※「あ〜わ 頭文字お題<台詞編>」より。
あとラスト数周、レースはトップ争いで3台がせめぎあっていた。
その中には、彼等の鮮やかなブルーのマシンも連ねている。
コーナーに入り、インを攻めていた1台が急に制御不能に陥った。
競り合っていた近接するマシンと接触し、勢いよくコースから弾き出される。
観客席正面に設置された大きな画面には、クラッシュのシーンが映し出されていた。
イエローフラッグが振られ、調整車がレースのペースを一時緩める。
観客たちのどよめきや、ピット内に響く緊迫した声が、私を素通りしていく。
サーキットに、救急車のサイレンが鳴り響く。
幸いにも、ドライバーの中沢さんにたいした怪我は無かった。
だが、キャリアの上には、痛々しい姿になったブルーのマシン。
カズさんは何も言わず、ただじっとマシンを見つめていた。
そう…本当に、ただ、呆然と…感情を失った瞳で、見ていた。
その視界には、きっと何も映りはしない。
今のカズさんは、あのブルーのマシンに、過去の幻影を重ねている。
「僕は…僕は、また……。」
微かに震える唇が、消え入りそうに言葉を吐き出す。
誰も踏み込ませない壁を作り、たった一人で過去を抱え込む。
どうしてだろう…これは不可抗力だというのに。
どうして彼は、こんなにも自分だけを責め続けるんだろう。
一人ではないことに…ここに私がいることに、何故気付いてくれないんだろう。
「カズさん…。」
「………え……あぁ、ゴメンね、さん。驚かせて…しまったね…。」
力無く笑う、作り笑い。
私を見ているようで、何も見ていないくせに。
こんな時でも、彼は無理に笑って見せる。
「無理…しないで……無理しないでよ…。」
「…何……?」
「辛いなら…苦しいなら…無理に、笑わないで。一人で、抱えないで。
泣いたって、叫んだって…誰も、責めたりしないから…。
私が、受け止めるから…だから……無理、しないで。」
見開いた瞳が、徐々に焦点を取り戻す。
さっきまでの張り付いた笑顔が、苦痛に歪む。
「ゴメン…今だけ、だから。」
背中に回された腕に、折れそうなほど抱きすくめられ。
首筋を、彼の吐息がかすめた。
「……僕は、怖い…よ…また、同じ事を、繰り返しそうで……。
僕は、これほど…弱くて、愚かな…人間、だから…。」
誰だって、そう…弱くて、愚かで…カズさんだけじゃない。
だから、私にも、受け止めさせて。
カズさんが、無理に笑顔を作らなくてもいいように。
END
WEB拍手公開。<2007.2.20>
サイトUP。<2007.4.18>
WEB拍手から、繰上げ。
どうしていつも、こんなに弱弱しいカズさんになるんだか…(^_^;)
でも、カズさんはいろいろと溜めてしまう人だと思うから。
ちょっとした拍子に、つい弱い部分を見せてしまう。
それを見せるのは、さんだけならいいなぁ…
なんて、思ってしまいます。
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