King of the Night 〜真夜中のオレさま〜



「よぉ、今日寄ってもいいか?」

あの日から、慎吾は週末ごとにそう言うようになった。
今までは断りも無く押しかけてきてたくせに、どういう風の吹き回しだろう。
普通、逆だろう?という俺の突っ込みも、耳を貸すつもりは無いだろうからあえて言うつもりは無いし、俺がダメだと言っても 慎吾は転がり込んでくるのだから、これは伺いをたてているのではなくて断定なのだというのも最近わかった。
だから、今日も解散前に俺のところに来てそう言う慎吾に、俺は黙って頷いた。
少しだけ慎吾の口元に笑みが浮かぶから、まぁ、いいか、なんて思ってしまう。


いつものように、メンバー全員が峠を降りたのを確認してから、俺も峠を降りる。
慎吾は先にアパートの駐車場で、俺が帰るまで待っていた。
そして、マシンを降りた俺の側に来て不機嫌そうな声をあげる。

「…ったく、おせーんだよ、お前。待たせすぎ!」

それもいつものこと。
自分の荷物を入れた袋を片手に、文句を言いながら付いて来る。
鍵を開けると、真っ先に部屋にあがり込みいつものTVの前に陣取って「なんかねーのか?」と催促する。
まったく…ここは誰の家なんだ?


冷蔵庫の中に、アルコールが欠かせなくなった。
とはいえ、普段からたいした食料が入っているわけじゃないし、仕事が終わってから軽く飲むのがクセになってて欠かした事は ないのだが、1人分から2人分に入れておく数を増やすようになっていた。
それもこれも、週末の来訪者のためだ。
その来訪者―慎吾―は何をするでもなく、俺の部屋に来る。
最初は…押しかけて来たときも、何事かと訝しく思ったが慎吾は何もふれようとはしなかった。
それが、まぁ…あの日にはっきりしたのだが……それからも慎吾に変わりは無い。
TVを見ながらダメだししてみたり、俺が買ってる雑誌をめくっては趣味が悪いとケチをつけたり。
そのうちにウトウトしだすと、そのままコトンと転がってしまう。


そう言えば、慎吾は布団で寝るのを嫌がった。
布団が嫌いなわけじゃないはずだ…俺のベッドを占領して寝てしまうぐらいだから。
ただ、別に布団を敷いてあるのに、そこに寝るのを嫌がる。
一人暮らしを始めた時に、お袋が押し込んでいった客用の布団が数組、押入れの中に収まっている。

「どうせ、あんたのところに溜まるんでしょ?」

という、お袋の読み通りに俺の部屋は同僚やメンバー達の非常宿泊所になっていた。
当然、その客用布団も充分活躍している。
だから結構マメに干したりしてるし、シーツも洗濯している。
汚いとかそういう事はないと思うのだが、慎吾はそこにおさまるのを嫌がる。
どうしてだろう?


慎吾は相変わらず、いいだけ飲んでウトウトしだして、また床の上で雑魚寝しそうになっている。
まだ冷え込む時期ではないから、毛布に包まって眠る慎吾は風邪をひくようなことはないだろう。
でも、朝になれば必ず文句を言う。

「体中、いてー!寝た気しねー!」

―だったら、大人しく布団で寝ればいいだろう…。
いつもそう言うのに、慎吾は絶対に俺の言うことを聞かない。
かわいくない。
今日はどうしても言う事を聞かせるつもりだったから、多少キツイ言い方をする。

「いいかげんにしろ、慎吾!後で辛いのは、お前なんだぞ!」

いつもなら、完全無視していただろう。
…その言葉がこたえたのか、ただ寝ぼけただけなのか、どちらにしても予想外だった。
慎吾は少し頭をうな垂れて、小さく呟く。

「…客じゃ、ねーよ、オレは…。他の誰かも、使うのなんか…使いたく、ねえ……。」

…は?
なんだ、それ?
そんなこと…女にも言われた事ねえぞ。
俺は熱が上がるのを感じながら、その言葉の意味を考える。
慎吾はその間にも、だるそうに髪をかきあげて、瞼が落ちそうだったから。
とりあえず完全に眠りに付く前に、ひと回り細い慎吾を支えて俺のベットに寝かしつける。
慎吾は、数言何か呟いて、ゆっくりと眠りに付いた。
―あんなこと言われたら、客布団になんて寝かせられないじゃないか…。


俺のベットなら眠れる慎吾。
誰かも使う物は嫌がる慎吾。
――自分専用の物を欲しがる慎吾。
――慎吾専用の……俺?

適度なアルコールと、適度な眠気と。
オレ様な慎吾の呪文に、俺の思考回路は完全に狂っているのだと思う。
こんな事考えているじたい…本当に、どうかしている。


…かわいいじゃ、ないか……。


俺のことなどお構いなく、真夜中のオレさまは夢の中。



END


あまいですか、中里?
かわいいですか、慎吾?
少し狙ってみたのですが、訳もわからす玉砕した模様…。
後日、慎吾専用の布団を用意したとか、しないとか…(^_^;)
それはまた、別の話。

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