今日、あいつが峠に来てから、オレ何回見ただろう。
あいつの小指…今まで見たことの無いものが、そこにある。
その指の付け根に、苦しいまでの存在感を持ったそれ。
あいつの色で、光を吸収しながら存在するそれ。
黒曜石のように、輝くそれ。
次に見たそれは、サファイアの藍。
そして、アメシストの紫、ガーネットの赤紫へと、見るたびに輝きを変え、
やはりあいつの小指で存在している。
オレは、目が離せない。
コーヒー缶を玩ぶ、タバコを燻らす、風に落ちてくる前髪をかき上げる。
あいつの小指を確認する。
アクアマリンの水色、エメラルドの緑。
「おい、なんだよ、それ?」
耐え切れず、聞いてみる。
自分の小指を立てて、根元を指差し。
あいつも同じポーズを取る。
指差す先は、あいつ色のそれ。
そしてあいつは事も無く言う。
「ゆびわ…だが?」
「そんなこと、見ればわかるっつーの!」
「だったら、聞くなよ。」
呆れたように呟くあいつ。
付けてる物を聞いてんじゃなくて、なんで付けてるかを聞いてんだよ。
ハンドル操作の妨げになるとかって、リングなんて絶対に付けなかったじゃねーか!
まぁもっとも、あいつのごつい手にリングほど似合わねーもんはねーけど。
それを付けてるって事は、女でも出来たか?
女の言いなりで信念曲げるような、そんなやわなヤローに成り下がったのか?
そんなヤローに、振り回されてんのか…オレ…?
おもしろくねぇ……おもしろくねぇっ!
「んなもん付けて、デレデレしてんじゃねーよ!」
「誰が、デレデレしてんだよ!」
売り言葉、買い言葉。
その間にもくるくると色を変え、オレの気持ちを知ってか知らずか。
まるで、オレを試しているよう。
それが色を変えるたびに、くらくらと眩暈をおこす。
「やってられっか!今日はヤメだ!」
「慎吾!ちょっと…待てよ!」
車に戻ろうとするオレを追うあいつ。
言い訳か?
女々しいヤローだな。
…っつーか、なんの言い訳だ?
女からの貰いもんだから付けてるなんて聞きたくもねぇっ!
hun!知ったこっちゃねーや!
「聞け!慎吾!」
追いついたあいつに腕を捕まれ、仕方なく振り返る。
痛いぐらいに、強い力で。
オレの目の前には、あいつの握り拳。
その小指には、忌々しいあのリング。
「よーっく見ろ、慎吾。こいつがどんなしろもんか!」
どう見ても、リングじゃねーか。
…いや、よくよく見れば、なんか安っぽい……
「安っぽい女、捕まえたな。」
「どう見れば、そーなるんだよ!」
訳を聴けば、くだらね―話。
同僚がガチャガチャでとったおもちゃだと?
おもしろそーだから、1日付けてみろだって?
そんなくだらねーことで、オレを煩わしてんじゃねーよ!
くだらなすぎて、疲れちまったじゃねーか。
この落とし前は、きっちり付けさせてもらうからな。
そのリングは、体温で色を変える。
『心がわかるリング』
藍に、緑に、紫に、ピンクに。
それぞれが、それぞれの気持ちを表す。
今の色。
オレとあいつ、2人きりの色。
淡いピンク。
『しあわせな気分』
END
なんだか急に、思いついた話です。
実は、本当にあったりして、このゆびわ。
気持ちでというより、体温でころころと色を変えるゆびわです。
中里がリングではなく、ゆびわと言ったのは、本物とオモチャの違いを言ってたりして。
でも、説明しなきゃわからなかったりして…
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