境界線



今、僕の目の前には、1本の線がある。
この線は、僕にとって重要な意味を持つ。
そう…僕が楽になれるかどうかの境界線。
眼下には、冷たいアスファルトが薄暗い街頭に照らされている。
僕はもう、楽になりたい…。
この線を越えれば…1歩踏み出せば、それだけでいいんだ。

「なんで、そんなことを考えるんだ?」
「そうだよ!そんなこと、やめなよ!」

いつも、そう…僕が楽になろうとするのを、横から口を出して邪魔をする。

「ほっとけ、ほっとけ…本人がやりたいんだから、やらせとけよ。」
「だよね〜、うちらが何言っても、やりたきゃやるんだからさぁ。」
「そんな事…言わないでよぉ、お友達でしょう…。」
「心にもない事、言ってんじゃねえよ!」
「もう、いいじゃん、そんなことどうだってさぁ…。」

口々に好き勝手なことばかり言って、もう、いい加減にしてくれよ。

「あなたのためなのよ。」
「君が、心配なんだ。」
「…ひっく…ひッく……けんか…うっく…やだ……。」
「ねぇ、なになに?またやってんのぉ?」
「うぜーんだよ、なんなら、俺が押してやろうか?くくっ…。」
「そうだ、やれやれ!早くしろよ〜!」

どんどん人数は増えていく。
みんな、自分の感情を僕に押し付ける。
僕はもう、そんな生活はうんざりなんだ。
楽になりたい、自由になりたい、僕は一人になりたい…!

僕はとうとう、1歩を踏み出す。
足元の感覚が、フッと消えた。
浮遊感に包まれて、僕は思う。
あぁ、これで、楽になれる…僕は、一人だ……!
思わず、笑顔がこぼれた。



俺は、古びたマンションの屋上に立っている。
柵を乗り越えて、1歩踏み出せば冷たい地面に叩きつけられ、一巻の終わり。
俺は軽く身震いして、踵を返す。


こうして、また一人…俺の中から存在が消えた。


END

2004.7.12

短いです…。
自分の中の、何人もの自分。
それも、一種境界線?
ちょっと、無理ありですね。


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