立され、カラーフィルム技術の先駆者として有名である。世界初の多層発色内式反転フィルム(つまりコダクローム以外のすべてのリバーサルフィルムの基本的方式)アグファカラー・ノイを1936年に発売、同じ年にこれまた世界初のネガからポジカラープリントを得る写真方式(内式多層ネガ・ポジカラー写真プロセス)を開発、1939年からアグファカラーネガフィルムを販売した。参考までに世界初の多層発色外式反転フィルム コダックのコダクロームは1935年に実用化されたが、アグファカラーネガと同じ方式のコダカラーは1942年である。このようにアグファ社はカラー写真の分野では、実に偉大な功績を残しているわけで、写真に関心がある人ならアグファの名を知らないと言うことは実は恥ずかしいことなのである。

  アグファ社は現在、アグファ・ゲバルト(Agfa‐Gevaert)社となっており、ヨーロッパ有数の大企業である。これはアグファ社と,1894年創立のベルギーのゲバルト写真製造社が1964年に事業を統合し,レバークーゼンに本社を置くアグファ・ゲバルト社(ドイツ)とアントワープに本社を置くアグファ・ゲバルト社(ベルギー)が設立されたことによる。事実上の合併であるが,ベルギーでは外国企業との合併が禁止されているため、ふたつの合弁企業が設立された。事業の主力は写真フィルムであるが,カセットテープ,ビデオテープ,複写機等多様な製品を生産している。アグファのフィルムは日本では一般に手に入りにくいが、一部のフイルムが輸入されており量販店やOEM用途で別ブランドで市販されている。

  さて、アグファのカメラであるが、コダックを始めとした他のフィルムメーカー同様、自社のフィルムの消費拡大をはかるために製造が開始されたと考えられる。したがってそのカメラ群は、大部分が一般大衆向けの普及機クラスのカメラである。またシステムカメラとして展開する高級一眼レフは、最後まで開発されなかった。アグファがカメラ製造から撤退したのは1982年と比較的に遅いが、その多くは初心者向けに押せば写るという本当に簡単なカメラしか製造しなかったのは残念なことである。

  アグファのカメラは、一般的な135サイズ(35mm、ライカ判)と中判120サイズのフイルムを使用するものがほとんどであるが、一部独自に展開したアグファ・ラピードシステムというフィルムの簡単装てんを目的にしたカートリッジ式のフィルムを使うカメラ群が存在する。このラピードシステムのカメラは、今ではフィルムの入手が困難なので作品制作には不向きで、純然たるコレクション用途となる。今回ご紹介するカメラは、135サイズのものなので、ふつうに撮影に使用することができるのでこの点の心配は無用である。

  余談になるが、最近はクラシックカメラのブームと言われているが、ライカを中心とした特定のカメラに人気が集中し、雑誌や本でもこうしたカメラの記事ばかりが取り上げられることとなるため、日の当たらない大多数のカメラは昔と変わらず冷遇されているようである。こうしたカメラの良さを知っている中古カメラ店では、人気機種ばかりではなくこうした地味なカメラを品揃えするように努力している。しかし、訪れる人に知識が不足しているためか、こうしたカメラを見てもまったく興味を示さないか、きっとフィルムがないから撮影には使えないだろうなどと言って手にとろうともしないという話をカメラ店から聞く。これは非常に残念なことである。日本人は特にみんなと同じ物を持ちたがり、それもその中でも少しでもグレードの高いもの、高価なものを狙って他者より優位にたとうという変な癖を持っている人が多いようであるが、自らの力で良いカメラを探すことができる本当のパワーコレクターが増えることを願ってやまない。

  さて、今回とりあげるのは次の2機種である。年代はいずれも1950年代で、ドイツのカメラの全盛期の時代のものである。アグファの中では高級な部類のカメラで、大変に良く写る。それぞれの特徴、使い方などについては、それぞれの項目で紹介する。

・カラート4型 (Agfa Karat IV) ライカ判、35mmフィルム使用(下右)
・アンビジレッテ(Agfa Ambi Sillete) ライカ判、35mmフィルム使用

