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Japanisch Federball spiel

ヤパーニッシュ フェーダーバル シュピール


「ちょっと、センパイ」
「何?」
「『何?』じゃないっすよ! なんでオレがこんなことしなくちゃならないんすか!」
「いたから」
「はあ?」
「寮にただ残ってるのって暇じゃない? せっかくだから何かしようかと思って」
「だから! 何でそれにオレを巻き込むんすか!」
「いいじゃん。退屈してたでしょ?」
「う。いや、まあそりゃ……ちょっとは」

体育館に集まっているのは、帰省していなかった一部の生徒達である。葉月の提案で(引っ張り出された、とも言う)、日本独自の行事を執り行うことになったのだ。

「それじゃ始めるよー! 題してっ『天香杯争奪羽根突き大会』! どんどんどん、ぱふぱふぱふ〜!!」
付き合いのいい墨木や朱堂らが、声に合わせてラッパを吹き鳴らす。

「まんまじゃねえか……」
と呟いているのは、最初からまるっきりやる気のなさそうな皆守である。

「ボク、『ハネツキ』初メテデス!」
「そうだよねぇ。ま、バドミントンと大して変わらないから、気楽に気楽に」
葉月は、何が嬉しいのかいつにも増してにこにこしながら、懐からごそごそと何かを取り出した。
「くーチャン、ソレ何デスカ?」
「ふっふっふ〜。よくぞ聞いてくれました! これは〜」
得意満面に語り出そうとするのを遮って、皆守が口を挟んだ。
「お前……まさかそれ……」
「そう! これは日本古来の筆記用具!」
「ちょ、センパイ!? 本格的にやるつもりじゃ……」
「あったりまえじゃん。古式ゆかしき行事だよ? しきたりにのっとってやらないと」
「さっきからの笑顔の訳はこれか……」
面白いこと大好き人間の葉月が、罰ゲーム付きの遊びを喜ばない訳がなかったのだ。何故か二本も用意された墨汁と筆が、気合いの入りようを物語っていた。
「大体、これだけの人数で二本もいるか?」
「突っ込む所、そこっすか!?」
「うるせえ、二年坊。そもそも阿門も阿門だ。何で体育館の使用許可なんて出してんだよ……」
「何か言ったか?」
『うわっ!?』
いつの間にか背後にのっそりと立っていた大男から声をかけられ、油断していた二人は大仰に驚いた。
「阿門さん! いきなり何なんすか!」
「さっきからいたぞ」
「……チッ。まあそれはどうでもいいがな。お前、何だって許可なんて出したんだ? おかげで俺達はいい迷惑だぜ」
「冬休み中のいい運動になるだの、留学生に日本の文化を教えるだの、寮生間の交流を図る為だの言われたら、拒否する理由がなかろうが」
「……そういう無駄な智恵ばかりは天下一品だな、あいつは」
その遣り取りをムッとしながら見ていた夷澤はあることに気付いた。
「阿門さんや神鳳さんも出場するんすか?」

