19.離れぬ想い



この時期になると、思い出す。
はらはらと降る雪が徐々に湿り気を帯びてきて、黙って立ってる俺のコートに、水玉のように跡を付けていく。
こんな時はいつも、あの締め付けられるような想いが蘇ってくる。

「暖かくなってきたね。」
そう言いながらも両手をさすって息を吹きかけている姿に「矛盾してるぞ。」なんて、呆れる俺。
すると「そうだよねぇ。」って、いまさら気付いたみたいに笑うあいつ。

「ねぇ、冬ももう終わるね。」
どちらかと言えば、春が来ると言う方が、この時期に似合うと思ったけど。
あいつがそう言ったから「終わるんだな。」って、俺はそう答えた。

しばれてる間は払い落とせた雪が、今ではじわじわとコートに染み込んで、ゆっくりと身体を冷やしていく。
降る雪はまた冷気を連れて来て、吐く息が白い霧のように浮遊しては、空中に散っていった。
あいつは飛散していく霧を見つめて、儚い笑顔で「終わるんだね。」と、呟いた。

「まだ、終わりたくないな…。」
俯いて呟くあいつの表情はよく見えなかったけど、声の感じが何もかもを諦めてるようで。
「だったら、終わらなきゃいいじゃん。」って言う俺に、あいつの答えは聞こえなかった。

だんだんと増えていく白く冷たい結晶に、あいつの白い肌が溶け込んでしまいそうだったから。
霞みそうな視界を振り払うように、俺はあいつを引き寄せた。
ひんやりとした胸の辺りが、締め付けられるように痛みを帯びていた。

なぁ、あれからお前はどうしてる?
俺は、まだここにいるんだ。

俺はまだ…ここから離れられないんだ。


END

WEB拍手公開。<2006/3/14>
サイトUP。<2006/6/1>

WEB拍手から、繰上げ。
「冬が終わる」って、「春が来る」と言うよりも、
寂しい気がする(のは私だけ?)。
お別れの季節っぽい雰囲気が出てたらいいな、と。
「終わりたくない」あいつと、「離れられない」俺。
「あいつ」は、男女どちらでもとれるといい。

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