私には、夢があった。
いつか素敵な人が現われて、私を上からぎゅっと抱きしめてくれる。
そう、私が隠れてしまうぐらいすっぽりと、大きな胸の中に包んでくれる。
うっかりそれを口にしてしまったばっかりに、私は友人のに大笑いされている。
普段は男の人に興味ないような顔してた私が、そんな事言い出すなんて思ってなかったんだろうけど。
あぁ…言うんじゃなかった…。
っていうか、そんな大口開けて何時までも笑ってると、彼氏に写メで送ってやるんだからね。
の彼氏は他校生で、まだ付き合い始めたばかりの彼女は、こんな姿をさらしてはいないはず。
彼の前では、口元に手をあてて「クスッ。」と笑う、可愛い女の子で通しているはず。
…彼女は可愛い…女の私から見ても助けてあげたくなる位、小柄で可愛らしい。
男の人にしてみれば、こんな女の子と一緒に歩きたいと思うんだろうな…と、身長175cmの私、は思うわけです。
小学生の頃から他の子よりも頭一つ出ていた私は、中学校入学と同時にバレー部に入部した。
もちろんバレーは好きだったし、身長があるからと周りから薦められたのもあったし。
それが功を奏したのか、私の身長は見る間に伸びていった。
現在の身長、175cm…男子は私の横に並びたがらない。
バレー界ではそれほどではないけど、やっぱり普通の女子より大きいのは確か。
私の横は、何故か小柄な女の子が並びたがる…理想の身長なんだそうだ。
はぁ〜っ、と、深いため息を一つ。
こんなんじゃ、夢の実現どころか彼氏が出来るかどうかすらも怪しい。
そんな私の目の前で、はまだ笑っている…絶対に、ばらしてやるんだから。
今日は朝からずっと雨降りで、放課後になっても降り止まなかった。
こういう時の体育館は、一気に人口密度が上昇して鬱陶しい。
本当なら、男子バレー部が練習試合で他校に行っている今日は、コートを好きなだけ使えるはずだったのに。
それもこれも、隣のコートで体力作りに励んでいる200人近い大所帯がその原因。
いくら総合体育館並の設備を誇るとはいえ、これだけの人数がいれば多少窮屈に感じる。
その団体の頂点に立つレギュラージャージを着込んだ連中は、ネットを挟んでのラリー練習を始めていた。
うちの部員達もその連中に見惚れてて、おまけに追っかけのギャラリーまでもが体育館に押し寄せてるものだから、
はっきり言って練習になんかなりません!
黄色い声が響くのを横目に、すっかり身の入らない練習は時間だけが過ぎていく。
「あぶない!」
急に近くで聞こえた声に振り返ろうとした私は、足元に転がっていた物を確実に踏んづけた。
それはころころ転がる不安定な物…黄色い、小さな、テニスボール。
当然のようにバランスを崩し、私は前のめりに倒れ…るはずだった。
「大丈夫ですか?」
心配そうな声が、頭の上から聞こえてくる。
上から…?
ギュッと閉じていた目を恐る恐るあけると、私の身体はしっかりと支えられ、私の手は見慣れない物を硬く握り締めていた。
それが今まで隣で嬌声を浴びていた連中が身に付けているジャージだと気付いて、ゆっくりと見上げていくと胸元で揺れる
シルバーのクロスが見えた。
…え?この時点で顔が見えないって、どういうこと?
普段は同じ目線か、見下ろすぐらいで見える相手の顔が、見えないって……。
「どうしました?怪我でもしましたか?」
うろたえている声は、やっぱり頭の上から聞こえて来る。
でも、その声がとても優しかったから、なんだかとても心地よかった。
「…あの…たぶん、大丈夫…。ありがとう。」
「よかった!俺が声かけたりしたから、余計にボール踏んじゃったかと…。」
声の方にもう少し顔をあげると、声と同じぐらい優しい笑顔が降りてきた。
悲鳴に近い声が体育館内に響いている。
さすがにこの状態が異様だと悟った男子テニス部部長様が、指をパチンと鳴らすと一瞬で静まり返る館内。
おぉっ!これが有名な、跡部の指パッチン(?)
