当時としてはあまりできのいいライブだとは思われていなかったのかもしれない。たとえそうであったとしても、ここで観ることができる絶頂期のブルース・スプリングスティーンとEストリート・バンドのライブは十分すぎるくらいエキサイティングである。ひげ面ニット帽にピアスでシャウトするブルースは30年前の映像に古さを感じさせない。(バンドのメンバーはゴッド・ファーザーにでてくるマフィアみたいな格好をしているが)
アルバム発表後、ブルースは最初のマネージャーとの契約内容に関する裁判ざたで、結局3年間レコーディングから遠ざかることとなる。人が成長するときには、別れと新しい出会いがつきものだ。3年後復活したブルースの作品に描かれる主人公たちは、もう初期のアルバムに登場するアウトロー的若者ではなくなっている。彼は「明日なき暴走」録音当時、本当の自分の居場所を模索していたのだろう。収録される曲に登場する主人公たちを通して自分を見つめなおし、自立した大人の男になろうとしていた。転機を向かえていたブルースは「明日なき暴走」を完成させることによって、自らの思いをうまく昇華させたように僕には感じられる。
前に「
アズベリー・パークからの挨拶」を紹介した時にも書いたけれど、僕は今もブルースの作品では「明日なき暴走」までの初期の3枚が好きだ。それはもしかしたら僕自身が、いい年こいてまだ自分の居場所をみつけることができないでいるからかもしれない。
いつの日かブルースの最近のアルバムも、本当に愛することができる自分になることを望んでこのレビューの締めとしたい。 (2号)