SILENT NIGHT



クリスマスだというのに、1人で過ごすのは今年が初めてだった。
いつもなら、大勢でバカ騒ぎしたり、その時の女と一緒だったり。
常に誰かと一緒にいたのに、今年はそんな気にならなかった。
どうしてだろうか?と、考えてみれば、思い当たる事はある。
最近はずっと妙義に通い詰めで、仲間といえば車関係のヤツラばかりだったこと。
当然、女っ気は全く無い。
チームのヤツラで飲み会をするような事も言ってたが、野郎ばっかで飲むなんていつもと変わらねーじゃん。
別に嫌いじゃねーけど、イマイチ乗り切れない気分。
ガッコの奴等も、クリスマス合コンとかで隣の女子大とセッティングするから来ないか?って言ってたけど、 なぁ〜んかそれも、イマイチ。
あれ?何でオレ、断りまくってんだろ?
どっちかに出てれば、こんな所に1人でいることもねーのに…。
こんな所…走れない妙義になんて…。
そういえば、チームの飲み会誘われた時、あいつもいねーみたいなこと言ってたよな。

「bPと2が不参加じゃ、盛り上がらないっすよぉ。」
「なに、中里来ねーの?」
「最近走りにも来れないみたいなんで、まだ確認してないっすけど多分だめそーっすよ。」
「ふ〜ん…そっか…」

たしか、新入りの幹事とそんなこと話したような気がする…。
そんなこんなでゴタゴタしてる内に、雪降ってきて走れなくなっちまった。
別に、走ろうと思えば走れないわけじゃないけど、すきこのんでこんなコース走ってクラッシュじゃシャレになんねーし。
じゃなんで、こんな所にいるんだろ、オレ?
また最初の考えに戻る。
自分でも、訳わかんねーや!


頭を冷やすつもりで、車から降りた。
空を見上げると、後から後から尽きることなく降りてくる雪。
自分の周りを螺旋を描いてはらはらと。
その様子を、飽きることなく眺めていた。
雪が降るのをこんなにじっくり見るなんて、初めてだ。
こんな風に降ってくるもんなんだな。
ガラにもなくそんなこと考えながら、ただボケッと雪を眺めてた。



「最近、中里と会ってねーよな。」

誰もいない駐車場に、オレの声が響く。
声に出していたことに気付き、唖然とした。
何、言ってんだ。オレは…。
あんな奴の面なんざ、見たくもねーや。
そう思ってるはずなのに、今考えてるのは中里のこと。
なんで、あんな奴の事…そうだ、きっとあいつがオレと勝負しねーからだ。
いつも仕事で、峠に顔を出しもしねー。
そんな奴が、bPだなんてほざきやがる。
これじゃ、いつまでたってもあいつにデカイ面されっぱなしじゃん。
早いとこケリつけて、あいつにほえ面かかせてやらねーと気がすまねー。


なのに…
あいつの事を考えるたびに胸くそ悪くなるのに、こんなに気になるのはどうしてだろう。
こんなに苦しいのは、どうしてだろう。
藍色の空を見上げていると、今、自分は一人なのだと思った。
一人きりの駐車場。
体に軽く積もった雪が、体温で溶けていく。
髪を伝い、頬を濡らす。
頬を濡らすのは、溶けていく雪か、それとも溶けていく頑ななオレの心か。



聞きなれたエンジン音が近付いてくる。
白く積もった雪を吹き上げ、その漆黒の車体が姿を現した。
本気の走りではないが、久し振りに聞くそのサウンドに、足元から震えが走った。
駐車場にいるオレに気付いたのか、ゆっくりと隣へ滑り込んできた。

「なにやってんだ、こんな所で。チームの奴等の飲み会じゃなかったのか?」

間抜けな面で、ふざけた事を言うこいつに、心底ムカついた。
それは、オレの方が聞きたい!

「いつからいるんだよ!びしょ濡れじゃねーか!」

そう言ってリアからタオルを取り出し車から降りると、おもむろにオレの頭をガシガシと拭きだした。
思いもよらない行動に一瞬戸惑ったが、どうにか中里からタオルを取り上げた。
中里は仕事から真っ直ぐ来たらしく、ワイシャツとネクタイ、スーツにスニーカーという、ちぐはぐな格好をしているが、 いつもとは違う社会人の中里の姿を見た気がして、オレは違和感を感じていた。

「お前こそ、こんな所に何しに来たんだよ!」

タオルを突っ返し、無愛想に聞き返す。
だまってタオルを受け取り、少し考えてから。

「…こんな日に、一人でいるのはちょっと…な。でも、チームや会社の奴等の集まりにこれから合流すんのもしらけるし…。
 ここに来たら誰かいるような気がして…いなくても、久し振りに軽く攻めてから帰るのもいいか、って…」

中里は、照れたように頬をかきながら、ボソボソと言った。
その言葉を聞いて、さっきの違和感が消えた。
こいつは、こういう奴だった。
そしてオレは、こういう奴だと知っていた。

「おまえこそ、どうしたんだよ。飲み会には、行ってないのか?」

そう聞き返されて、オレは答えに詰まっていた。

―どうして一人でこんな所にいたのだろう。―

その答えがわかったような気がしたから。

―ここに来たら、いるような気がして―

そんなこと、絶対に認めたくなかった。
こいつがいるかもしれないから、ここに来ていたなんて。
こいつが出ない飲み会だから、行かなかったなんて。
まるでガキみたいな感情に気付いて、自分でもビックリした。


「…行くぞ!」

そう言ったオレに、間の抜けた声が返ってくる。

「へ?…どこへ?」

まったく…bPなんだろ。そんなボケた面してんじゃねーよ!

「お前の部屋に決まってんだろ!女もいねー、金もねー、今さら仲間んとこにも行けねー、カワイソーなリーダー様に、
 優しいこのオレ様がつきあってやるっつってんだよ!飲み明かすぜ!ありがたいと思えよ!」

絶対に、認めねー!
認めねーから、気付かせねー!
このオレが、こんな奴のために、一人でここにいたなんて!

「バカ言ってんじゃねーよ!明日も仕事があんだぞ!飲み明かせるわけないだろっ!」
「だったら、オレ様がお前の分まで飲んでてやるぜ!気にすんな!」
「おい、ちょっと…!」

まだ、何か言いかけていたが、最後まで聞かずにさっさと車に乗り込んだ。
キーをまわすと、軽い振動と共に眠っていたEG−6が眼を覚ました。
窓を開け、エンジンに消えないように大声で叫ぶ。

「先に出ろ!お前の家なんて、知らね―んだから!」

そして、エンジン音に紛れて呟く。

―一人より、二人がいいよな―

中里はまだ何か言いたそうだったが、諦めて車に乗り込んだ。
Rの爆音とEGのそれが重なる。
今までシンとしていた峠が、一気に騒々しくなった。
SILENT NIGHT 聖なる夜に、2台のマシンが静寂を打ち破る。
これからもずっとこうして、2台で走れたらそれでいい。
そのうちオレが、あいつを打ち負かしてみせる。
そしたら、きっと…。
オレ達には、これがお似合い。


END


なんだろう、これは?
慎吾のなぜ?なぜ?の繰り返しだけになってしまったような…(^^;
中里も、あまりにも仕事人間だし。
こんなんじゃ、リーダー返上されちゃいそうだねぇ。

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