Night Of Fire



土曜の夜もかなりふけた頃、メンバー達が大方引き上げたのを確認してそろそろ帰ろうか、と一服していた中里は、聞き覚えのある エンジン音が上ってくるのに気付き、その方へと気をめぐらせた。
ヘッドライトに一瞬目が眩み、光が遠ざかると闇の中に浮かび上がる深紅の車体。
EG−6…庄司慎吾のシビックだった。
少し前に引き上げたはずの慎吾が何故戻ったのか?
中里には見当もつかなかったが。

「中里、今日の予定は?」
「??」

もうすでに日付は変わっていて、きょうは日曜日。
特にこれといって予定は無いが、自分の予定がこの男と何の関係があるのだろうか?
中里は思い悩んでいた。

「どーせ女もいねーし、金もねーんだし、ヒマなんだろうよ!」
カチン!

どうしてこいつにここまで理不尽な言われようをされなければならないのだ!
いつも、いつも!
中里の感情が拳に届くまで、時間はかからない。もともと直情的な性格だからだ。
その拳を震えるほどに強く握り締める。

「俺様につき合わせてやるから、ありがたく思えよ!」

―――その台詞に拳の震えが止まった。
訳が判らないというのもあったが、言葉と裏腹にその声は遠慮がちで、ライトの逆光で見えないその表情はきっと無理にぞんざいな顔を 作っているのだろう。
そういえば、今まで顔を合わせればいがみ合いばかりだったのに、こんな風に慎吾と会話するようになったのはいつからだろう?と、 中里は考えていた。

藤原拓海とのバトル、高橋啓介とのバトル、どれも俺の惨敗だった。
このままチームのリーダーとしてここにいてもいいのかと悩んでいた。
だが、そんな俺にこいつらは今までと変わらずに接してくれる。
これまで慎吾側についていた奴等でさえ何も言わずに。
それどころか、チームが一つにまとまった様にさえ見える。
何より、慎吾自身の俺に対する態度が変わったような気がするのは、俺の思い違いだろうか。
Red Sunsとの交流戦後は、さすがにかなり落ち込んでいた中里だったが、そんな彼等に応えるためにも、 とことん走りこんでマシンに劣らない腕を磨く以外にできる事は無い…最近は、そんな事ばかりが頭の中を占めていた。
チームのメンバーも、そんな中里を黙って見守ってくれているようにみえる。
そのうちに、ふと、こんなにゆっくりと想いを巡らせるのは久し振りだと気付き、思わず笑みがこぼれた。
がむしゃらに走りこんでいた中里から笑顔が消えていた事は、自分自身も気付いてないのだろう。
あのバトルの後、ずっと張り詰めていたものが、解き放たれたようだった。

その笑みを了承と受け取ったのか、何も答えないどころか薄笑いさえ浮かべる態度に業を煮やしたのか。

「じゃぁ、2時にファミレス前な。R出せよ!」

そう言い残して、来た時同様に闇を裂き、炎のような深紅のマシンは遠ざかって行った。
Rに寄り掛かり、すでに灰になってしまったタバコをくわえたまま、中里はその強引で俺様な男を見送っていた。
思い起こせば、慎吾とはチームに入った時からの因縁があった。
知らなかったとはいえ、心ならずも裏切ってしまった俺のことを、あいつは許してくれたのだろうか…と、中里は考えた。
でも、自分はまたあいつの期待に答えられなかったではないか?
慎吾もきっと、悩んでいたはずだ。
自らが行った無謀なバトルのために、bQとしてダウンヒルを走れないことに、後悔してもしきれないでいたに違いない。
俺が高橋啓介に勝っていれば、少しでも慎吾の後悔を和らげられるのではと思っていたのは、ただの自己満足でしかないのかもしれないが。

―それでも、あいつは、ゆるしてくれるのだろうか―

中里はまだ知らない。
庄司慎吾のカウントダウンの後に漏らした言葉を…。
その言葉が、中里の下にNight Kid'sというチームをまとめたことに。



END


てるた的解釈の妙義コンビです。
この話の中の"裏切って〜"というのは
これから書いていきたいと思いますが…。
書けるといいなぁ……(苦笑)
<2003/10/22>

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以前書いたものですが、話が繋がりそうなので、
時間軸を調整するために加筆修正しました。
といっても、以前とどこが違うのか、
わかる人はほとんどいないでしょうが(^_^;)
それはそれで、寂しいかも…

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