1.カラート4型(Agfa Karat IV)
  カラートはアグファのカメラの中では、良く知られているシリーズである。最初は戦前の1938年に、3群4枚テッサー型のゾリナー(Solinar)5cmf3.5、オッパール(Oppar)5.5cmf4.5、3群3枚トリプレット型のイゲスタール(Igestar)5cmf6.3付のカラート6.3という3種の異なる明るさのレンズがついたカメラ群として登場した。カラートの形態は、蛇腹折り畳みレンズシャッター付レンズ固定式35mmであるが、まだ連動距離計は装備されていない。つまり当時からフィルムメーカとしても強力なライバルであるドイツ・コダックの、有名なレチナ(Retina)シリーズに対抗したカメラであるとみなすことができる。レチナと異なる点は、レチナが折り畳むと蓋が被さってレンズやシャッターを保護するようになっているのに対し、カラートはレンズ、シャッターが取り付けられた前板部がそのままカメラボディにひっこむ形で収納されることである。したがって、レンズキャップは必須である。最初のレチナ117型は1934年にシュナイダーのクセナー(Xenar)5cmf3.5付で発売されたが、カラートはそれに遅れること4年で登場したわけである。シャッターは上級機はコンパー系が、普及機にはプロントが使われた。なお、戦前のカラートは、アグファの12枚撮り専用フィルム・カートリッジを使用する。

  自社製の優秀なレンズ エクター(Ektar)がありながらもシュナイダーや、カールツァイス・イエナ、ローデンシュトックなどの有名レンズメーカー製のレンズを売り物にしていたレチナと同様、カラートシリーズは戦後になってシュナイダーのクセノン(Xenon)50mmf2、ローデンシュトックのヘリゴン(Heligon)50mmf2付の最高級モデルを1949年に登場させた。これがカラート36である。36という名のとおり、このモデルからは通常のパトローネが使用でき最大36枚撮影できるようになっている。これに先立つ戦後間もない1947年にカラートが復活しているが、そのモデル カラート2.8から連動距離計が装備された。このカメラのレンズはシュナイダーのクセナー5cmf2.8である。シャッターは2.8がコンパーラピッドで、36はシンクロコンパーとなりフラッシュが使用可能となった。なお、48年には12枚専用カートリッジを使用するカラート12/2.8が登場している。

  カラート2.8や36の連動距離計は、独特の形態をしている。カメラの前部を見ると互い違いに上下にずれた2つの細長いガラス窓がある。つまりカラートの連動距離計は、一般的な二重像合致ではなくて上下像のずれを合致させることで行う方式を採用しているのである。同様のタイプの距離計を装備したカメラは非常に数が少なく、例えばアメリカの有名なステレオカメラ、リアリスト(Realist)がこの方式である。カラートは、リアリストとは異なって視野を決めるファインダーと距離計が一体になった一眼式となっている。この方式は上下像のずれを検出するので、二重像式に比べて検出感度が高い点は有利であるが、上下像が正確に重なるように調整できていないと見た目に気持ちが悪い。またファインダーとしてみた場合、視野が上下に2つに分かれているために、大きく距離がずれている時には視野の正確な確認が即座には難しいなどの問題がある。

  カラート36の後期モデルには、アグファ独自のレンズとして戦前からのゾリナーがf2.8という明るさで復活した。さらにクセノンやヘリゴンと並ぶf2の明るさを誇るゾラゴン(Solagon)50mmf2付のモデルが登場した。価格はこの3本のレンズとも同一に設定されていた(1951年当時398ドイツマルク)。ゾラゴンの詳細なレンズ構成はデータが手元になくて不明であるが、クセノンなどと同様にガウス型であることは間違いない。

  なお、戦後も距離計のない戦前型のモデルが1949年にカラート1型あるいは12/3.5として登場している。レンズは3群3枚のトリプレット型のアポター(Apotar)5.5cmf3.5で、シャッターはプロンターS型が使われている。これも12枚撮りである。

