夜も更けた頃、いつものようにぞくぞくと車が頂上に集まってくる。
それぞれがいかにもな走り屋仕様の車ばかりだ。
頂上に向う列の中に、オレはいた。
真っ赤なCIVIC。
最近、妙義を騒がせていた『デンジャラス』EG−6。
その存在に皆が徐々に気付き始め、そこかしこでざわめきが起こっていた。
頂上に到着すると、チームごとに数名がかたまっている。
一番の大所帯らしい人だかりに向って、オレはゆっくりと近付いていった。
「よぉ、今日はチームリーダーさんはいねーのかよ。」
いきなり声をかけたせいか、一斉に振り返った奴等の視線には、驚きの色が隠せない。
しばらく睨み合いが続いたが、その内の一人が口を開いた。
「中里さんに、何の用だ!この前のバトルの仕返しか!」
血の気の多いNigit kid'sのメンバー達が、オレの周りを取り囲んだ。
今にも飛び掛ってきそうな勢いだ。
だが、オレだって負ける気はない。
それに今日は、最高の通行手形を持っている。
ご隠居の印籠だ!頭が高いぜ!オレ様にひれふしな!
「オレは、オタクらのリーダーさんに用があんだよ!こいつの件でな!」
そう言って、ポケットから取り出した最後の切り札…チームステッカー。
取り囲んでいたヤツラがこれを見て、一瞬で2、3歩後ずさった。
大した威力だな、と、関心しきりのオレに向って、このチームに似つかわしくない、雰囲気の穏やかな野郎が進み出てきた。
「君の事は、中里さんから聞いているよ。いつ来るのかわからないから、いない時の事を頼まれていたんだ。ようこそ、我チームへ。」
それを聞いた奴等が動揺しているのは感じ取れた。
歓迎されない事はわかりきってはいたが…おもしろくねぇ。
「いるのか、いねーのか。はっきりしな!」
ムカつきついでに、ちょっとすごんで見せた。
それでも、この代理人はひるむ事は無かった。
「最近、どうしても抜けられない仕事を抱えてるみたいでね。走りに来れないらしいんだ。代理では、不満かい?」
顔色一つ変えずに対応するこの代理人に、ガラの悪い連中をどれだけ相手にしてきたか、年期の違いを感じた。
それにオレがムカつくのは、誘っておいてこの場にいない、中里ただ一人。
そう考えると、なんだかしらけてしまった。
「いねぇーんなら、いい。じゃな。」
そう言って、この場を後にする。
遠ざかる背後から、奴等の怒声が聞こえる。
「なんであいつがチームのステッカー持ってんだよ!」
「中里さん、あいつをチームに入れる気なのか!」
「なんだよ、説明しろよ!」
そうこうしているうち、そんなざわめきも聞こえなくなった。
あの代理人が、うまく言いくるめたんだろう。
オレも車に乗り込み、峠を降りた。
街へ帰る車中、こみ上げる怒りを収めようが無かった。
てめーが来いって言ったんじゃねーか!
妙義にいるって言ったんじゃね―か!
なんで、いねーんだよ!
…のこのこ行ったオレがバカみてーじゃねーか。
そのうち、だんだんと自分がみじめに思えてきた。
…なんなんだ、なんでオレが、あいつにこんなに振り回されんだよ!
あいつのやる事なす事、気になんだよ!
あの時、ステッカーを受け取った時の気持ちが思い出された。
あれほど憧れたステッカーを、この手にしている…本当は凄く嬉しかったんだ。
それが今、ポケットに押し込んだステッカーの存在が重い。
中里の本心が、読めなかった。
訳のわからないモヤモヤが、胸の内でくすぶっていた。
その訳は、今の慎吾には全く考えられない事だろう。
ただ、中里を捕らえることが出来れば、このモヤモヤは消える。
そう思うことしか出来なかった。
END
BURNING DESIREの続きです。
慎吾バージョンですね。
なんだか弱気な慎吾です。
オレ様じゃなきゃ慎吾でない!
…はずだったんだけどなぁ。
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