Valentine anecdote〜秋名SIDE



ひっきりなしに車のライトが通りを流れ、時折混じるウィンカーの点滅に、入り口まで駆け寄って誘導する店員達。
ここは、秋名のとあるガソリンスタンド。
店舗の入り口には、手書きで『バレンタインチョコ受付箱』と書かれたダンボールが置かれ、
溢れそうなほどのチョコが積みあがっている。
でも、そのチョコの宛先は店員達ではなく、今ではすっかり有名人になってしまった彼等の仲間への許へ。
去年の経験からか対応は手馴れたもので、最終日となった当日の今日、やっとその役目を終える時が来る。
2月14日、チョコの祭典『バレンタインデー』…就業後、箱ごと家に届ければ全て完了だ。
だが、営業時間はまだ数時間あり、それ目的の客も途切れる事は無かった。
そんな女性客に張り切っている樹を眺めながら、池谷は一息ついた。
いつものように来ていた健二は、店の中で店長となにやら話しこんでいる。
こんな日に、他に行くとこねぇのか?とも思ったが、そのまま返されそうなので言うのはやめた。
重低音を響かせて入ってくる車の気配を感じて、営業モードに切り替えた池谷の視界に飛び込んで来たのは、
低く唸りをあげる闇色のマシン…たまに訪れる事のある見慣れた車体。

「いらっしゃ…あぁ、君達か。」
「あ、ハイオク…25で、頼みます…。」

ゆっくりとドアを開けて降りてきた人物は、この辺りの走り屋には良く知られた人物だ。

「せこいんだよ、お前…。気前良く”満タン”にすりゃいいだろ!」

続けて助手席から降りてきた彼も、同様に知られた人物…妙義Night Kid’sの中里と慎吾。

「お前の言う通りだな…さすがに、すごい。」
「だろ?…ったく、どこがいいんだか…。」

彼等の視線の先には、あのダンボールがあり、慎吾は忌々しげに髪をかきあげている。
去年の様子を見ていた慎吾が、今年は中里を連れて見に来たというところか。

「あーーっ!中里さんじゃないですか!」

先客を送り出した樹が、中里達の姿を見つけてけたたましい声をあげた。
その声にたじろぐ中里の姿に、池谷も思わず同情してしまう。

「そっか…そうですよね!やっぱり、中里さんも、俺達と一緒なんですね!
そぉっすよ!走り屋に女はいらないんすよ!やっぱ、『漢』はそうでなきゃ!」

困惑する中里を気にも止めず、樹はテンション最高潮で力説している。
もうこうなると彼の世界だからと、救いを求める中里と慎吾の視線に無言で首を横に振る池谷。

「中里さんだって、この日に男同士でいるんだから、走り屋には、今日なんて関係ないんっすよ!」

拳を握り締めて「くぅ〜〜っ!」とか奇声をあげる樹。
中里達は、その姿を少し離れた所から眺めて、乾いた笑いをこぼして。

「悪いな…いつものことだから、気にしないでくれ。」

池谷は、苦笑いを浮かべながらそう言った。

そんな、とあるガソリンスタンドの、バレンタインデーの出来事。


END



WEB拍手から、繰上げ。
バレンタイン記念に。
妙義コンビと、秋名ロンリードライバー’s(違)です。
まぁ、いつもと変わらず…ですが(汗)
WEB拍手のSSだというのに、続き物なんて…(ーー;)

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