  カラートの最終型となったのが、1956年に登場した今回紹介するカラート4型である。このモデルで連動距離計は一般的な二重像合致方式に改められた。もちろん一眼式であり、ファインダーも兼用するが視野枠はなく、全体が50mm相当になっている。ファインダーは明るく、視野が薄くマゼンタがかっているのに対して、二重像部はグリーンに色づけされているため補色の関係となり鮮明で合わせやすい。レンズは他社製のものがなくなり、ゾラゴン50mmf2付とゾリナー50mm f2.8 付の2種で、全面にコーティングがなされている。絞りバネは10枚で、どの位置でもほとんど円形を示す。シャッターはそれまでのコンパー系からプロンターSVSに変更となっているが、プロンター系らしく軽快に切れる。シャッターの系列は、この時代の標準であった大陸系で、つまり1、1/2,1/5,1/10・・・という系列となっている。ただ、最高速度が1/300というのは、高感度フィルム時代の現代では撮影時につらい時があるのは否めない。巻き上げは独特のレバー式が採用されていて、セルフコッキンングとなり巻き上げとシャッターチャージが同時になされる。最短撮影距離は1mである。

  このカラート4型はデザインが整理されていて美しく、性能的にも他社の同クラスのカメラに遜色なく、良くできたカメラである。特にレンズ性能がすばらしい。大口径のゾラゴンであるが、天体写真を撮影してみて、開放から星像がシャープで、画面の最周辺部でもほぼ点像を示したのには非常に驚いた。ネガ上で画面の4すみの2mmくらいの部分でコマの乱れが認められるが、f2開放でここまできちんと収差が補正されているレンズはほとんどない。ライツのズミクロンをテストした時とほぼ同等である。実際に風景を撮影してもとてもシャープで発色も良く、今から40年も前のレンズでここまでの性能が出ていることには本当に驚かされた。もちろん最短1mでの描写も崩れることなくきちんとした写真が撮れる。ボケもなめらかでかたくならず、色も階調も良く出る、すばらしい傑作レンズである。これほどのレンズが、まったくと言って良いほど話題にのぼらないのは不思議なことである。なお、この高性能を支えるもう一つの要因が、フィルム圧板の構造にあると私は見ている。このカラートの圧板は2重構造になっており、特にフィルムの平面性保持に腐心したものになっている。さすがフィルムメーカーのカメラである。もちろん、前板部を支えるたすきも堅固であり、こうした全体のきちんとした作りが、レンズの性能を十二分に発揮させる土台となっている。

  テッサータイプのゾリナーも良いレンズである。このレンズも開放からシャープで、レンズ構成枚数が少ないテッサーの特徴というべきか、コントラストが高くはっきりとした描写をする。ゾラゴンどゾリナー、どちらでも写りは満足できると思うが、大口径ゾラゴン付のものは、他にスーパージレッテ(Agfa Super Silette)しかないため、狙うならやはりゾラゴン付をお勧めしたいところだ。価格も美品で海外なら2万円台、国内でも4万円程度である。なお、カラートのシリーズのカメラは、すべてボディにつり環がないため、携帯には専用ケースが必要である。したがって、ケース付のものを探すようにしたい。

◎カラート4型の使い方
  レンズシャッター式距離計連動カメラを使ったことのある人には、特に難しいところはない。まずシャッターを切るためには、ボディ前板を引き出しておかなければならない。引き出すと言っても、このカメラの場合強力なスプリングによって、前板正面右側のボディにあるレリースレバーを押すと、ボンと前板部が勢い良く飛び出すので、飛び出してくる前板を押さえておくようにしたい。おもしろがって、しまったり飛び出させたりをあまり繰り返すと、ボディにゆがみなどの悪影響が生じるおそれがある。必ず手をそえて飛び出してくるのを受け止めて、最後の固定位置に誘導するようにしたい。なお、最後はちゃんと引き出してロックがかかったことを確認する。このカメラの前板部は、きちんと固定されると、おしてもびくともしない。

  前板部にあるシャッターダイヤル、絞りを撮影条件に合わせて設定する。絞りノブは正面左下方に位置し、絞り指針は正面上に位置している。ピントは正面右にあるノブを回転することで、ボディ内部の距離計と連動する。カメラを構えると左手中指あるいは薬指が、この距離設定ノブに自然と届くはずである。距離情報は、前板部最上部の距離指標と被写界深度目盛りで確認できる。

