I Love you Like you are



ココは、忘年会シーズンで賑わう、満席になった居酒屋。
見掛けはガラの悪そうな十数名の団体が、派手に騒いでいる。
メンバー達は、久々に飲み会参戦のチームリーダーを取り囲む。
それなりに盛り上がっている仲間達を無視して、彼は不機嫌全開な表情でジョッキを煽り。
その隣で、不機嫌な彼を横目に苦笑を零すチームリーダーがいた。


今年はイブが日曜日ということもあり、チームの忘年会はその前日にしたい。
すっかり幹事役が板に付いてしまったメンバーが、中里におうかがいを立ててきたのは先週の週末。
幹事の彼が遠慮がちに切り出したその日程には、うまくすればリーダーとオールを…という思惑も含まれている。
ここ数年、中里はチームの宴会に参加することはなかった。
表向きは仕事が忙しい、ということだったが、実際のところは一緒に過ごす人物の存在があったから。
メンバーもそれは薄々気付いていて、その相手というのも何となく想像は付いていた。
なので、なかなか首を縦に振らない中里に、幹事は最終手段を取ったのだ。
そこまでして中里を担ぎ出すには、彼等なりの理由がある。
最近は妙義にも女性ギャラリーが増えてきて、何気にうまく出来上がってしまったメンバーも数人いた。
この日、チームの飲み会よりも彼女を優先するのは、当然のことだろう。
それにあぶれてしまった連中での宴会なんて、あまりにも情けない。
ならば、宴会の目玉を用意したらいい…リーダー参加の宴会なら、それだけで大義名分が成り立つじゃないか!
もっとも、メンバー達も久しぶりに中里を交えて飲みたいと思っていたことに、違いはない。
見事に成功した交渉に、彼等は普段よりも上機嫌のようだった。


中里は、隣に座る慎吾を見ていた。
いつもよりも確実に速いペースで、ジョッキを空けていく慎吾は、既に目元が覚束なくなっている。

 「なぁ、少しピッチ早すぎじゃねえか?」
 「あ゛ぁ?どこが…。」

慎吾は、視線だけをちらと向けると、また顔を背けて喉を鳴らした。
多分、これで5杯目か…まだ宴会が始まって30分ほどしか経っていないというのに、もう慎吾は出来上がっている状態だ。
こんなペースでは、潰れてしまうのも時間の問題だった。
中里は、メンバー達の話題に曖昧な返事を返しつつも、隣の慎吾が気になってしょうがない。

 「何か、あったのか?」
 「……別に…。」

取り付く島もないほどあっさり一言で返すと、目の前の料理には箸を付けずに6杯目のジョッキに手をかける。
いったい、何が気に入らないのか。
慎吾は、隣にいるにも関わらず、中里と視線を合わせようとはしない。
だからといって、メンバー達の会話に加わることもなく、ひたすらアルコールを流し込んでいる。
今回、何が慎吾の機嫌を損ねたのか、中里は思い当たらずに首を捻るばかりだ。


幹事からの再三に渡る参加要請は、2、3日前まで続いていた。
宴会には参加できないかもしれないが、問題さえ起こさなければ、思い切り楽しんだらいい。
その都度、中里は返事を濁してきた。
実際、仕事の目途が付くかどうかは直前までわからないし、何となく2人で過ごすのが当たり前のように思えていた。
メンバー達と大勢で騒ぐのもいいが、静かに過ごすのも悪くないと。
そう思っていた中里が参加を決めたのは、幹事のある一言だった。

 『中里さんが出るなら、慎吾さんも出るって言ってたんすよ!』

もしかしたら、慎吾は仲間達と一緒に騒ぎたかったんじゃないか?
素直じゃない奴だから、俺が出るなら自分も出ると、もっともらしい理由をつけたんだろうか?
もともと慎吾は、大勢で盛り上がるのが好きな方だろう。
いつも自分と一緒では、つまらないのかもしれない。
だったら、その通りにしてやろう…そう思い、中里はどうにか都合を付けて参加すると、幹事に答えた。


いくら考えたところで、慎吾の不機嫌の理由はわからない。
軽く溜め息を付いた中里の肩先に、コトンと重みが掛かった。
顔を向けるとそこには、焦点が定まらず視線を泳がせている慎吾がよしかかっている。
だから言ったこっちゃない…と、呆れて声をかけようとした中里に、小さな声が届いた。
その声は、周りの喧騒の中で聞き逃してしまうほど、本当に微かな呟きだった。

 『そんなに…オレと一緒じゃ、嫌か…よ…。』
 「…え?」

思わず聞き返してみたが、慎吾の瞳はもう閉じられている。
どういう意味だ?みんなと、騒ぎたかったんじゃないのか…?
その時、中里の脳裏に、ある仮定が浮んだ。
幹事が言っていたことが、慎吾の言葉ではなかったとしたら…?

慎吾が正気だったら、自惚れてんじゃねぇ!なんて貶されそうだが、本当は自分と同じ気持ちだったんだろう。
楽しげなメンバー達を見ていると、騙されてしまったとはいえ、それを責めることも出来なかった。
ちゃんと慎吾に確かめず、鵜呑みにしてしまったのは自分のミスだ。
わかってやってるつもりだったが、どうやらまだまだらしい、と、中里は苦笑する。
肩にかかる重みが、更に増した。
慎吾は、ゆっくりと眠りに落ちていく。



 「すまない、慎吾が潰れた。俺は、こいつを連れて先に抜けるから、お前等はゆっくりやっててくれ。」

殆ど意識のない慎吾に肩を貸し、中里はメンバー達にそう断ると席を立った。
2人分の会費に少し色を付けて幹事に渡すと、彼等は残念そうに声を上げる。
幹事の彼が何かを言いかけたのを制し、中里は「ホント、悪ぃな。」と、肩を叩いた。
きっと彼は、慎吾の不機嫌の原因が、自分の発言に端を発していると、気付いていたんだろう。
少し怯えたような顔をしていた彼が、ホッと表情を緩めた。
ふと、中里の肩に掛かっている重みが軽くなり、足元をもつれさせながらも、慎吾が薄っすらと瞼を開いた。

 「……眠ぃ…。」
 「だから…ピッチ早いって、言っただろ。」

大袈裟に溜め息を付いて咎める中里を無視するように、慎吾は大きな欠伸を零した。


ワザと気を惹くようなことをする慎吾と、それを知っててもあえて世話を焼く中里と。
こんな2人を見る日が来ようとは、あの頃には考えられなかったけど。
もうNight Kid’sには、なくてはならない2人だから。
メンバー達の思惑は見事にかわされてしまったが、それでもどこかでこうなるような気もしていた。
ズルズルと崩れ落ちそうになる慎吾を抱えて店を出ていく中里の後姿を、仲間達はほのぼのした気分で見送っていた。


タクシーに慎吾を放り込み、中里は耳元で自分の家に帰るのかと聞いた。
慎吾は意識も虚ろなまま、帰す気なのかよ、と、半分寝言のように呟いた。


END



妙義’sのクリスマス。
慎吾は幹事から「中里は出ると言った。」と、聞かされてます。
自分に相談もなく、勝手に決めたと思って、超ご機嫌斜め。
構って君気質全開の慎吾です。

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