Waltz for Debby Bill Evans Trio
Waltz for Debby
■拝啓ビル・エヴァンス殿
 はじめまして、突然お手紙を差し上げるぶしつけをお許しください。私は大阪で写真撮影業を営んでおるフォトデリック2号と申す者でございます。
 この度、厚かましくも貴方様にお手紙を差し上げましたのは、ちょっとしたお願いがあるからでございます。実は私、自社のホームページにて、稚拙な文章ながらレコードレビューを書かせていただいております。
 御存じでしょうか?貴方様がお亡くなりになってまもなく、パーソナルコンピューターなるものが世間に普及しはじめ、いまやネコも杓子もインターネット、インターネットと騒いでおる始末でございます。これについて詳しく説明いたしますと、長くなってしまいますので割愛させていただきますが、とにかく誰もが簡単に情報を提供したり取得したりできる世界規模の情報ネットワークに、私もホームページなるものを開き、お粗末ながら情報を提供させていただいておる次第であります。
 さてさて本題に入らせていただきます。お願いと申しますのは、そのレコードレビューにて貴方様の「ワルツ・フォー・デビイ」を紹介させていただきたいのです。
 なんと言ってもまず貴方様のフレージングに感銘を受けました。一聴するとリリカルなメロディのようで、実のところそれだけではない、心のとんがった部分にもヒットする音の選び方は貴方様ならではのハイセンスでございます。それは「ポートレート・イン・ジャズ」のジャケットでお見受けする貴方様のポートレートと、正真正銘のジャンキーであった貴方様の実際とのギャップのように不思議な感覚を私に与えるのであります。
 実は私が初めて貴方様のピアノを聴かせていただいたのはマイルスの「カインド・オブ・ブルー」でした。私ごときが申し上げるのもおこがましいですが、その時から薄々そのセンスの良さには気付いておりました。「カインド・オブ・ブルー」が歴史に残る名盤と評価されておるのも貴方様の功績が大きいのではないでしょうか。
 話を「ワルツ・フォー・デビイ」に戻します。このヴィレッジバンガードでのライブ録音では、客の話声や食器がカチャカチャなる音まで聴き取れます。ビル・エヴァンス・トリオの演奏をBGMにしておしゃべりや食事を楽しむとは、当時のジャズクラブとはなんて贅沢なところだったのかと驚かざるを得ませんでした。
 それにもまして私が驚きましたのは、あなた方3人がそんなざわめきを意にも介さず、すばらしいインタープレイを繰り広げているということであります。そんなミュージシャン・シップは、貴方様の晩年まで揺らぐことはありませんでしたね。健康を害した体をすり減らしてでも音楽一筋に生きた貴方様を思うと、一写真家としての私も身の引き締まる思いであります。
 最後になりましたが、どうかレコードレビューの件、お許しくださいますようなにとぞよろしくお願い申し上げます。
                      敬具
追伸
今頃、そちらでスコット・ラファロ殿と演奏を楽しんでおられることでしょうね。私もそちらに伺った折には貴方様のポートレートを撮らせていただくわけにはまいりませんでしょうか?
                      (2号)
リリース 1961 Portrait in Jazz
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