僕はマネージャーを辞めて、選手としてテニス部に再入部しました。
そう言う意味で、まだまだ僕は新入部員で、今年の夏休みは集中的に練習に励むつもりでした。
でも、全国大会に出場する7校の合同学園祭が開催されることになって、僕は練習と学園祭の準備に追われてしまいました。
幸いにも会場にはテニスコートが設置されていて、準備の合間に練習する事もできました。
伴田先生の計らい(?)で、亜久津先輩も参加することになったので、たまに練習も見てくれました。
(本当に、見るだけだったけど。)
おかげで、家に帰るとそのまま寝てしまうほど、僕はくたくたになってしまって。
結果的に、夏休みの宿題が疎かになってしまった…というのは、ただの言い訳になるですね。
明日で、夏休みも最後です。
目の前には、終わっていない宿題のテキストが積み上がってます。
この宿題は、きっと明日1日かけてもできるかどうか。
本当は…練習も準備も休みの明日…また一緒にお出掛けしたかったです…。
もう、先輩と会える日は、あと少ししかないです。
マネージャーになってください、ってお願いも、返事をもらえるかどうかわからないです。
さっきさよならしたばかりだけど、先輩のことを考えてるとどうしても会いたくなってしまいます。
最近買ったばかりの携帯を握り締めて、一番上にある番号をじっと見つめました。
どうしよう…明日…明日……。
「先輩、明日は何か予定があるですか…?」
ごめんなさい、先輩…でも、やっぱり会いたくて…。
僕は、思わず先輩の番号を押してしまいました。
「先輩は、教え方が上手です。すごく、分かりやすいです。先生みたいです。」
「そうでもないよ。もし、そうだとしたら、太一君の呑み込みが早いからだよ。」
先輩の照れたような笑顔が、大きな窓から入る陽光を浴びて、眩しく見えます。
静かな図書館で、僕のノートに書きこむ音がやけに響いている気がします。
それよりも、隣に座って教えてくれる先輩にちょっとドキドキしてしまって。
そのドキドキが聞こえてしまったらどうしようなんて、思うくらいです。
「宿題を手伝って欲しい。」という無理なお願いを、先輩は快く引き受けてくれました。
先輩のおかげで、あれだけあった宿題も何とか目途がつきそうです。
知り合ったばかりだけど、もう僕にとって先輩は、ずっと一緒にいて欲しい人なんです。
お姉さんは…嫌…です。
「そろそろ、お昼にしようか。お弁当、作ったんだ。そこの公園で、一緒に食べよう。」
僕達は図書館の近くの公園で、先輩が作ってくれたお弁当を食べることにしました。
僕は、先輩が作ってくれたお料理が食べられるなんてすごく嬉しくって。
アヒルの形のウィンナーとか、少しお砂糖の入った卵焼きとか、りんごのウサギとか。
ハンバーグの中にはちょっとピーマンが入ってたけど、すごく細かくしてあったから全然気にならなくて。
「先輩は、料理もすごく上手です!」
「そうかな。ありがとう。」
「ん?お前は…山吹のマネージャーだったか…。こんな所で、奇遇だな。」
僕達の前を通り過ぎようとして、何かに気付いたように立ち止まって声をかけられました。
がっしりとした体格に、意思の強い真っ直ぐな視線が印象的な、見覚えのある人です。
確か、不動峰中学の部長さんで…橘さん、ですね。
僕がマネージャーを辞めて、選手として入部した事を話すと、頑張れって優しい瞳を向けてくれました。
そして…。
「お姉さんと、仲良くな。」
僕はちょっと、自惚れてたんだと思います。
一緒に先輩の手作りお弁当を食べてる僕等は、周りから見て、もしかしたら…恋人同士に…見えるんじゃ……なんて。
「太一くん?」
心配そうに覗きこむ先輩の瞳を、僕は真っ直ぐ見ることができません。
本当は、先輩もそう思ってるですか?
でも僕は、弟じゃ…ない。
例えば…。
跡部さんのように、威厳があるとか。
鳳さんのように、背が高いとか。
橘さんのように、落ち着きがあるとか。
柳さんのように、分析力があるとか。
亜久津先輩のように、頼もしいとか。
千石先輩のように、機転がきくとか。
越前君のように、その自信に見合った実力と強い精神があるとか。
数え上げればキリがないけど、そのどれもが僕には足りないものです。
先輩の隣にいるためには、いったいどれだけ必要なんでしょう。
僕は、先輩の隣に相応しい、強い人になりたい。
だから、それまで、待ってて欲しいです。
僕が、それを自分の口でちゃんと言えた時、あなたは笑ってくれるですか?
END
<2006.4.23>
壇君は、跡部様に立ち向かうこともできます。
鳳君を、うろたえさせる事ができます。
橘さんと、真っ直ぐ話が出来ます。(当たり前?)
柳達人に、教えを受けることもできます。
亜久津先輩に、目をかけてもらえます(笑)
千石先輩に、可愛がってもらえます。
リョーマくんと、仲良しになれます。
これだけできれば、最強だと思うけど、ね…。
知らぬは本人ばかりなり。
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