今日もいつものごとく慎吾に付き合わされる一日。
最近の俺の休日はいったい誰のためにあるのかというぐらい、慎吾の用事に振り回されている。
嫌なら断ればいいのだが、断る理由も無いし、結局はそれほど嫌じゃないという事なんだろう。
というわけで、中里毅は今日も庄司慎吾と共に街を歩いている。
すれ違う人ごみの中で、一際目立つ風貌の青年が視界に入った。
高い身長に、けっこうがっしりとした体格。
だが、それ以上に目を引いたのは、その端正な顔だちと金髪に近い髪だった。
中里が思わず見とれていると、その青年はつかつかとこちらへ近付いてくる。
あまり見てしまったので気に触ったのかと思い、一瞬身をこわばらせたが、思いもよらずその青年は笑顔で、
「よっ、庄司!ごぶさた。」
と、片手を挙げて慎吾に合図し、呼ばれた慎吾は、
「おぉ、江藤!ひっさしぶり!」
と、その挙げられた手にハイタッチ。
小気味いい音を響かせた。
中里にはお構い無しに、慎吾と江藤と呼ばれた青年は話をしだした。
「あれから、どう?うまくいってんの?」
「だぁかぁらぁ、あんた勘違いしてるって!沙雪はただの幼馴染!」
「だってさぁ、フリーだっていうじゃん?あんだけのルックスだぜ、てっきり庄司が彼氏なんだと思うって。」
「あ〜ぁ、外見に騙されてるよ。本性知ったら、タマゲルぜぇ!」
「おっ、今の言葉は聞き捨てなら無いねぇ、さ〜っそくチクっちゃお〜っと!」
「だぁ〜っ!やぁめろって!殺されちまうだろ!」
「なに、そんなに頭上がんないの?」
会話を聞いていると、どうやら沙雪を通じての知り合いらしい。
年も同じくらいで気も合うのだろう。
少し離れた所で中里はあっけに取られて見ていた。
自分が知らない大学生の慎吾の姿を見て、こんな面もあるんだと妙に感心しながら。
ふいに、中里はその青年と目があっていることに気付いた。
青年と慎吾が話しているのをぼんやり眺めていたのだが、会話が途切れ中里の存在に気付いた青年がこちらを見ているとわかるまで数秒。
その途端、はじかれたように半歩退いて中里はその青年の視線をかわした。
彼に見つめられていると思うと、無性に気恥ずかしくなってしまったからだ。
「何やってんの?おまえ?」
不審な動きを見せる中里を小突きながら、呆れたように慎吾が呟く。
そんな慎吾に、うつむきがちに小声で「…るせぇよ!」とつぶやく中里。
2人の様子を、江藤という青年は黙って見ていた。
しばらくの均衡の後、最初に口を開いたのはその青年だった。
「庄司、連れがいたんだ。悪かったな、引き止めて。で、紹介してはもらえないの?」
言われるまで気が付かなかった慎吾が、慌てて中里を紹介する。
「あぁ、わるい。こいつ、中里ってんだ。同じチームの。毅、こっちは江藤。沙雪が合コンで知り合って…」
「そ、沙雪ちゃんを迎えに来た庄司の車見たら、声掛けずにいられなくってさ。
オレも車は好きで、一応サークルも車関係だし。なんか妙に気が合っちゃってね。
というわけで、中里さん。江藤水支です。よろしく。」
そう言って差し出された右手に、中里もおずおずと手を出し、
「中里毅だ。よろしく。」
と、辛うじて自己紹介する。
交わされた右手をなかなか開放してもらえないため、しばらく水支の顔と右手を交互に見つめていた中里だったが、このままでは
埒があかない。
「…どうか、したのか?」
中里は、水支のその深い湖のようにたゆたう瞳を見つめたままそう問い掛ける。
見つめる視線には不敵な笑みを浮かべる水支に対して、多少の対抗心も混じっていた。
それを知ってか知らずか、やっと開放した右手で髪をかきあげながらも水支は中里から視線をそらすことはなかった。
「やっぱさ、中里さんの目付き…っていうか、視線の強さかな?すっごい似てる奴がいるんだよね。
なんか親近感わいちゃうなぁ、オレ。」
似てる奴というのが誰なのか、もちろん中里にわかるはずはないのだが、親近感をもたれるというのは悪い気はしない。
それにしても、視線の強さ?どういうことなんだろう?
疑問はそのまま中里の視線に繋がり、いっそう鋭く水支を射止める。
「そうそう、そんな感じの。その性格まんまな真っ直ぐな視線。身近にさ、いるんだよね。
中里さんも、結構眼で物言うタイプでしょ?」
中里の視線を受け止めたまま、水支は楽しそうに笑う。
言われるまでもなく、中里はどちらかというと口が達者な方ではない。
今までガン飛ばしてるのかと思われがちだった自分の視線を、こういう風に感じ取れる人がいるとは驚きだ。
ただの軽い大学生だと思っていたことが、申し訳なく思われた。
そんな2人のやり取りを見ていた慎吾が、痺れを切らしたように中里を蹴った。
「おい、そろそろ行こうぜ!」
慎吾が不機嫌そうに見えるのは、中里の気のせいか?
「あ、悪いね、庄司。大事な中里さん独り占めしちゃって!じゃ、また飲みに行こうぜ!中里さんも。」
水支のその言葉に、慎吾はすぐさま反論する。
「バカ江藤!そんなんじゃねーよ!」
「ハハハッ、照れない照れない。じゃな!」
と、慎吾に声を掛けて水支はまた人ごみの中に紛れていった。
後に残されたのは、不機嫌な慎吾と呆然とする中里。
中里には、どうして慎吾が急に不機嫌になったのか理解できない。
だが、慎吾の気分が変わりやすいのはいつものことで、しばらく黙って付き合ってやればそのうち機嫌もなおるだろう。
ただでさえ2人の慎吾を相手にしていた気がするのに、これからオレ様ぶりを増している慎吾に付き合うことを思うと、それだけで
疲労感を感じるのだが。
END
続いてますね(^^; 第2話です。
慎吾の飲み仲間が水支…やっぱり強引?
一応、慎吾の方が水支より年下です。
それなのにタメ口なのは、さすがオレ様。
でも、慎吾はオレ様じゃなきゃらしくない…と思ってるので。
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