『こいつらの顔に落書きが出来るかも!』と顔に書いてある後輩を見ながら、『だからこいつは補佐止まりなんだ』と二人は声に出さずに同時に思った。

「残念だが、俺と双樹は審判だ。神鳳は出るらしいが」
「へえ。そりゃ残念ですね」
半分は本心だろう。だが、神鳳という標的を得た今、俄然やる気になってきたようだ。


「はーい。じゃ、ルールを説明しまーす。簡単でーす。5点先取で、勝った数が一番多い人が優勝。一位が複数いた場合は、決勝戦ありです。羽を相手の陣地に落とせばいいだけ。自分の側で一度に何回も突くのはナシね。で、勝った方は、負けた方の顔に何か落書きできる、と。ここまでで何か質問は?」
「ハイッ!」
「はい、墨木君」
「これはトーナメント方式でありますでしょうカッ、それとも総当たり戦でしょうカッ?」
知らない人間が見たら、天使の微笑みとでも評されそうな顔でにこやかに返事をした。
「総当たり戦、です」
わざわざ言葉を句切って、強調する辺りが策士である。場がざわめいた。それもそのはず、一勝しても一敗しても、延々と次があるのでは、いつまで経っても油断できない。下手をすれば顔中墨だらけになる可能性だってあるのだ。しかも出場選手は全部で10名。たかが5点と言えど、9戦はキツイものがある。
「他に質問のある人は〜?」
「ちょっといいかしら?」
「はい、朱堂君」
ここはどこの幼稚園だ、という一部の呟きを無視して殊更にこやかに会話は続く。
「一応コレって大会なのよねェ?」
「そうだよ」
「じゃあ、じゃあ、優勝したら何かもらえるのっ? 例えばダーリンのキ…」
言われた側は、笑いを微かに引きつらせつつ、すばやく返答する。
「優勝の賞品は〜、なんと豪華『マミーズ』の1ヶ月フリーパスです!」
『おおぉぉぉおおおっっっ!!』
当然の計算だが、1ヶ月分の食費が浮けばその分他の物が買える訳で、場は急に盛り上がりを見せ始めた。

かくして、交流やら文化やらはそっちのけで、実に打算的な『天香杯争奪羽根突き大会』の幕は切って落とされたのであった。



―――いつの間にか決勝戦。

「っ、はぁっ、はぁ……」
「ふーっ、はーっ」
こめかみから顎へとしたたり落ちる汗を拭いながら、ようやっと皆守が口を開いた。
「やっぱ、お前が残ったか」
「と、とーぜん! 言い出しっぺが、負けたら、格好悪い、でしょっ」
こちらも息を継ぎながら応戦する。

ちなみに、二人とも一敗はしているので、顔には墨で素敵なメイクが施されている。葉月は神鳳に、バカボ○だかチョウ○だか分からぬうずまきを両頬に印された。皆守は夕薙のせいで、カ○ちゃんやら夏目漱○やら判断の付かぬチョビ髭を生やしている状態だ。

今までの激戦を物語るかのように、体育館の壁際には黒々とした―――実際に顔を全面真っ黒にされている者も中にはいたが―――漢(おとこ)達の抜け殻が横たわっていた。
比較的被害の少なかった神鳳(額と目の端と口の脇にシルバー世代のような皺が描かれている)と、夕薙(目と鼻がパンダのように縁取られている)は、日本茶をすすりながら茶菓子をつまんでいる。しっかり傍観者モードに移行しているようだ。

「どっちが勝つと思う?」
「そうですねえ。素早さなら皆守君なんですが、九龍君も狙いが正確ですからね。お互いそろそろ体力も限界に近いでしょうし、難しいところです」
「賭けるか?」
「何を賭けます?」
「明日の昼飯」
「ふむ。いいでしょう。で、貴方はどちらに?」
「俺は九龍だな」
神鳳が形のいい顎をつまみながら、首を傾げる。(傍目にはいつものようには様になっていないが。なにせご老体である)
「困りましたね、それでは賭けになりませんよ」
「ハハハッ。しかし俺もヒゲなんぞ描かれてるようなヘナチョコに賭けたくはないしな」
「……聞こえてるぞ、大和」
「お? 負け犬が何か言ってるか?」
「気のせいではありませんか」

日頃の行いの差か、カリスマ魔法体質(by『ちまりまわるつ』)を持たない為か、皆守の応援は圧倒的に少なかった。実際のところ、一人以下、〇人以上という状況だった。

「うぅ〜ん、アタシとしてはどちらも捨てがたいわぁ〜。半分ずつ応援しちゃおっと。ダーリぃぃン、皆守ちゃ〜ん、頑張ってぇ〜。優勝したら、アタシのキッスを副賞とし」
『結構です。不要です。慎んで遠慮させていただきます』
「ひ、ヒドイっ、何もハモリながら言わなくてもいいじゃないのよォ〜!!」
と、元からの青髭を黒髭にされ、目には大ちゃん涙がオプションとして付いているオカマ高校生は「よよよ」と言いながら泣き崩れた。


