BURNING DESIRE 3



この走りなれた妙義で、マシンを乗り換えたばかりとはいえ、こんなふざけた野郎に負けるわけにはいかねぇ!
そう意気込んで走り出した中里だが、相手も噂どおりなかなかいい腕を持っている。
相当キレた状態で始まったバトルだったが、そんな感情もいつしか消え去っていた。
気を抜く事は出来ない。今はただこのバトルに集中するのみだ。
もっとも、そうでもないと振り切れないほど、この相手はいい走りをしている。
一人で走らせとくのは、もったいねぇなぁ…そんなことまで考えていた。


一方、庄司慎吾はなかなか縮まらないRとの差に、苛立ちを隠せずにいた。
ちくしょう!ちくしょう!ちくしょう!
こんなマシンに頼っているような奴に負けるわけにはいかねぇ!
そう思いながらも、あれほどに憧れていた走りを特等席で見ることが出来て、マシンは変わってもあの走りは変わらないんだな…と、見とれていたのも事実だった。
こんな走りを見せ付けられては、小細工も何もする気にはならない。


闇に溶け込む漆黒の獣のようなRと、炎のように浮かび上がる深紅のEG−6。
着かず離れず走る2台のマシンに、ギャラリー達は感嘆の声を上げる。
今まで、こんなに中里の走りに喰らい付いている奴が妙義にいただろうか?
中里も、Rに乗り換えてからの最高タイムを叩き出していることに気付いているのだろうか?
これほどまでに見ごたえのあるバトルになるとは、誰にも想像できなかった。


そんなバトルにも、いずれ終わりは来る。
EG−6は懸命にRを捕らえようとするどい突っ込みをみせたが、ゴール地点に先に到着したのは、スタート同様中里が先だった。
僅かに遅れて飛び込んで来たEG−6は、スピードを落とさずにそのまま走り去っていった。
車から降りかけていた中里が慌ててRに乗り込み、EG−6の後を追う。
公道を走るときはいつも騒音を気にしながら走っている中里だが、今回ばかりは心の中で近所迷惑を詫びながらEG−6を追いかけた。
どうしても、一言言ってやらなければ気が済まなかった。
かなり強引にRを鼻先にねじ込み、派手なブレーキ音と共にEG−6が動きを止めた。
ドライバーはハンドルに突っ伏していたが、運転席の横に立つ人影に気付くとドアを開け、ねめつけるように中里を見た。

「…んだよ。何か文句あんのかよ!」

車から降りてきた男に、中里は容赦なく言い放った。

「お前の負けだ。これに懲りて、バカなマネはやめることだな。いい腕持ってんのが、台無しじゃねーか!」

「くくっ…あーっはっはっはっ…。てめーと同じことしてんだよ!勝ちゃいいんだろ?どんな手でも!いい腕?バカなマネ?
 ざけんじゃねぇ!てめーにだけは言われたかねーなぁ!勝つために車乗り換えるようなてめーにだけはなぁ!」

それは中里自身も、気にしていた事だった。
自分がS−13を物足りなく思い始め、ついに手放す事を決めた時、もしかしたら自分の腕で勝負する事まで手放してしまったのではないかという慚悔の気持ちを拭い去る事が出来なかった。
だが、実際にRで走ってみて、ただの馬力で勝負する車ではない事を思い知らされた。
今までの自分の腕に、Rの性能が加わって初めて最高の走りができるという事を、身体に、精神(こころ)に叩き込んだのだ。
もう、迷いは無い。自分はこいつ〔R〕で勝負する。

「言い訳する気はねぇ。だが、今のバトルがRの馬力だけの勝負かどうかは、おまえにも判るはずだ。
 言いたい事があるなら、まず俺を捕らえてみるんだな!」

絶対、認めねぇ!庄司慎吾は声には出さないが、目の前の中里にその台詞を叩きつけた。
それは、中里にも視線で感じ取れた。この男の突き刺さるような視線は、バトルに負けた悔しさだけではない。
なにかもっと別の感情が込められている。そんな気もした。
中里は、Rのダッシュボードから一枚のシートを取り出すと、その男に差し出した。
白い文字で書かれた『Night Kid's』の文字。チームステッカーだった。

「うちのチームに入れ。俺を捕らえる事が出来れば、出て行こうがどうしようがおまえの勝手だ。
 何をしようと口は出さねぇ。その代わり、それまではバカなマネは止めるんだな!俺は、妙義にいる。」

「HUN!ご立派なリーダー様だな!そんなんで、俺を手なづけようってか!ずいぶん甘く見られたもんだなっ!
 貴様なんざ、すぐに捕らえてやるぜ!そん時になって、吼え面かいてんじゃねーぞ!」

ステッカーを握り締め、そう言い残してEG−6は走り去っていった。
残された中里は、これからあの男と共に走っていくのだとなんとなく感じていた。
そして、ふと気付く。

「あいつの名前…聞いてなかったなぁ……。」


END



やっと、終わりです。というか、終わらせた
みたいな感じですね。
一応、もう少し続きのような物も考えてるのですが、
それはまた、次のお話で。

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