桜舞幻想

※名前変換なし。


窓の外には、舞い散る桜の花びらが、風に流されるままにヒラヒラと。
昨年の俺は、この光景を教室の外から見ていたんだ。
ここは、招かれなければ、足を踏み入れることのできない場所だったから。

あの人は、一番陽の当たる窓際の席で、机に突っ伏して熟睡していた。
その傍で、あの人が窓辺にもたれて髪をかきあげてた。
あの人は、一番後ろの席で頬杖をつきながら、洋書の原版なんかを読んでた。
あの人は、その前の席に後ろ向きに座ってちょっかい出してた。
その横で、あの人が机によしかかって眼鏡の奥の瞳を細めてた。
それを呆れがちに眺めていたあの人が、俺に気付いて声をかける。
「そんな所で、何やってんだ、長太郎。用があるなら、こっちに来いよ。」
その時に初めて、入るのを許される場所。
遠巻きから見ていた視界に、あの人達と、窓の外でヒラヒラと舞う桜。

ずっと、その光景を見られると思っていた。
いや、本当はずっとなんてありえない。
それぐらいは、わかってたけど。
見られると思ってたのは、俺の願望。
今、俺は、その光景を、あの人達の残像の残る場所から見ていた。
あの人達のいない、あの日のおぼろげな残像。
俺だけがくっきりとした輪郭を持って、ここにいる。
まるで、まったく別の場所にいるみたいだ。
でも、ここは、あの日と同じ場所。

自分だけが、ポツンと一人取り残されたみたいで。
俺は、無意識にあの人達の存在を探していた。
そんなこと無駄だって、心の奥で叫ぶ声に、耳を塞いで。

「そんな所で、何やってんだ。鳳…。練習、始めるぞ。」
背後からかけられた新部長の声で、俺は弾かれたように意識を取り戻す。
あぁ、そうだ…これからは俺達が最上級生として、率いていくんだ。
あの人達が残した、かけがえのない場所を。
「ゴメン…今、行くよ。」
俺は、窓の外の光景を背に、彼の後を追う。
桜の花びらが、風に吹かれて高く舞い上がった。

「だ〜めだなぁ、ちょーたろー。」
「ジローに言われるなんて、同情するね、僕は…。」
「まったく…なってねーな。」
「ダメダメじゃん。」
「まぁ、そない言うなや。」
「しょうがねぇ。ま、そこが長太郎らしいよな。」

おぼろげに、あの人達の声が、した…。


END


WEB拍手公開。<2006.4.11>
サイトUP。<2006.5.27>

WEB拍手から、繰上げ。
ちょたが3年に進級して、それまで3年生がいた場所に、
実際に自分が立ってみて思ったこと…なんてイメージ。
卒業してしまった彼等に、まだ少し寂しく思ってるちょた。
その教室に残っている、先輩達の幻想を感じたり…。
してもらえたら、いいなぁ、と思う。

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