13.映らない鏡



 「なぁ、お前さぁ…。」
鏡の前で、問いかける。
多分、他人が見れば、不思議な光景。

 「お前って、今、幸せか…?」
もちろん、返事は返ってこない。
それは、わかりきったこと。

 「俺は…どうなんだろうな…。」
後ろ向きなのは、充分承知。
後ろ側しか映さない、鏡と同じ。

 「お前に、伝えたかったんだ。」
たった一人、心に残してしまった。
他のモノは、すべて捨ててしまったのに。

 「俺は、お前が嫌いだったよ。」
全部捨ててしまった、過去の俺。
もうどこにもいない……俺…。

鏡の前には、誰もいない。

ポッカリと、穴が開いたように、
真っ暗な闇が拡がっているだけの、
何も映らない、鏡が1枚。


END

WEB拍手公開。<2006/6/1>
サイトUP。<2006/8/10>

WEB拍手から、繰上げ。
過去の自分を、全部捨てて。
最期に残った自分に、問いかける。
鏡の中に残ったのは、嫌いだった自分。
そして、何も映さなくなった鏡。
そんなイメージ。

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