※「素直になれない愛情表現 10のお題」より。
いつものように、真田副部長の怒号が響く中、きっつい練習は続いている。
柳先輩にコース読まれまくりの打ち合い練習でしごかれて、やっぱりあの人には勝てなくて。
めちゃめちゃ悔しかったけど、それはいずれ打ち負かす予定だから。
次の組に交代したオレは、休憩するついでに部室へ向かった。
そこには、部誌を付けているマネージャーの先輩がいる。
今日こそオレは、あの人にはっきりと言うつもりだった。
「先輩…ちょっと、話があるんだけど…。」
「んー…何?」
部誌から顔を上げることなく、気の無い返事をする先輩。
ちょっと、ムカツク。
「オレ、先輩のこと、好きなんすよ。」
「ありがと。」
へ?なにそれ?
あまりに素っ気無い返事に、気抜けする。
「それって、オッケーってことっすか?!」
「何が?」
そりゃ、こっちの台詞だって!
どういう意味だよ、それ!
「だから、先輩が好きだって!」
「後輩に好かれるなんて、先輩として光栄だね。」
はぁ?マジで言ってる?
意味が違うって、それ…。
「そういう意味の『好き』じゃないって!」
「あぁ…そっか。それは、マネージャー冥利につきるね。」
相変わらず、部誌を書く手を止めようとはしない。
からかってんのか?
もともとこの人は、すっげー鈍感だ。
今までだって、オレはずっと、アプローチしてたんだ。
そりゃもう、誰が見てもわかるぐらいで、何度オレは副部長の鉄拳をくらったか。
わかってないのは、この人ぐらい。
マネージャーの仕事は完璧で、気が利くし、明るいし…。
でも、こういう事に関しては、まったくきっぱり超無関心。
そのうちに、誰かに掻っ攫われちまいそうで、内心ヒヤヒヤなんだから。
やっぱりオレは、この人の笑顔を誰にも渡したくない。
だから…何が何でも、はっきりさせなきゃ。
「違うって!オレが言ってんのは、アンタに惚れてるってこと!」
「うわっ!それって、人間として、嬉しいかも。」
どこまで、とぼけんだよ!どこまで、はぐらかすんだよ!
っつーか、顔上げろよ!オレを…見ろよ!
「聞けって!オレは、アンタのこと、女として惚れてんだって!」
「わかったから…そろそろ、休憩終わりだよ、切原くん。」
ここまで言っても、まだ本気にしてないのかよ。
そんなに、オレなんて、どうでもいいってことなのかよ!
「いい加減に、しろよっ!」
オレは、先輩の右手を掴んで、思い切り引き上げた。
持っていたシャープペンが、カランって音を立てて床に落ちた。
思ったよりも華奢な手首に、顔を上げた先輩の少し怯えたような瞳に…。
頭に血が上りかけてたオレは、ちょっと怯んだ。
「いつまで――。」
「いい加減にするのは、君だ!切原!」
その時、先輩の声にカブって別の声が聞こえた気がしたけど。
それよりも何よりも、いつも笑顔な先輩とは思えないぐらい、ドスの効いた声の方が強くって。
「いつまでも、こんなとこでサボってんじゃない!切原!たるんどる!…でしょ?真田?」
「へっ?」
間抜けな声を出して振り向くと、そこにはオレと同じくらい呆気に取られた真田副部長がいた。
さっきのカブってた声の主だ。
「…うむ。早く、練習に戻れ。赤也。」
その迫力に圧倒されて、流石の鬼副部長様もそれだけ言って戻って行った。
先輩の無言の圧力に押されて、オレも返事が聞けないまま、練習に戻るしかなかった。
でも、わかったんだ…あれは、オレが真田副部長に怒鳴られないようにって、気を使ってくれたって。
わざと、先に怒鳴りつけたんだって。
くっそ〜っ!やっぱり、先輩は、オレが独占してみせるぜ!
だから、それまでは誰の物にもなるなよな!
「お前も、大変だな。。」
「あぁ、柳くん。そうね、あれだけはっきり意思表示されちゃね。」
「で、どうするのだ?」
「さぁ?でも、柳くんなら、お見通しでしょ?」
END
<2006.6.16>
初赤也!
私の赤也のイメージは、赤目モードが強かったのですが、
他のサイト様とかゲームとかで、かわいい系だとわかった(笑)
この話は赤目モードが強い頃のネタだったので、
簡単に『好き』だとか言えちゃったりしてます。
でも、まだよくキャラがつかめてませんね(苦笑)
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