 正面右上には、ストロボ撮影のためのシンクロ接点が正面向きに出ている。シンクロはX接点とM接点の切り替えが可能で、接点のすぐ右下に切り替えレバーがある。通常のストロボ撮影の場合は、X接点にしなければならない。レンズシャッターなので、Bから1/300まで、どの位置でもストロボに同調するのはこの形式のカメラの優位な点である。なお、切り替えレバーのV位置は、セルフタイマーを使用する場合にセットする。セルフタイマーは、約10秒で切れる。使用したらXかMの位置に戻しておかないと、次の撮影もまたセルフタイマーになってしまう。

  巻き上げとシャッターチャージは、ボディ正面左肩に外に飛び出したノブを、裏面側に引くことで行うことができる。カメラをかまえた状態では、右手人差し指で手前に引くことになる。シャッターの速度設定は、できるだけシャッターをチャージする前に行うように心がけたい。レンズシャッターの場合、シャッターチャージした状態でシャッター速度を変更すると、内部の機構に負荷がかかるため、故障の原因となる場合があるからである。

  一通り操作が理解できたら、いよいよフィルム装てんして撮影に入ろう。ボディ裏面からみて左側面に裏蓋開放ノブがある。下側にこれを引き出すと、裏蓋が右側に開く。次がこのカメラを扱う上でもっとも大事な点になるので、良く注意して欲しい。フィルムゲート下側に、フィルム送りと連動してコマ数計を進めるスプロケットギアが出ている。これにフィルムを押さえつけるための小さな圧板が覆いかぶさっているので、これを手前に引いてあけてフィルムを通せるようにしておく。これを忘れてスプロケットにきちんとかまない状態でフィルム装てんしてしまうと、巻き上げができず撮影そのものができなくなってしまうので要注意である。

  フィルムの入ったパトローネを左側のフィルム室にいれるが、このとき巻き戻しノブを上に引き上げる。2段引きあがる。パトローネを入れて巻き戻しノブを元通りにおろしたら、先に述べたようにフィルムをスプロケットギアにはめて圧板で固定する。フィルムの先を右側の巻き上げ軸の中のスリットに入れて、一度シャッターを切って巻き上げてきちんとフィルムが巻き上がることを確認する。スリットからはずれたりしてはだめである。なお、このカメラは順巻き方向でフィルムを巻き上げていく。

  きちんと巻きあがることを確認したら、裏蓋をきちんと閉める。次にボディ右上部にあるフィルムカウンターをセットする。このカウンターは加算式なので、親指の腹などで時計方向にカウンターを回すとAというスタート指標がでるので、ここにあわせてから3回シャッターを切って巻き上げるとカウンターは1にセットされる。これで撮影準備完了である。

  フィルムを使い切ったら、巻き戻しをする。ボディ底に巻き戻しボタンがあるので、これをしっかり押したまま、巻き戻しノブをまわす。ノブは1段引き上げると操作しやすい。パトローネにフィルムが巻き戻ったら、裏蓋をあけてパトローネを取り出して、後は現像に出すだけである。
最後に前板部を収納する際には、ボディのリリースレバーを押してロックを解除した上で、前板の左下すみなどを押して収納する。レンズキャップは、撮影が終わったら必ずかぶせてレンズを保護するようにしよう。

2.アンビジレッテ (Agfa Ambi Silette)
 アグファのカメラの中で、レンズ交換式のものはレンズシャッター式一眼レフのアンビフレックス(Agfa Ambiflex)、日本製のレンズ交換式一眼レフ セレクトロニック(Agfa Selectronic)シリーズとこのアンビジレッテだけである。

