WHITE LIGHT〜慎吾SIDE



携帯が、鳴った。
誰からのTELかは、見当がつく。
でも、出る気はないから。
助手席に放り出した携帯を無視して、オレはうっすらと積もる雪を蹴散らせて峠を降りる。
週末…クリスマスイブまで、あと1週間。


 「中里さん…もしかして、彼女、っすか?」
 「彼女…そんなもんかも、しれねえな…。」

峠での、あいつ等の会話が蘇る。
女がいるなんて、そんなこと、オレは聞いてねえし…。
いてもおかしくはない…むしろ、オレの方が間違ってる…それは解ってる。
だったら、どうして、週末にオレを部屋に入れる?
オレとも、女とも、器用にやっていけるほど、要領のいい奴なのか?
オレの知らない、あいつの時間を考えた。
オレの知らないあいつが、女と寄り添い笑う姿を考えた。
情け無いオレだけが、残された。


 【連絡よこせ】

あの日から、毎日のようによこされるメール。
TELを無視してたら、メールになった。
毎日毎日、使い回しみたいに同じ文面。
それは、週末…イブの日までずっと続いた。


クリスマスイブ。
その日のあいつからのメール。

 【21:00 妙義で】

どういうことだ?
その日は、女と一緒じゃねえのか?
それとも女と会った後に、オレを呼び出すつもりか?
あの野郎…見損なうなよ!
そんなお情けで手懐けられるほど、オレは甘くねえんだよ!
込み上げる怒りを、手近な壁にぶつける。
拳に、紅く血が滲んだ。


呼び出された時間に妙義に行くには、もうそろそろ出なければならない。
チームの連中は今頃宴会だろうから、多分峠には誰もいない。
冷え込んでくるこの時間、ましてや、こんな日に峠に行く物好きもいないだろう。
…そういえば…あの時もそんなこと考えながら…密かな期待も込めて、あの場所にいた。
あんな日に、あんな場所に行く、物好きな奴…。
オレはブルゾンをはおって、鍵の束を掴んだ。
手の中で、Rの刻印を持つそれが、重みを増していた。


峠を上りきり、駐車場にマシンを滑り込ませる。
呼び出された時間…あいつは、いない。
自販機の明りだけが、ぼんやりとその周辺だけを照らしている。
…オレは、バカだ…。
こんな解りきった事…のこのこやって来る自分が馬鹿らしい。
少し欠けた月が、遥かな高度から冴え冴えと輝いていた。
もう…いいや……。
そう思って車に乗り込もうとした時、微かに聞こえたノイズ。
足元から震えるほど、重く、低く。
そして、暗闇から浮かび上がる2つの光源に、唇をかみ締める。


その車から降りてきた、スーツ姿の男。
まるで、仕事から直接来たみたいに。
あくまでも、誤魔化すつもり…なのか。

 「スマン…少し遅れたな。先に来て、待ってるつもりだったんだが、仕事でてこずっちまって…。
 とにかく、来てくれて、良かったよ。」
 「………なにが?本当は、来ない方がよかったんじゃねえの?」
 「ん…まだ機嫌悪そうだな…。」
 「女はどうしたよ。オレの機嫌取るよりも、そっちとよろしくやってた方がよくねえ?」

皮肉をこめて、口端を上げる。
そうか…まだ、笑えるんだな、オレ…。

 「やっぱり…お前、気にしてんだな、あん時の話…。」
 「はぁ?なんのことよ?あぁ、お前の女の話か…。」
 「だから、それは…!」
 「ざけんなよ!いい度胸してるよな。このオレをからかうなんてよ!」
 「いいから聞けっ!」

あいつの声が…マシンと同じ、重く低い音が…オレの耳に打ち付けられる。
背中が、ぞくぞくする…身体に、震えが走る。

 「勘違いすんなよ…あそこで言っちまってよかったのかよ…。」
 「………。」
 「飲み会に出られねえのは、仕事もあるけど…多分、お前と一緒にいるからだって…。」
 「!!」

あいつは、乱れるのも構わずに、髪をかき上げる。
視線は、足元を向いたまま。
あいつの言葉が、頭に残る。
オレが一緒だから…じゃ、あの時の彼女ってのは……オレ、か?

 「慎吾…お前こそ、こんな日は女と一緒じゃなくて、いいのかよ。」
 「…別に……オレは…そんな奴、いねえし…。」
 「そういえば、去年もここにいたな、俺達。一緒に飲んだのは、あの日が初めてだったよな…。もう、1年か…。」
 「オヤジ臭ぇ…。」
 「うるせえ!」
 「だいたい、お前が紛らわしい事言いやがるから、オレは…。」
 「あぁっ、もう!勝手に機嫌損ねやがって…世話かけんなよ。」

そう言って、あいつがオレの頭に手をかける。
その腕を振り払いながら、ずっとそうして欲しいと思う自分を隠す。

 「おい…いつまで、ここにいるつもりだ?俺はそろそろ、帰るぞ。」
 「え…。」
 「…来るんだろ?」
 「勝手に、決めつけんじゃねえよ!」
 「ま、俺はどっちでもいいが。」
 「お前…性格悪いよな。」
 「……寝込み、襲うような奴に、言われたくねえよ。」
 「てめー、気付いて…!!」

あいつは、照れくさそうにそう呟くと、さっさと自分のマシンに乗り込み、エンジン音を響かせて駐車場を飛び出した。

オレは、本当に、バカだ。
あいつの言葉一つで、これほど振り回されている。
それでもオレは、ここで走っていく。
あいつが、Rを降りるまで。



END



見事な、バカップルでしょうか?
結局、慎吾も付き合ってるって、自覚が薄いんですね。
とりあえず、MERRY CHRISTMAS!
で、クリスマス記念ということで、
これをFREEにしよう…かと思ったけど、
結局ずっと続いてしまってるので、
これだけでは訳がわからないからやめにしました。
大きな声じゃ言えないんで、こっそりと…(笑)

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