New York Lou Reed
New York
■実録・侠(おとこ)の顛末
ラウンジの雇われ店長だった弟が店の売上げと共に失踪し再び現れたのは2週間後だった。その間シノギの世界とは全く無縁だった俺は会社に休職願いを出し、仕切りの親分と賠償金を直談判するハメに。その後親分の部屋で弟はフライパンで頭を殴られ平身低頭泣き詫びたが、「オッサンにはあれでええねん」帰りぎわ表情のない顔で俺につぶやいた。
翌日俺は上司に長期の休職を詫び業務に復帰した。そういえば明日はルー・リードのコンサートだ。新譜の『NEW YORK』はNYの今と男の生き様がゴリゴリ伝わってくるアルバムだった。京都の10歳年上の変なバイトのねえちゃん(俺は京都コンプレックスなのだ)とチケットを買ったが、何とか行けそうだ。
当日は嫌味で有名なオヤジの店の集金日だ。2週間ご無沙汰してたのでキゲンが悪いに決まっている。西明石まで出向いたが案の定、難癖をつけて今日は支払えないと言う。仕方ない明日また出直そう。社に戻って報告した所その場で上司は店主に電話で約束を取り付けた。「今行ったらすぐ支払うから」…もう5時だ。コンサートには間に合わないが迷惑をかけた上司の顔をツブす訳にはいかない。約束したねえちゃんに内線で事情を伝え再び西明石へ。すでに7時を回っていたが店長はバイトと面談中。(もっと時給上げたれよ)などと思いつつ結局30分以上待たされたが俺は出来るだけ冷静に請求書を手渡した。しばらく額面を眺めていたオヤジが何を言ったかは記憶にない…
「顔洗って出直してこい」「どうしても支払って頂けませんか」「そうや」「わかりました」
この2週間、いや20数年間張りつめていた何かが頭の中で粉砕するのがハッキリと解った。鞄を置きレジに近づいた俺は、いぶかしがるオヤジの顔に続けて右と左をみまった。3発目はまともに入った。「いったぁ」ずれた眼鏡でギャグみたいに呟くオヤジとボーゼンと立ち尽すバイト。駅の電話の受話器を手にした時初めて右手が血で汚れているのに気づいた。「すいません。会社辞めます」ガチャン。3流ドラマの主人公のつもりか。
「まだ間に合うかな」フェスのルー・リードはすでに終盤へと差し掛かっていた。『NEW YORK』から「LAST GREAT AMERICAN WHALE」「STRAW MAN」。マレットでパーカッションを叩くオバチャンはベルベッツのモーリン・タッカーだ。すぐにアンコールで定番の「SWEET JANE」「WILDSIDE」。おねえちゃんはご機嫌だ。2回目のアンコール "song called... VICIOUS." 「ワァオッ!!」頭は冷めていたが体が自然に反応した。そしてラスト「SATELLITE OF LOVE」…ルーは俺の為に歌っていた。
「俺明日会社辞める事になってん」「えーっ。大変ですね」彼女は何も聞かなかった。夜も遅かったのでそのまま食事もせずに別れた。翌日朝一で上司に頭を下げ謹慎をくらった俺は1ヶ月後退職処分となった。

そういえば9.11直後のジョンのトリビュートコンサートでもルーの「JEALOUS GUY」が一番カッコよかったな。
                     (フジモト)
リリース 1989 Transformer
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