  アンビジレッテは、アグファのカメラの代表的ブランドとして多数のカメラが造られたジレッテ(Silette)シリーズの最高級版として1956年に登場した。レンズシャッター式でありながら、レンズ全群を交換する高級仕様のカメラである。カラートと異なってレンズ部は固定鏡胴であり、折り畳みはできない。交換レンズに対応した切り替え式ブライトフレームを内蔵し、撮影距離に対応したパララックスを自動補正する連動距離計を備えており、同様のスペックを持つカメラの中でもかなり良くできたものであると思う。特筆すべきはその採光式ファインダーの見え方で、非常に鮮明であることに驚かされる。二重像もブライトラインも暗いところでも明瞭に見える。ファインダーはアイポイントが比較的長く、眼鏡をかけていてもかなり見やすいほうだ。これほどよく見えるファインダーを持ったカメラとしては、日本製では同時代のコニカIIIA(Konica IIIA)がまず頭に思い浮かぶが、パララックスが自動補正で生きているファインダーと当時評判となったコニカIIIAはレンズ交換式ではない。

  コンパクトなボディにこれだけの性能のファインダーを備えていることは大変立派なことで、ライカM2(Leica M2)が重くて困るときにはこのアンビジレッテに35,50,90mmの交換レンズ3本セットで十分代役が務まると思う。切り替え式ブライトラインの線が多少だれているのが残念で、これがライカのように見事な直線で構成されていたら文句のつけようがないところだ。おもしろい特徴としては、ファインダーの前面がカメラ名の入った金属カバーで保護されていることで、使用にあたってはこのカバーを跳ね上げることから始めるのは、このカメラだけのユニークな儀式である。カバーの内側にはフェルトらしい布が張り付けられていて、ボディの傷を防ぐようになっているのは丁寧な作りである。

  交換レンズは、標準レンズのテッサータイプのカラーゾリナー(Color-Solinar)50mmf2.8、同じく4枚構成でテッサータイプと想像されるカラーアンビオン(Color-Ambion)35mmf4,5枚構成で手元の資料ではレンズタイプが不明なカラーテリネアール(Color-Telinear)90mmf4、さらに専用外づけファインダーを使用するカラーテリネアール130mmf4の4本の専用交換レンズが用意されている。130mmは数がすくなくめったに見かけない。レンズ構成等も不明である。130mm以外の3本はいずれもコンパクトなレンズで、特に35mmは薄く装着したままでの携帯に便利である。ただ距離環が狭くヘリコイドがややまわしづらい。絞り羽根はいずれも5枚である。最短撮影距離は、 35mmと50mmは1mであるが、90mmは1.8m、130mmは3mとややものたりない。

  写りは、レンズにカラーの名前が冠されているように、カラー写真での発色がとても良いのが印象的である。特に標準のカラーゾリナーは、コントラストが高くシャープな描写性能を持っていて、非常に魅力的である。35mmも同様に大変良く写る。90mmもシャープだが、逆光で中心部にフレアが明瞭に出る欠点があるのでフードが欲しいところだが、いずれのレンズにも専用フードが存在したかどうかは手元の資料では残念ながらわからない。ファインダーの中のブライトラインで構成される視野枠は、35mmと90mmは単独で見え、50mmは35mmと同時に表示される。ボディ上部左にあるスライド式の切り替えレバーの操作で簡単に切り替わる。130mmを使用するときには専用のファインダーをアクセサリーシューに取り付ける。

  なお、交換レンズの専用ケースはおもしろいアイデアが取り入れられていて、底に大量のシリカゲルが内蔵されている。シリカゲルはビスで蓋をとりはずして取り出すことができ、加熱再生して何度でも使用できるようになっている。もちろんカビ防止のためであるが、凝ったケースの作りに驚かされる。
 そのほかの特徴としては、巻き上げは一般的なレバー式となっており、迅速な操作が可能である。シャッターはシンクロコンパーが採用されていて、倍数系列で1秒から1/500秒とレンジは十分である。デザイン上も操作上も、先にのべたファインダーカバー以外は特徴のない、落ち着いた使いやすいカメラである。各部のきちんとした作り、例えば各部の指標などは彫刻された上に綺麗に色分けされているなど、現代のカメラが失った丁寧な作りを実感できる。

