[呪]とは、のろい、まじないのこと。
人の想いや恨みが不思議な現象となって現れるもの。
一番身近な[呪]とは、名前。
そう、星宮神社の神主は言っていた。
子供の頃に読んだ西遊記の物語、名を呼ばれて返事をすると吸い込まれてしまう壺。
最近流行った陰陽師、鬼と化した者に名を知られると憑り殺されるという。
また、力ある者が鬼の名を悟り、式として使役したとか。
鬼神を侮り、憑り殺されたとか。
自分の名を知られるという事が、これほど重要な意味を持つものだと知っていれば、あんな軽率な事はしなかった。
それほどまでに、浅はかなただの子供だった。
今さらそんな事を知ってどうする。
すでに、あなたの[呪]に囚われているのに。
みずからあなたに、囚われた俺に。
中等部に入学したての頃、江藤の家系に、それにへつらう他人に、自分の中の血に、全てに反発していた俺は、
理不尽な憤りをまわりに撒き散らして粋がっているしか術を知らない子供だった。
ただ、必要以上に目を付けられないように、うまく立ち回ることができる子供でもあった。
だから学校にも真面目に行ってたし、外見は派手にしていたが教師の受けは悪く無かった。
あの朝、生活指導強化習慣と称した遅刻取締りに、高等部生徒会長として校門に立つあなたに会うまでは。
あなたは強烈な印象を残し、俺は吸い寄せられるように惹かれていった。
「君、名前は?」
「江藤…水支……です。」
「江藤、水支…か。いい名だな。」
あなたの声が、俺の名を呼ぶ。
俺の全神経があなたに絡め取られる。
そして、みずから囚われの身となった。
‥†‥†‥†‥†‥
「先輩、壺はどこに隠してあるんですか?」
「なんだ、いきなり?」
「ほら、金閣銀閣の…。返事をしたら吸い込まれる壺ですよ。」
「何を、訳のわからないことを……。」
呆れた表情のあなた。
2人きりの部屋。
「じゃ、俺は式神ですね。」
「さっきから、何を言っているんだ?」
「俺は、あなたに使役される式神なんですよ。」
「はぁ…ますますわからんぞ、江藤…。」
眉をしかめて怪訝な顔をする。
あなたが俺の名を呼ぶなら、忠実な式神としてどこまでも付き従うだろう。
「あなたの言霊一つで、俺の運命が左右されるんですよね…。」
「何を…大げさな事を…。」
「俺の存在は、あなた次第。」
「…水支……。」
ほら、あなたはそうやって、俺の名を呼ぶんだ。
あなたの言霊が、俺を捕らえ続けるんだ。
じゃあ、俺の存在価値が無くなったら…。
「だったら俺は、あなたを憑り殺してしまうかもしれない…。」
俺は、あなたにそっと近付く。
あなたが俺の存在を消してしまう前に、その言霊を紡ぐ唇を塞いでしまおう。
俺があなたを奪ってしまおう。
END
2004.8.31
[呪]といえば、まほろばでしょう。
この話、てるたにしてみれば、すごい展開なのかもしれない。
まほろばのほうでは、まだまだなのにね。
こっちの方が、ラブ×2らしい…。
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