「………………」
暗い自室で壁に掛かる鏡に向ってぶつぶつと呟く男がひとり。
「……いや、これだと八千穂とかぶるか……」
どうやら何かを言う時の己の表情を鏡で確かめているらしい。
ぐしゃぐしゃと髪をかき乱し、改めて鏡に向う。
「……くろちゃん。……こいつも締まんねえなあ」
さらにぐしゃぐしゃと頭を乱した。かなり行き詰っているらしい。
いきなり、ばしんっと鏡の脇に両手をつき。
「……きゅーちゃん」
真面目な顔で呟いた後、がっくりと肩を落とした。
「…………九官鳥かっての……」
と。そこへ。
『バッターン!!』
ものすごい勢いで自室のドアが開いた。
「こーおったっろー!!」
「葉月っ!?」
そこにいたのは、男の行き詰まりの元凶、自他共に認める親友の葉月九龍だった。
「こんばんは、甲太郎。遺跡探検のお誘いに上がりました。今夜は満月。探索にジャストフィットナイスミートな夜ですよ〜!」
「お前、その変な外来語は何だ……」
「ん、何? どっかおかしい?」
「絶対に間違ってると思うぞ……第一、月夜だからって地下遺跡に何の関係があるんだ。おい」
「そう?」
あはは、と笑いながら部屋に入ってくる親友に、甲太郎は殊更に大きなため息を吐いた。
「それより甲太郎、《墓》行こ、《墓》っ。遺跡行こっ、遺跡……あれ?」
いまだ鏡の前にいた甲太郎に何やら不審を感じたらしい。
「鏡なんか見てたの? 珍しい。明日雨降らなきゃいいけど。……って、え?」
ひょこひょこと近づいてくる親友の言葉に、一瞬忘れていた先ほどまでの己の行動を思い出し、一気に甲太郎の顔が赤くなった。
『自他共に認める親友』をいつまでも『葉月』と名字呼びするのもどうかと、八千穂達のように何かあだ名などつけてみようかと思い立ったのは良いものの、いざとなると仲々呼びやすいものが浮かばずに困惑していた訳で。それに、いきなりあだ名呼びなどした場合の自分の顔なんてのも気になったりしてしまい、鏡で表情を確かめなんてしていた所へ、当の本人が入って来た訳で。
甲太郎が赤面してしまうのも無理からぬ話だろう。
「本当に具合でも悪いんじゃない? 顔赤いよ。熱でもあるんじゃ……」
「うあああああああ!」
額に手を当てられそうになり、思わず甲太郎は跳び退っていた。
「こ、甲太郎……?」
「何でもねえっ、何でもねえって!」
葉月が上げかけた手をそのままにしている。いつもの親友とは思えない行動に当惑しているのだろう。
「やっぱりどっか具合悪いんじゃ? 誘いに来て悪かったかな……」
「いやっ、大丈夫だからっ! 何でもないからっ!」
「え、でも、具合悪いなら寝てたほうが……探検なら誰か他の……」
「大丈夫っつってんだろ! 探検だろ! ほら、九龍、行くぞ!!」
愛称で呼べるのはまだ先になるようだが、とりあえず、名字呼びから名前呼びにステップアップしたある夜のことだった。
皆守に愛称呼びされないと呟いていたら、友達が書いてくれました〜。
私は特に違和感はないと思いますけど、本人、未プレイですので
『言葉遣いや性格の微妙な解釈が異なっていてもご容赦下さい』との事でした。
タイトルは私が勝手に付けました。
『BAGDAD CAFE』のサントラから何となく。ちなみに映画は見てません(汗)
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