そんな光景をよそに、今まさに世紀の大決戦が始まろうとしている。

「行くぞ、甲太郎! 勝負だ!!」
「俺も生活がかかってるんでな、手は抜かないぜ?」
「そんなのわざわざ言わなくても、俺相手で手を抜いたことなんて一度もないくせに……」
「何か言ったか?」
「ううん」
「二人共、漫才はその位にしてそろそろ始めてもらえんか」
「漫才だぁ? おい、阿門、お前な……」

スパンッ、カコーン! コロコロコロ。

「…………」
「よし、まず1点!」
「双樹、葉月に1点だ」
「はい、阿門様」
「……ちょっと待て」
「何だ?」
「おい審判! 今のはアリか!?」
「俺が始めてくれと言って、葉月が始めた。問題なかろう?」
「野郎……っ、こいつまで丸め込みやがって」
「人聞き悪いこと言わないでよ、甲太郎。会長はまともなこと言ってるだけじゃん。大体勝負の最中に油断してる方が悪いんだろ」
「ああ、そうかよ! お前の言い分はよく分かった。後で泣いても知らねえからな!」
「そっちこそ!」


1点、1点が異常に長い試合だった。数分から十数分間の応酬の末に、やっと点が入るという次第。体力もとうに限界を超えている。終いには相手を動揺させて隙を付く為の口論が始まった。

「このっ、ミトコンドリアカレー含有星人がっ!」(シャッ)
「何言ってやがる、まんま大福ほっぺめ!」(ヒュッ)
「何だとぉ!? お前なんかリトルグレイならぬリトルイエローのくせに!」(ヒュバッ)
「誰がリトルイエローだっ! このアンコ紫!!」(シュドッ)
「パープルって言葉も出てこないのか、音楽−5っ!」(サシュッ)
「音楽は関係ねえだろ!!」

スカコーン! コロロロロ。

「葉月に1点。これでようやく決着が付いたな、葉月の優勝だ」
既に阿呆らしさを通り越して、虚しさを噛み締めていた生徒会長が溜息混じりに宣言した。

「やった……あ、あれ?」
喜んで壁際の仲間達の方へ走り出そうとした葉月が、急にペタンと座り込んだ。皆守は心配した仲間が駆け寄って来ようとするのを制して、荒い息を整えながら言った。
「チッ。馬鹿が。自分の体力位把握しとけ」
「馬鹿とは何だ……うわっ!!」
「阿門、試合は終わったんだから、もう帰ってもいいんだろ」
「無論だ」
「後は任せた」
「この状況では仕方あるまいな」

いきなり抱きかかえられた葉月は、一瞬呆然としていたが、自分の置かれた状況に気付くとジタバタと暴れ出した。

「ちょっと!? 何してんの、甲太郎!!」
「見ての通り、お前を運んでる」
「運ばれなくても大丈夫だよ!! 一人で歩けるってば!」
「嘘つけ。いいから暴れるな、落ちる」
「いや、ホント、大丈夫だから! 下ろして、甲太郎〜」
「大丈夫じゃないから、へたり込んだんだろうが。これ以上暴れるようなら頭から落とすぞ」
「それは嫌」
「じゃあ黙っておとなしくしてろ」


わいのわいの言いながら歩き去る二人の姿を見ながら、夕薙はひとりごちた。
「これは……甲太郎の一人勝ちだったかな」



後日、葉月と皆守は、参加者全員にマミーズを奢る羽目になったとかならないとか。

 


後書きという名の言い訳のようなもの

さ、三が日に間に合った〜。
しかし、まりやんとかまちーの出番が……!(泣)
全対戦を書こうとして力尽きました。勝敗表も作り……かけてた(笑)
ギャグのはずがおかしな方向に。
タイトルのドイツ語は適当です。

三苫さんの所のトップを見て思いついたネタでしたー。