  このアンビジレッテには、ファインダーの構造の違いから2種類が存在するらしい。大きな違いがあるのは、ブライトフレームの採光窓の位置である。手元の製造番号の頭がFYで始まるモデルは、距離計と採光窓がライカM型のように分離している。ところがFZで始まるモデルは、距離計の丸窓の周囲に採光フレームが配置されているのである。さらにFZの中で、採光フレームの板の色が白いものと灰色のものが存在するが、この違いはごくわずかなもので別種にするほどのことはないと思う。これらの違いがファインダーの蓋をしめた状態ではまったくわからないのもおもしろい。手元の資料ではこうした違いが存在することはわからず、数台の実物を調べた結果判明したことなのでどうして、同一機種のファインダーにこれほどの違いが存在した理由はよくわからない。ファインダーは距離計式カメラにおいてはもっともお金がかかるところであるだけに、大きな構造変更が同一機種内で行われることは珍しいことだからだ。製造コストなどの要因なのだろうか。なお、この2つのモデルでのファインダーの見え方の違いについては、明るさやブライトラインの見え方はまったくと言って良いほど同じであるが、2重像の円形の輪郭は分離型のほうが鮮明にみえる点が異なる。またブライトラインと二重像の色づけは、合体型は淡黄色、分離型は淡緑色となっている。さらに関連して多少の仕様の違いがあり、分離型のほうは視野枠の切り替え順が、50,35,90の順なのに対して合体型は35,50,90と50mmを中心に持ってきている。また分離型の巻き上げレバーのほうが、指がかりがあって巻き上げしやすい。どちらが初期型なのかということだが、製造番号の頭の文字で類推すると分離型のほうが初期型のように思えるが、あくまで推定である。

  参考までにこのカメラの価格であるが、50mmf2.8付ボディが海外では美品でも1万円台、国内でも2万円台ときわめて安価である。これだけ良く写るカメラがこのように安いのは、実にありがたいことである。交換レンズは意外とみつけにくく、1本2万円程度はすると思う。

◎アンピジレッテの使い方
 このカメラの使用法であるが、特に難しいところはないのが良い。まずシャッターを切るには、巻き上げレバーを巻き上げてシャッターをチャージし、ボディ右上のシャッターボタンを押すだけである。レンズシャッター式なので、巻き上げた後にシャッター速度を変更するのはできるだけ避けるようにする。露出の決定は、レンズ鏡胴基部にあるシャッター速度と鏡胴先端にある絞りを決めるだけである。ピントは鏡胴中央部の距離環を回すことによるが、このカメラの場合まずファインダーカバーを開けることを忘れないこと。カバーは上部の指がかりに指を当て、刻印されている矢印のとおり巻き戻しノブ側に軽く押すと、スプリングの力でカバーが起立する。カバーをしまうときには、上から押すだけで良い。

  フィルムの装てんはボディ背面左側の開閉ノブを下に引いて裏蓋をあけ、ボディ上部左側の巻き戻しノブを2段引き上げ、パトローネを入れて巻き戻しノブを元に戻す。次に右側の巻き取り軸にフィルム先端に差し込み、シャッターを切ってから巻き上げ、きちんとフィルムが巻き上げられることを確認してから裏蓋を閉める。なお、フィルムの巻き取りは順巻き方向である。コマ数計は加算式なので、親指の腹で反時計方向に回してAの位置にあわせ、その後シャッターを切って巻き上げることを3回繰り返すとコマ数計は1を示し、撮影準備が完了する。巻き戻しをするには巻き戻しノブを一段引き上げ、底面の巻き戻しボタンをしっかり押したまま、巻き戻しノブを時計方向にまわしてフィルムをパトローネに巻き取る。

  レンズ交換は、ボディ正面下、レンズ鏡胴の下側に着脱レバーがあるので、これをボディ側に強く押し、レンズは反時計方向にわずかにまわすと、レンズがはずれる。レンズをつける時には、ボディマウント部にある赤点とレンズマウント基部の赤点をあわせながら押し込み、時計方向にわずかにまわすとカチッという明瞭な音がして固定される。レンズケースには、底蓋にあるレバーを強く下に押して着脱する。

