※「あ〜わ 頭文字お題<台詞編>」より。名前変換なし。
いつも身に付けている、クロスのペンダント。
よく、クリスチャンかと聞かれたりするけど。
でも、俺は別に、クリスチャンではない。
このクロスだって、信仰のために身に付けているわけじゃないし。
そんなこと言うと、バチが当たっちゃうかもしれないかな。
小さな頃、俺が怪我をする事を心配した祖母が、架けてくれた物だ。
それからずっと、俺はこれを架けている。
今はもう、これがないと首元が何か物足りなくて、いつも無意識に手をやってしまうほど。
時には真剣に、お願いしてしまう事だってある。
そのお願いが、叶ってしまうことが結構あったりするので、なかなかバカにはできないのだけど。
だから、今は、もしかしたら、そのバカにできない状態…なのかもしれない。
着替え終わって部室から出ようとした俺と、少し遅れて部室に入ろうとしていた先輩と。
お互いにちょっと急いでいたから、注意力が欠けていたんだと思う。
すれ違いざまに、先輩の髪が俺の胸元でなびいた。
「きゃっ…!」
小さな悲鳴と、首筋を引かれるような感覚。
吃驚して胸元に視線を向ければそこには、絡んでしまった俺のクロスと先輩の柔らかい髪。
慌てて解こうと手を掛けたけど、緊張に指先が震えて、余計に絡んでしまいそうだ。
「ゴメンね、長太郎くん。練習、遅れちゃうね。」
困った顔で上目遣いに見上げる先輩に、俺の心臓は跳ね上がる。
そんな顔されたら、俺の理性は吹っ飛んでしまいそうです。
思わず先輩に触れてしまいそうな両手を、辛うじて押し止める。
先輩は、そんな俺にはまったく気付きもしないで、絡んだ髪を解くのに集中していた。
こんなに先輩の近くにいることなんて、初めてだ。
髪が流れる度に、シャンプーのいい香りがする。
部活の時はいつもまとめられているから、よくわからなかったけど。
近くで見ると、本当にさらさらとした柔らかそうな髪。
いつも願っていた、先輩の近くにいたいって…それが、こんな事で、叶ってしまうなんて。
ゴメンなさい、先輩……先輩は困ってるっていうのに。
後ろめたさを感じながらも俺は、先輩がこんなに近くにいる事が嬉しくて。
いつまでもずっと、解けなければいいなんて、とんでもない事まで考えている。
神様お願いします。
クロスを見つめて、心の中でそう呟く。
こんな時ばかり縋って、都合のいい事ばっかりだって、それは承知してるけど。
それでも俺は、もう少しだけ、今のまま時間が止まればいいと。
そう、思ってしまうんです。
END
WEB拍手公開。<2007.5.17>
サイトUP。<2007.9.13>
WEB拍手から、繰上げ。
解こうとすると、余計に絡まったりして。
きっとこの後、部室に来た跡部様達に、
冷めた目で見られたりするんだと思う。
肩に掛けようとして、泳がせた手の行き場に
困って、オロオロしてるといい。
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