静かな週末だった。
今年は例年に無く雪の多い年で、峠はいつも以上に降り積もる雪に、走るのは少し無理があった。
仕事もそれほど立て込んでいるわけじゃなく、切りのいいところで片付けて、いつものように誰もいない部屋に帰る。
…いつもの週末なら、そろそろ転がり込んでくる奴が約1名、いたはずだったけど。
今日は仲間と新年会と称して飲みに行くと言っていたから、ずいぶん久しぶりに一人きりの静かな週末を過ごす事になった。
普段と変わらないなずなのに、妙に違和感を感じるのはどうしてだろうと考えて、これほどあいつが生活の一部になっていたんだと気付く。
そんな自分に少し呆れながら、流されるTV画面をぼんやりと眺めていた。
外は、音も無く降る雪で、深夜だというのに白々としている。
そろそろ寝ようかと暖房を落とそうとした時、テーブルの上の携帯が踊った。
相手が誰かは、想像がつく…こんな時間でも容赦なく呼び出す奴なんて、知っている限り一人しかいない。
容易に想像がついてしまったことに苦笑いしながら、踊る携帯を握った。
案の定それは、該当者を表示していた。
「はい…。」
『よぉ!迎えに来いよ!』
出るなりそれかよ…間違ってたら、どうする気なんだ、こいつは…。
そんなことを考えて、溜め息をこぼす。
「……お前…今、何時かわかるか?」
『んー…2時?』
”2時?”じゃねえだろ…まぁ、そんな事言ったって、聞くような奴じゃないし…。
『あー、【○○】って店の前にいるからさぁ、シクヨロ!』
と、一方的に電話を切られた。
大きく息を吐いて、どうしてこんな俺様な奴の相手をしてるんだろうと思うが、気にかかってしまうのだからしょうがない。
ジャケットとキーを握ると、部屋を飛び出した。
暖房は、入れたまま。
指定された店の前に、男がひとり、佇んでいる。
舞い降りる雪を見上げるように、真っ赤なダウンのポケットに両手を突っ込んで、立ち尽くしている。
降り積もる雪に、肩先はうっすらと白くなり、スニーカーやジーンズの裾がじっとりと染み込んだ水分に色を変えていた。
少し長めの髪の先から、溶けた雪が滴り落ちる。
車から降りた俺に気付くと、見上げていた視線をこちらに向けた。
覚束ない視線が俺に焦点を合わせると、上機嫌そうな笑顔を見せた。
「ご苦労さん♪」
どのくらいここに立っていたんだろうか…その顔は、やや赤みを帯びている。
アルコールの所為か、この寒さの所為か、それとも…感情的な…。
…いや、それはないだろう…最後の選択肢を否定して、俺はその酔っ払いを車に押し込んだ。
助手席に身体を沈めるなり、シートを倒してくつろぐ体勢になって。
それまでカラオケで歌っていただろう歌を、鼻歌交じりに口ずさんでいたりする。
こんなに機嫌のいいこいつを見るのは、珍しかった。
人の気も知らないで…そう思ったら、嫌味の一つも言ってやろうかと。
「お前…俺が飲んでたら、どうするつもりだったんだ?」
「あぁ!?こんな時に飲もうなんて、いい度胸してんじゃん!」
はいはい…そういう奴だったよ、お前は…嫌味を言おうと思った俺が、間違ってたよ。
「お前なら…来てくれんだろ…ぜってー……。」
突然、何言って…!
と、俺が見た時には、ゆっくりと夢の中へと向かっていた。
…まぁ……いいか…。
ここで納得している時点で、俺はこいつにそうとうあまいらしい。
「おい…お前、今日は家に帰るのか?」
少し走ったところで、肝心なことを聞いていないことに気付いて。
このまま寝かせてやりたかったけど、そんな訳にもいかないし。
「んー…どこぉ…?」
「だから、お前の家に行っていいのか?」
眠そうに顔をしかめて、それでも何かを言おうと少し唸って…。
「…お前ん、とこ……。」
「…そう、か…。」
何となく…そう言うんじゃないかという気はした。
実際にそう言われて、さっきまで感じていた妙な違和感が無くなって、ここまで重症だったかと心底自分に呆れた。
こいつのいない週末が、物足りないなんて、俺もどうかしてる。
END
慎吾なら、どんな時間でも呼び出しそう、とか。
中里は文句言いながらでも、迎えに行きそう、とか。
そんなこと思ってしまいました。
それでやっぱり、いつもの週末なんですよ。
ただの、あまあまですかねぇ(-_-;)
それがある状態に慣れてしまうと、
無くなった時に物足りなくなりませんか?
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