※「お天気 10のお題」より。名前変換なし。
ため息をひとつ零し、ボンネットを降ろす。
気が付けば、視界は仄暗く霞んでいた。
合宿に入ってからは、いつもこんな調子だ。
マシンと向き合っている間は、時間の感覚が曖昧になる。
キリのいい所で手を休めると、今まで途切れていた周囲の音達が、ゆっくりと入り込んでくる。
さっきまで、あれほど陽射しが差し込んでいた窓に映るのは、水玉模様。
ガレージの屋根を打ち付ける水音が、バラバラと音をたてている。
シャッターを上げると、外は急なにわか雨。
壁により掛かって座りこんだ僕は、落ちてくる水滴をぼんやりと見ていた。
乾ききっていた空気が、水分を含んで柔らかく入り込んでくる。
周りを取り囲む、優しい空気に包み込まれていると、君を想い出すよ。
シーズン中は、月に数日しか一緒に過ごすことが出来ない。
いつも、メールとか電話で連絡はしているけれど、それで繋がっていると言えるんだろうか?
もしかしたら、君に寂しい想いをさせているんじゃないか。
それとも、もうこんな僕に愛想を尽かせているんじゃないか。
受話器越しの声よりも、僕は…目の前で、君の声が、聞きたいよ。
地面に落ちて跳ね返る雨粒に、景色が白くけぶっている。
霞む視界の中に、ポツンと浮んだ、ワンポイントの赤い傘。
徐々に近付いてくるシルエット。
あれは、きっと…。
僕は思わず、ガレージから飛び出していた。
どうか、止まないで、にわか雨。
止んでしまったら、彼女が、消えてしまいそうで。
雨のスクリーンが映し出した、いたずらにさせないで。
END
WEB拍手公開。<2006.8.3>
サイトUP。<2006.11.12>
WEB拍手から、繰上げ。
水のスクリーンに映る映像みたいな、
そんなイメージが出てたらいいと思う。
周りの音にも気付かないほどマシンに集中して、
ちょっと一休みなカズさん…になってるといいな。
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