「なぁ、お前って…走り屋やる前は、どんなだった?」
「はぁ?なんだよ、いきなり…。」
「別に…どんなガキだったのか、ってよ。」
最近、公道に『教習車』ナンバーが目立ち始めた。
そのころの自分の姿を重ね合わせて、ふと、この目の前の男はどうだったのかという疑問が浮かび、
慎吾はTVを眺めている中里に問いかけた。
「どんなって…そこらのガキと同じだろ?」
「あぁ?」
いきなり何を言い出すのかと、中里は疑わしげな視線を慎吾に向ける。
「ガッコの頃から車雑誌眺めて、どんな車に乗りたいとか想像ばっかりして。」
「…だっせー…。」
「るさい!…まぁ、それも免許取るまでだったけどな。」
「なんで?」
卒業生は殆どが免許を取っていて、当然中里もその中に含まれている。
でも、中里のように最初から峠を走ろうとする者なんて、それ程いなかった。
「卒業前にもう今の職場の内定もらってたから、すぐに教習所行って…。
教習行ってる頃から親父の車で勝手に練習したりしたけど。」
「これから走る奴が、仕事かよ。」
慎吾はずっと、仕事をしながら峠を走るということに、わだかまりを感じていた。
先立つものがなければ、早いマシンを作り上げる事もできないが。
社会に組み込まれて、いろいろと制約を受けながら、それでやっていけるほど甘くないだろうと思っていた。
そんな片手間に走るような、中途半端な奴に負けるわけがないと思っていたのに…。
「車のローン、立て替えてもらってたから…早く稼いで返しとかねぇと…。」
「…お前…自分で買ったのかよ…車……。」
「あぁ、じゃなきゃ、いろいろ手をかけられねぇし。自由に走れねぇしな。」
「ふぅ…ん。」
「卒業前から、妙義で走るつもりでいたし。先輩達の車見てたら、あれもこれも…ってさ。
とてもじゃねえが、うちの親に理解出来るような代物じゃねえから。
うるさく言われるぐらいなら、自分の金で好きに手をかけたほうが気が楽だろ。」
「まぁな…。」
「それからずっと、仕事終わってから妙義流して帰るのが習慣みたいになっちまったけど。」
その頃を思い出すように、中里はゆっくりと紫煙を吐き出すと、口元を緩ませた。
このチームに入ってからは、甘いのは自分の方だったと慎吾は思い知らされた。
最初からここまで考えていた中里に比べれば、自分は本当にガキだったと納得した。
でも…こんなに楽しそうに笑う中里を前に、素直にそれを口に出すような慎吾ではない。
「……つまんねえの…。」
「はぁ?!」
「今とおんなじじゃん!成長のねえ奴…聞くんじゃなかった…。」
「な…!」
盛大な溜め息と共に呟く慎吾に、中里は一瞬声を詰まらせたが、それもいつもの事かと同じように溜め息をこぼす。
「想像通り、っつーか…わかりやすい奴。」
「……だったら、最初っから聞くなよ……。」
中里は苦笑いながら、ふて腐れる慎吾を見つめた。
END
WEB拍手から、繰上げ。
春先に、教習車の後ろを走りながら、ふと考えた事。
別に、慎吾が全部親まかせだとか、中里家が苦しい(え?)とか、
そういうわけではないと思いますが。
まだ学生気分の慎吾の拗ねっぷりを書きたかっただけ。
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