「あれには、絶対に、触れてはならないよ。」
そう言っていた母が、亡くなった。
僕に残されたのは、触れてはならぬもの。
僕は、その言いつけをずっと守っていた。
だから、これが何かもわからない。
棚の上の、不思議な、小さな、箱。
僕も結婚して、子供が出来た。
小さな手で触れようとする息子を、僕は引き寄せる。
「あれには、絶対に、触れてはならないよ。」
名残惜しそうに、部屋から出て行く息子を見送る。
僕はまだ、母の言いつけを、守っている。
僕には、そろそろ、逝く刻が近づいている。
心残りは、あの、触れてはならぬもの。
逝く前に、一度だけでも、触れてみたい。
僕は、そっと、棚の上へと手をのばした。
そして…。
「父さん!!」
息子は、僕の言いつけを、守るだろうか?
END
WEB拍手公開。<2006/8/10>
サイトUP。<2006/11/2>
WEB拍手から、繰上げ。
触っちゃダメだ、って言われると、すごい気になりませんか?
それをずっと守ってたけど、どうしても触ってみたくなって。
結局、触ってしまった時が、最後になるんだよ…っていう話。
それが、子供に伝わったのかは、彼にはわからないけど。
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