いつも通りの街を歩いていると、フッ、と一点が気にかかり足を止める。
背中から氷水を流し込まれたような、凍りつく冷気に包まれる。
肌寒さに震えが止まらないのに、体中の毛穴から汗が噴きだす嫌な感覚。
…アルマが開く瞬間だった。
空間が歪み、小さな闇が渦を巻きながら濃い漆黒の暗闇へと広がっていく。
周りの景色がすべて闇に飲み込まれた時、その奥底で蠢いている異形の者が姿を現す。
異形の者…現世と隣り合わせに存在しているという魔界に住まう魔民(モノマ)と呼ばれる者達。
甲高く耳障りな声で奇声を上げる異形の者と、まさか自分が係わり合いになろうとは、夢にも思わなかったが。
この程度の魔民なら、モリが居ずとも自分だけで祓う事も可能だろう。
精神を集中し気をためると、血液を通り体の中を熱くたぎる物が駆け巡るのを感じる。
荒れ狂う気を押さえ込み、右の掌の一点へと集中させる。
そして、大地に右手をかざし埴の恩恵を賜る神の御名においてその言霊を告げる。
「−−−−−−」
言霊と同時に発動する衝撃は、大地を裂き、地響きを上げて魔民に襲い掛かる。
耳をつんざくほどの断末魔をあげて、魔民はその存在を消した。
魔民が滅するとともに、歪んだ空間も吸い込まれ消滅していった。
あとには、何事も無かったようないつもの日常の風景が広がる。
軽い脱力感を感じ、その場から動けずに立ちすくむ。
そうしているうちに立ち眩みも治まり、また静かに歩き出す。
あのハタレとの争いの後、頻繁にアルマが開く事は無くなった。
だが、たまにこうしてアルマが開いて魔民は現世へと紛れ込む。
自分の中の荒ぶる神は、イミナを交わした最愛の友と一緒に旅立ったというのに、相変わらずこの霊力は残されていて、
かつては同じ人としてその生涯を閉じた者であるかもしれない魔民を、何のためらいも無く滅している自分。
一時、あれほどの葛藤に苦しみ、自分の身を挺して守護してくれる水支までをも追い詰めたあの感情は、無くなってしまったのか。
繰り返される凄惨な争いに、麻痺してしまったのだろうか。
何も感じないままに言霊を放つ自分は、一体どんな表情を浮かべているのだろう…。
人の世がある限り、魔界が無くなる事はないとこの土地を守護するものが言っていた。
いずれは自分も魔民に成り下がり、これまで自分が祓ってきたように、霊力を持つ言霊を操る者達に滅せられる運命にあるのかもしれない。
その時、言霊使いと対峙する魔民と成り果てた自分の姿が浮かんだ。
言霊使いは、その口元にうっすらと笑みを浮かべて、大地に手をあてがい言霊を放つ。
体を引き裂かれる程の衝撃が襲い、闇とともに消滅していく視界に、恍惚とした表情でそれを見ている自分の姿があった。
END
2004.4.22
ゲームの後日という感じです。
カナテ「埴史」×モリ「水支」で。
でも、水支の出番がないし…。
お題はホラー系ということですが、
それほどホラーでもミステリーでも
ないですね(^_^;)
戻る