明日なき暴走 -30th Anniversary Edition Bruce Springsteen &
the E Street Band
明日なき暴走 -30th Anniversary Edition
■成長するってこと
 「明日なき暴走」は彼のキャリアの中でも最も重要なアルバムだと思う。デビュー・アルバム、セカンド・アルバムと前2作が話題になったものの商業的にはいまいち振るわなかったため、まさにレコーディング・アーティスト生命を懸けた渾身の1枚である。すさまじいプレッシャーをはねのけて、彼は見事にすばらしいアルバムを完成させる。商業的にも成功し、スーパースターの座を手に入れる事となった。

 今回(国内盤は05年12月21日)発売された30thアニバーサリー・エディションは、デジタル・リマスター化されたCD1枚とDVDが2枚のボックス・セットである。
 このアルバムはすべてピアノで作曲されたらしい。ブルースはボーカリストとして優れているのみならず、ギタリストとしての力量も目を見張るものがあるので、全曲ピアノで作曲されたというのは意外であった。ブルース・スプリングスティーンの音楽にピアノが欠かせないのはわかっていたが、まさか彼自身があんなにピアノも堪能だったとは驚いた。そのあたりのことや、レコーディング秘話を Disc3のWings For Wheels:The Making of Born To Runで知ることができる。字幕入りなので国内盤がお勧めだ。しかし何と言っても30thアニバーサリー・エディションの目玉は Disc2の1975年ロンドン・ハマースミス・オデオンでのライブ映像だ。こんな映像があったなんて…。今までなぜ発表されなかったのか。もしかしたら、初のヨーロッパ・ツアーという緊張感や、それに伴うストレス、その他のごたごたのせいで、
当時としてはあまりできのいいライブだとは思われていなかったのかもしれない。たとえそうであったとしても、ここで観ることができる絶頂期のブルース・スプリングスティーンとEストリート・バンドのライブは十分すぎるくらいエキサイティングである。ひげ面ニット帽にピアスでシャウトするブルースは30年前の映像に古さを感じさせない。(バンドのメンバーはゴッド・ファーザーにでてくるマフィアみたいな格好をしているが)

 アルバム発表後、ブルースは最初のマネージャーとの契約内容に関する裁判ざたで、結局3年間レコーディングから遠ざかることとなる。人が成長するときには、別れと新しい出会いがつきものだ。3年後復活したブルースの作品に描かれる主人公たちは、もう初期のアルバムに登場するアウトロー的若者ではなくなっている。彼は「明日なき暴走」録音当時、本当の自分の居場所を模索していたのだろう。収録される曲に登場する主人公たちを通して自分を見つめなおし、自立した大人の男になろうとしていた。転機を向かえていたブルースは「明日なき暴走」を完成させることによって、自らの思いをうまく昇華させたように僕には感じられる。
前に「アズベリー・パークからの挨拶」を紹介した時にも書いたけれど、僕は今もブルースの作品では「明日なき暴走」までの初期の3枚が好きだ。それはもしかしたら僕自身が、いい年こいてまだ自分の居場所をみつけることができないでいるからかもしれない。
いつの日かブルースの最近のアルバムも、本当に愛することができる自分になることを望んでこのレビューの締めとしたい。 (2号)
リリース 1975(OR) / 2005(30th) Devils & Dust
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Bruce Springsteen /
Devils & Dust
★ ★ ★ ★
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