中学校を卒業する頃から、急に伸び始めた身長。
トレーニングを積むほどに、程よく付いてきた筋肉。
同年代の選手から見れば、抜きん出ているパワー。
スポーツ選手として、恵まれた体格。
初対面の人達は、一目でスポーツをする人間だと気付く。
「君は、何をしているの?
野球?サッカー?それとも、空手とか…?」
そして、その競技名を告げると、こぞって眼を見張るのだ。
「テニスとは、意外だね。」
「そうは見えないね。」
そんな事言われるのは、もう慣れた。
俺は、テニスが好きで、それだけだ。
誰が何を言おうと、どうでもいい、かまわない。
ただ、それを妨げるものは、何であっても許さない。
立ち塞がる敵を突破するために、俺はこの力を揮う。
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徐々に忍び寄ってくる追っ手の気配に、有無を言わさず彼女を引き寄せた。
身を隠すには頼りない教壇の陰で、二人、息を殺す。
カタカタと小刻みに震える細い肩に、俺は恐る恐る手を伸ばす。
強く掴めば壊れてしまいそうなほど、小さな肩。
俺は…俺の力は……彼女のこの震えを抑えてやる事もできない。
彼女の恐怖を、消し去る事が……できない。
強く力を込めれば込めるほど、彼女を壊してしまいそうで、怖い。
人より力が強いといっても、役に立たなければ意味が無い。
教室の戸が開かれ、薄ぼんやりした灯りの中に、怪しい仮面が浮かぶ。
小さく声を上げて、縋り付くように身を寄せた彼女は、一層身体を震わせた。
俺の服をギュッと握りしめ、何の疑いも無く縋る彼女。
何が何でも、護りたいと思った。
彼女にとって、今、ここには俺しかいないのだから。
ゲームのように命を扱う、イカレタ野郎に一撃ぶちかまして。
例えそれで、俺の選手生命が失われようとしても。
俺の、この力でもって、障害を突き破る。
こんな事しかできない俺には…他にこの力の使い道が見つけられない。
………†………†………†………†………†………†………†………†………†………
時折、意識の深奥から浮かび上がってくる記憶。
もう随分経ったというのに、あの時の彼女の身体の震えが、鮮明に蘇る。
こんな時は、きまって彼女を不安にさせている時なのだと、ようやくわかった。
俺の肩にもたれて、静かに寝息を立てている彼女の、小さな肩をそっと抱きしめる。
微かに身じろぎ、フッと息を吐くと、そのまま身体を預けてくる。
今の俺には、彼女が震えないないように、包み込む事ができるのか。
それは、まだわからないけれど…。
俺の、この力の使い道は、きっと彼女を護るためにあるのだと。
そうでありたいと、思うんだ。
[2009.11.24]ブログUP
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