妙義峠頂上駐車場。
いつに無くピリピリとした空気が漂う原因は、定位置に止まっている真っ赤な車体の横に立つ男。
ここに、しばらくぶりに黒い車体が滑り込んでくると、その場にいた者達は一瞬静まり返った。
いつもの場所に停車させたその車に近寄っていく男は、何故か苛立たしげだった。
「よぉ。」
「随分ごぶさたじゃねえか。」
いつもの様に声をかける彼に、男は皮肉めいた笑みを浮かべて言葉を返す。
男のその態度に、彼は嫌な予感を感じていた。
「ここしばらく姿を見ねぇと思ってたら、秋名に入り浸ってたって言うじゃねえか。」
「まぁ…な。」
「しかも!あの高橋涼介と仲良くつるんでたらしいじゃん!」
「つるんで…って……。」
「一緒に群馬最速目指すってか!」
「それはだなぁ…。」
矢継ぎ早に発せられる男の言葉に、彼は口答えすら許されない。
「で、藤原拓海とバトルしたって。」
「あぁ。」
「よりによって、あの溝落しくらったって!」
「…あ、あぁ…。」
「てめえは、あいつが溝落しやらかす事ぐらいわかってたろうが!」
「それは、事情が…。」
「それよりも!そのバトルん時に、ナビに高橋涼介積んでたんだって?バトルだってーのに、何やってんだ、お前!
オレだって、めったにバトルじゃ乗せねーのに、あいつはいいのかよ!」
「積んで…。」
男の言葉に思わず荷物を想像してしまい、彼は苦笑いを零した。
それも気に障ったのか、男はさらに語気を荒げる。
「にやけてんじゃねえよ!…っつーか、秋名じゃ随分ご機嫌だったって!
いつもムサイ面してるくせに、へらへらしやがって!っつーか、そのヒゲ面、何!」
「なっ…。」
「それに、なんだ?あのダッセージャージみてえの!ご丁寧に、チーム名なんざ背中に背負ってよぉ!
よく恥ずかしげも無く着てられたよなぁ!いつから仲良しチームになったんだっつーの!」
「しょうがねえだろ、衣装なんだから…。」
「衣装?なんだよ、んなもん、いらねえだろ!ざけんなよ!」
「ふざけてる訳じゃ…。」
「藤原拓海をえらい気に入ってたらしいじゃん!わざわざ豆腐屋までお迎えに行ったって!
あの高橋涼介と連れ立って!『峠に行こう!』ってか!
それに、藤原の勝った勝負、周りの連中と抱き合って喜んでたそうじゃん!」
「そういう演戯指導が入ってたんだ!好きでやってるんじゃねえ!」
「まだあるんだよ!てめー、その須藤京一と高橋涼介と藤原拓海のバトル、ただ黙って眺めてたって!
サポートすらしてたらしいじゃねえか!何でてめーが走らねえんだよ!悔しくねえのかよ!」
「…悔しくねえ訳ねえだろ……。」
今まで一方的に非難されていた彼が、初めて声を落とした。
その低く重い声に、男はおろか、その場にいた者達までが息を呑んだ。
全ての音が消え失せた駐車場。
「あれが『撮影』じゃなかったら、俺が自分で勝負してる!藤原にだって負けねえ!」
静かに響いた言葉に、男は微かに満足そうな顔をした。
そして、男はどこにいるかもしれない誰かに向って叫んだ…。
「その『撮影』ってやつに、なんでてめーだけ出てんだよ!
どうしてオレ様を出しやがらねえんだ!チクショーーッ!」
「結局は、そこかよ…。」
悔しそうに何かに向って叫んでいる慎吾を、中里は苦笑混じりに見ていた。
その頃の高崎、高橋家。
「兄貴!最近、中里と秋名に通ってたって本当か?」
「あぁ。」
「なんで、あいつなんだよ!兄貴!」
「そういう役だったからだ。」
「それに、32のナビに乗ってバトルしたっていうじゃん!」
「まあな。」
「アドバイスまでしてやったって、どういうつもりだよ!」
「それは、脚本家に聞いてみてくれないか。」
「スタイリストまでついたんだって?兄貴のポリシーはどこにいったんだよ。」
「啓介、それは、どんなポリシーなんだ?」
「そん代わりにさ、藤原の奴がさ、なんか妙なカッコしてたって?どっかのサッカー少年みたいなさ。」
「だから、その代わりとはなんだ?」
「あ〜ぁ、俺も見たかったよなぁ…っつーか、何で俺が出てねえんだよ!」
「それは、俺に言っても無駄だろう。監督に言うしかない。」
「だぁ〜〜っ!俺も出してくれよ!兄貴!」
「それは続編次第だと思うが…どう思う、啓介?」
「……そんなん、わからねえよ…。」
枕を抱えて拗ねている啓介を見て、なにやらパソコンにデータを打ち込んでいる涼介が愉しそうに笑った。
END
劇場版「頭文字D」見てきました〜!
いろいろ突っ込みどころ満載でしたが、その一部分がこちらです(^_^;)
言いたい事は、いろいろあるんだ。
いろんな意味で、話題作(笑)
最大の突っ込みどころは、慎吾と啓介が出てないってことですね。
実際の彼等が、自分の役で出演していたら…という設定で…。
わかりずらいっすね(苦笑)
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