仕事が終わった頃を見計らったように、中里の携帯が震えた。
「もう、終わりだろ?ちょっと走らねえか。」
「いきなり、なんだよ。」
すると慎吾は「はじめてのおつかい?」とだけ言って、電話を切った。
仕事帰りの車の流れに乗って、たまに訪れる走りなれた道を行く。
慎吾の手元には、袋の口をリボンで結ぶ程度にラッピングされた物があった。
貰ったというのではなさそうだし、おつかいっていうのはこれを届けることなんだろう。
誰から誰に?という疑問も増えて、本当に今日の目的がわからなくなった。
そろそろ目的地に着くという頃、それまで窓の外を眺めていた慎吾が、ボソッと口を開いた。
「去年の今頃、沙雪と来た時にちょっと気になってさ…。」
「何か、あったのか?」
「……86のあいつ宛ての…チョコレート…。ハンパじゃねえんだ。」
窓に肘をかけて頬杖をついたまま、忌々しげに眉をしかめて慎吾が言い放つ。
それとほぼ同時に、目的地へ入るため中里はウィンカーをあげていた。
「いらっしゃ…あぁ、君達か。」
目的地であるスタンドに入る中里達に気付いた池谷が、人懐っこそうな笑顔を浮かべた。
気持ち程度に燃料補給を告げた中里は、店の前におかれた段ボール箱に目を奪われた。
溢れんばかりに積み上げられた包みに、絶句する。
慎吾が小さく舌打ちしたところをみると、張り合うだけ無駄なのだろうが、やはり…負けているらしい。
そこに、他の客を送り出した樹の雄叫びが聞こえた。
彼に気付いた慎吾は、鬱陶しそうに溜め息をつく。
「そっか…そうですよね!やっぱり、中里さんも、俺達と一緒なんですね!
そぉっすよ!走り屋に女はいらないんすよ!やっぱ、『漢』はそうでなきゃ!」
一人で盛り上がっている樹の勢いに戸惑い、馴染みになった池谷に救いの視線を送ってみる。
でも、彼は「いつものことだから。」と苦笑するばかり。
思い出したように、慎吾が手元の荷物を池谷に差し出した。
訝しげに受け取った彼は、恐る恐る中を覗いて、戸惑いがちに力無く笑った。
中に入っていたのは、一粒チョコの一つ一つに『義理』と書かれた、明らかに義理とわかる沙雪からのチョコ。
何かあったのかと店の中から出てきた健二と、袋を眺めて苦笑う池谷、そして自分の世界に入っている樹。
そんな彼等を残して、中里と慎吾はスタンドを後にした。
妙義へ戻る道中、慎吾は中里が無造作に後部に投げ出した紙袋が気になって仕方がなかった。
「気にしなくても、お前のほうが多いんだろ。」
「当然!」
慎吾は、一緒にいるようになってからでも、こういう事は妙に張り合った。
まぁ、こんなことで満足するのなら、いいか…と、言い切る慎吾に溜め息をこぼし、中里はマシンを走らせる。
慎吾がそっとポケットの中で握り締めていた包みの存在を、中里が知るのはもう少し後。
END
WEB拍手から、繰上げ。
バレンタイン記念に。
妙義コンビと、秋名ロンリードライバー’s(違)です。
まぁ、いつもと変わらず…ですが(汗)
WEB拍手のSSだというのに、続き物なんて…(ーー;)
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