  ストロボ撮影をする場合には、シンクロ接点にストロボのコードを接続した後、鏡胴基部上部にあるM,X,Vの切り替えレバーをXに合わせる。レンズシャッターなので、シャッター速度はすべての速度で同調する。フラッシュバルブによる撮影の場合は、バルブの種類によって使用する速度や切り替え接点が異なるので説明書を参照して設定する。またVはセルフタイマーである。巻き上げをしてからVにレバーを持っていき、シャッターを切ると約10秒でシャッターが切れる。巻き上げないとセルフタイマーはチャージできない。

3.購入時の注意点
  カラート4型及びアンビジレッテを選ぶ上での注意点は、レンズシャッター式距離計連動カメラを選ぶ際の一般的な注意点と共通である。 それぞれのカメラの解説で述べた操作手順を、一通りスムーズに行えることが前提となる。

  最初に、落下など強い衝撃を受けた形跡がないか確認する。カラート4型では特に前板部に歪みがあると致命的なので、引き出すときに勢い良く飛び出るか、また収納する際にスムーズに畳めるかを調べる。どこかでひっかかったり、引き出したときにロックがちゃんとかからなかったりするのは、問題がある証拠である。

  次にシャッターの動作を確認する。各速度できちんと動作するかを調べる。特に最高速度、1/30(1/25)、1秒の低速の粘り、バルブBなどを調べよう。シャッター羽根に油がしみ出しているものは、すぐに整備が必要になるので購入は避けよう。ただし、シャッターそのもののメンテナンスは容易なので、多少の粘りや羽根油があっても安価であればメンテナンス前提での購入は問題ないが、メンテナンス費用次第というところ。

  続いてレンズの状態を確認する。カラート4型ではシャッターをバルブBにセットしてレリーズし、絞りを操作して開放から最小絞りまできれいな形のまま絞りが変化するかを確認する。次に絞りを開放にして裏蓋をあけ、レンズを強い光線に透かして曇りや傷の状態をチェックする。アンビジレッテではレンズ交換がきちんとできるかを調べ、レンズを取り外して強い光に透かしてカビや曇りの有無を確認し、同時に絞りの動作もチェックする。レンズ表面に細かな傷がたくさんついたものは、コントラストが低下したりピントがあまくなったりするので、避けなければならない。元々が安いカメラなので、高い修理費を払ってレンズの再研磨などの高級な修理を行うのは避けたいからである。レンズ内部にカビがあるものも避けよう。ごく小さな突き傷がある程度ならば写りには影響がないので、気持ちの問題であるが安ければ選択しても良いと思う。

  カラート4型では、蛇腹の部分から光線もれがないかも必ず確認する。光線漏れがあっては、まともな写真は撮れない。光線漏れの修理は面倒であるし、蛇腹そのものを交換するのはコストがかかりすぎる。あとはヘリコイドがなめらかに動作するかを調べる。重すぎるもの、回転にむらがあるものは、修理が必要になるので避けたい。アンビジレッテでは、レンズをボディに取り付けてからピントリングの動きが渋くなるものは、落下品の可能性があるので避けたい。

  次はファインダーである。カラート4型もアンビジレッテも、ファインダーはとても明瞭に見える状態が本来の姿である。曇ってみえるものは整備が必要となる。また無限遠がきちんと出ているかどうかなど、きちんと調べたい。ファインダー内部のカビの有無を確認するには、カメラの前側からファインダーを見て、接眼部から強い光を当てることでよくわかる。

  最後に巻き上げがスムーズに行えるか、シャッターが軽く切れるか、というあたりを点検し、裏蓋をあけて内部の汚れ、特にフィルムゲートの金属の腐食がないかを調べておく。巻き上げノブが、巻き上げ後動作後きちんともとの位置に復帰するかもチェックする。きちんと戻らないと、次のシャッターが切れない。巻き戻しノブが2段に引きあがるかも調べておく。渋い場合は、後で自分で良質なミシン油や車のオイルなどの機械油を適量塗布しておくと、軽く動くようになるだろう。巻き上げや巻き戻しをスムースに行うために、この巻き戻しノブの動きをスムースにしておくことは、メンテ上も大切なことである。