私に向いていた彼の視線は、それを合図に逸らされた。
変な所に感心している私は、やたら大柄な男子を従え近付いてくる跡部をぼんやり眺めていた。
「オイ、鳳。いつまでも何やってんだ。あぁ〜ん?」
「あの…ボールを拾いに…。」
「そんなのは、1年に任せろと言ってるだろう。」
「でも、俺が一番近かったんで…ボール踏んで怪我でもしたら、大変だと思って…。」
「そんなことするのは、そこの”そいつ”ぐらいだろう。」
頭上で会話が交わされるのを黙って聞いてたけど、跡部の言う”そいつ”っていうのは、もしかして私のこと?
跡部サマの指先は、ビシッ!って音が聞こえるぐらい確実に私を指差している。
「ちょっと、跡部!私ぐらいって、どういう意味!」
「実際、そのザマだろうが!」
腕を組んで勝ち誇ったような跡部の言葉に、私は何も言い返せない。
まったくもって、その通りでゴザイマス…。
「どうでもいいが、。お前、いつまで鳳に抱きついてるつもりだ?」
抱きついてる?私が?誰に?
その時初めて、自分の置かれている状況が理解できた。
見上げると、真っ赤になって動揺している鳳君(というらしい)と目が合った。
どうやら彼も、そんなこと考えてなかったらしい。
あぁ、だからさっき、女の子達の悲鳴が聞こえたんだ。
男子テニス部レギュラーといえば、アイドル並に人気があるんだっけ。
きっと彼にもファンがたくさんいるはずだ。
でも、相手が私なら誰も気にならないんじゃない?
跡部みたいに、私のことを女だと思ってないのが多いから。
「も、鳳ぐらいの男と並ぶと女みたいに見えるもんやなぁ。」
跡部の後ろで笑っている忍足が、丸眼鏡の奥の瞳を細めている。
ほらほら、こういう奴もいる…絶対に、面白がってるでしょ?
でも、こんな状況だというのに、なんだか他人事のように考えている自分も少し可笑しかった。
「スイマセン!俺、考え無しで…女の人に、失礼でしたよね!」
鳳君はそう言って、私を支えていた腕を離した。
自然とジャージを握り締めていた私の手も解かれる。
改めて彼を見上げてみて、私の横に並びたがる女の子達の気持ちがわかった気がした。
理想の、身長…きっと、こんな感じなんだろうね。
「鳳、そんなのに関わってないで、さっさと練習に戻るぞ。」
「…よかったなぁ、女扱いしてもろて!」
「あ…は、はい!じゃ、失礼します。あの、…先輩。」
失礼な捨て台詞を残していく跡部達の後を、頭を下げて申し訳無さそうに鳳君は戻っていった。
奇特な人だ…なにより、私をちゃんと女扱いしてくれたじゃないか。
私よりも大きな身体で、しっかりと支えてくれたじゃないか。
…あれ、もしかして、私の夢って、今、叶ったとか、いわないデスカ?
――私が隠れてしまうぐらいすっぽりと、大きな胸の中に包んでくれる――
彼が支えてくれた部分から、じわじわと熱が冷めていく感じがした。
その感覚が少し名残惜しくなった…なんてことは、絶対に口にしない。
もし、また、こんな機会に恵まれたとしたら…今度はすぐには離さないで欲しい…なんて思ったことは、絶対に口には出さない。
END
初めての夢仕様ひとりごと…。
名前変換の意味があんまりないです(-_-;)
突発的に始めてしまったちょた夢ひとりごと。
行き当たりばったりで、いつまでつづくやら。
まぁ、気長に期間限定(意味不明)で…。
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