言霊



[言霊] 言葉一語一語には神が宿る。
その語に宿る神の力を借り、気を奮い立たせ、邪な気を祓う。

神の恩恵を受け、言霊の力を使役する者…。
それが、[言霊使い]。
常ならざる事象に遭遇し、教示を賜った巫女様が私をそう呼んだ。
埴の神の恩恵を受け、埴の言霊を操ることができるのだと。
それまでの私には、そのような超常現象的なものを自分の中に認めることはできなかった。
自分の眼で見た事しか、真実とは受け止められない…そんな狭量な心の持ち主でしかなかった。
その、おぞましい闇の眷属を目の当りにしても尚、事実を受け止めることに抵抗を感じている。
それほどまでに、硬結な男でしかなかった。

なぜ、お前はその言葉を私に告げるのか。
あの、闇に蠢く魔の者達を破邪す力に目覚めた今も、まだ心は迷い揺らぐ。
お前の、その潔いぐらい真っ直ぐな言葉を、受ける資格も無いような男に。

自分の中で湧き上がる、その力の存在を知ったのは、多分、学生の頃だろう。
だが、私はそのような事実を認めるわけにはいかなかった。
説明のつかない、訳のわからない、そんな物はただの気の迷い。
理論的に立証できる物、真実とはそれだけだと頑なに信じていた。
あの日、疎遠になっていたお前と再会したあの時から、私は自分の真実がこれほどに脆く細微であること知った。
お前の言葉に宿る力に、私の瑣末な真実が書き換えられていく。

 「俺と一緒に…闘ってください。先輩…。」
 「闘うなどと…なぜ、私でなければならない!そんな力など、私には…無い…。」
 「あなたじゃなきゃ、ダメなんです!あなたのことは、俺が守ります!…命に、換えても…。」

お前が、命を賭けると言う。
私はその言葉に、流されていく。
そして、それを強いる事を拒む反面、永遠に続く事を願う。

‥†‥†‥†‥

 「先輩、壺はどこに隠してあるんですか?」
 「なんだ、いきなり?」
 「ほら、金閣銀閣の…。返事をしたら吸い込まれる壺ですよ。」
 「何を、訳のわからないことを……。」

私の言葉に、表情を曇らせるお前。
2人きりの部屋。

 「じゃ、俺は式神ですね。」
 「さっきから、何を言っているんだ?」
 「俺は、あなたに使役される式神なんですよ。」
 「はぁ…ますますわからんぞ、江藤…。」

私の言葉に力が宿るなら、何故こんな言葉しか出てこないのだろう。
私が言葉を紡ぐたび、お前は苦しげに顔を歪ませる。

 「あなたの言霊一つで、俺の運命が左右されるんですよね…。」
 「何を…大げさな事を…。」
 「俺の存在は、あなた次第。」

私は、これほどさもしい男だったのか。
たった一つだけ、お前が表情を和らげる言葉。
私はこの言霊で、お前を呪縛しているのだ。

 「…水支……。」

私の言霊が、お前に[呪]をかける

「だったら俺は、あなたを憑り殺してしまうかもしれない…。」

そうしてお前は、私にそっと近付くだろう。
お前が、私の元から逃れないよう[呪]で絡めたように。

私は黙って、お前を受け入れよう。


END

2004.9.28

[言霊]といえば、まほろばでしょう(その2)。
実はこの話、[呪]と対になってます。
[呪]が水支で、[言霊]がハニーですね。
あいかわらず、本編ではありえない
ハニーがここに居ます。
こっちの方が、ラブ…(以下略)


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