  あと、どちらのカメラもボディにつり環がないため、専用ケースがないと携帯に不便なので、ケース付を探すようにしたい。

  以上、特に問題がないようなら、後は財布との相談となる。安価なカメラでも修理代は高くつくので、メンテがきちんとされたカメラを見つけだしたいものである。

4.カメラの点検・保守
最後にカラート4型及びアンビジレッテの点検と保守について簡単に説明する。カラートもアンビジレッテも、特別に注意すべき点はほとんどなく、通常のレンズシャッター付距離計連動式カメラの扱いと同様に処置すればよい。

  レンズの表面は、常に綺麗にしておくように心がける。特にカラートのゾラゴンはレンズ前部が大きく開いているため、レンズを汚しやすい。使用したら、ブロアやエアーダスターなどでゴミを吹き飛ばしておく。指紋などをつけたままにすると除去できなくなるケースがあるため、万が一表面をひどく汚してしまった場合、ゴミを吹き飛ばしてから無水アルコールをつけたレンズクリーニングペーパーや工業用のキムワイプなどのふき取り専用紙で丁寧にぬぐい、さらに息を吹きかけてごく軽く磨き上げる。ファインダーも汚れやすいので、レンズと同様に手入れを行う。後はボディ全体を、乾いた布で綺麗にふいてからしまうようにする。長期に使用しないときには、全体を丁寧に清掃し、ケースから出して密閉できるビニール袋に乾燥剤、カビ防止剤を入れて暗所に保管する。電気防湿箱の中なら、より安全である。高温・高湿度の環境に保管することは、絞り羽、シャッターへの油のシミだしによる動作不調や、レンズのカビなどを確実に誘発するので絶対に避けなければならない。
  保管中は、数ヶ月に1度、健康診断としてシャッターを数度切る操作を行って正常に動作することと、レンズやファインダーにかびが生えていないかを確認する。レンズのカビ防止には、直射日光に数分間レンズを当てることが有効であるので、カラートでは絞り開放にしてバルブでシャッターを切り、レンズによく日光を通す。この時焦点面は非常な高温になるので、裏蓋をしめたままでは圧板に悪影響を与えるので、裏蓋をあけておくことと、焦点面に燃えるようなものは置かないように注意しないと火事になる危険がある。アンビジレッテでは、レンズを取り外して絞りを開放にしてレンズによく日光を通す。この時焦点面は非常な高温になるので、燃えるようなものは置かないように注意する。

  シャッターが不調になったら、自分で処置せずきちんと修理屋さんに依頼して整備してもらうことをお勧めする。へたに油などをさすと、さらに事態を悪化させるので素人療法は避けなければならない。カラート4型の前板部のたすきの動作が渋いようなら、良質の機械油を少量支点につけると、開閉がなめらかになる。

  なお、カメラは酷使してはだめだが、適度に使用しているほうが良い状態を長期に渡って保持できる。むしろしまい込んでそのままになってしまうほうが、カメラをだめにしてしまうので、注意が必要である。 きちんと使用していれば、カラート4型もアンビジレッテもすでに40年もたっているカメラではあるが、さらに数十年はすばらしい写真を撮影し続けることができるはずである。どうか大切に扱って欲しい。

5.さいごに
  さて、紙面の都合で当初予定していた、アグファのブローニーフィルムを使うモデルの紹介ができなくなってしまった。いつか機会があれは、詳細に解説してみたいと思うが、もしこの方面に興味があるなら、次の2台のカメラを最初に手にしてみて欲しい。一台はゾリネッテ3型アポター85mmf4.5付き、もう一台はスーパーゾリネッテである。どちらも6x6サイズの正方形のフォーマットのカメラである。ゾリネッテ3型は単独距離計付きでレンズはトリプレットタイプ、スーパーゾリネッテは連動距離計がついた最高級機でレンズもテッサータイプのゾリナー75mmf3.5である。どちらのカメラも、すこぶる良く写る。それに使いやすい、良くできたカメラであるのだ。この早川通信を手にされた方が、アグファのカメラに興味を多少でももたれるようであれば、望外の喜びである。







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