RUN RUN RUN!



今日は部活も休みだし、姫条もバイトで先に帰っちまってヒマを持て余し気味の俺、鈴鹿和馬。
ふらふらと街を歩いていた俺の視線に止まったのは、ゲーセンの看板。
なんか新しい機種でも入荷したかな…なんて思って中に入ると、最近新しく入ったらしいレースゲームが目に付いた。
デモ画面は、チューニングされたマシンが峠を駆け抜けるシーンを次々と映しだしている。
めまぐるしく画面が切り替わり、闇を切り裂き、雨を貫き、角度のあるコーナーを攻めるマシン。
その中の1台に俺の目は釘付けになった。
闇の中から浮かび上がるライト。
同じ闇の色を持ち、輪郭に淡い光跡を浮かべたマシンが、深い谷底と切り立った斜面に挟まれたコースを獣のように駆け上る。
一瞬のことで、すぐに別のシーンに切り替わったが、強烈に俺の脳裏に刻み込まれた。
惹きつけられるように、そのシートに体を沈める。
すると、奇妙な感覚に囚われた。
初めてプレイする機種だというのに、何故か体に馴染んでいるような…自分専用のコクピットに体を預けている…そんな既視感。
何のためらいも無くコインを投入し、マシン選択画面が開く。
俺は迷わずに、さっきのマシン…黒のスカイラインGTR32…を選択した。
車の運転経験なんて当然無いのに走行システムにMTを選び、バトルステージに選んだのは深夜の妙義峠だった。
CPである対戦車の後方にスタンバイし、カウントダウンを開始した。
アクセルを踏み込む足元に、ハンドルとシフトノブを握る両手に、緊張が走る。
カウント0で飛び出したマシンに、体中の全感覚をシンクロさせる。
初めて見る深夜の妙義峠…だが、初めてとは思えないほど自然と体は反応している。
気がつけば、コースレコードをたたき出して、バトルは終了していた。
ふっ、息を吐き出して、リプレイ画面を見つめる。
自分のライン取りを見ながら、まるで実際に走っていたような気がして、でも免許すら持って無いのにと苦笑する。
なんか…変なの……。

そこへ、4台並んでいるゲームに人の気配を感じ、画面には【対戦車乱入!】の文字が浮かんだ。
売られた勝負は買うのが信条!俺は迷わずコインを入れる。
その対戦車は、白黒ツートンのスプリンタートレノAE86。
バトルステージは深夜の秋名峠。
…なんだろう…初めてなのに、何だか嫌な予感がする。
目の前のAE86から立ち昇るオーラが見える。
ハンドルを握る手が汗で滑りそうになり、ゴシゴシと太腿でぬぐった。
対戦受付終了ぎりぎりに、もう1台の対戦車が乱入してきた。
白いRX−7、FC3S。
FC3Sは、静かに後方に滑り込む。
俺はその2台のドライバーを確認する間もなく、バトルに突入していた。
スタートの合図と同時に3台のマシンは走り出す。
俺のR32を先頭に、AE86がピッタリと張り付く。
少し距離を置いて、FC3Sが続いた。
馬力が違うのは最初からわかっている。
勝負は簡単につくものと思っていたが、後ろに張り付くAE86を振り切る事が出来ない。
俺は少し焦っていた。
それと同時に、頭の中が真っ白になるようなバトルの緊迫感にぞくぞくしていた。
(おかしい、これは俺の感情じゃ…ない…!)
頭の隅でそんな事を感じながら、画面の中のバトルに集中する。
コースも終盤、5連ヘアピンで勝負をかけるのか、バックミラーに映るAE86がコーナーの外から仕掛けてくる気配に俺は苛ついた。
 「外からだとぉ!させるかっ!」
思わず叫んだ自分の言葉が、他人のように聞こえる。
ふいに、86の姿が消えた…いや、外から仕掛けると思いアンダー気味に出たのが裏目になり、インから差し込まれたんだ!
 「なめるなよっ!」
思い切りアクセルを踏み込んだ瞬間、限界に来ていたタイヤの消耗で操作不能に陥ったRはガードレールに接触し、 そのまま動きを止めた。
86はそのまま走り去り、FCも横をすり抜けてゴール…バトルは終了した。

画面ではキャラクター達の会話が流れていたが、それよりも俺はこのバトルの対戦者に唖然としていた。
 「俺…こんなに走りたいと思ったの、初めてだ…。売られたバトルは、買うのが走り屋…か…。」
口調は微妙に葉月が入っているような気もしないではないが、この声は…!
 「三原か!?」
すると、髪をかきあげ「やぁ。」と声を掛ける三原と、その隣には何かを考えながら眼鏡に手をかける……ひ、氷室だと!?
 「あぁ、僕はどうしてしまったんだろうね。この前を通りかかった途端に、女神に誘われてしまったんだ。
  でも、ミューズではなく、アテナだったようだね。
  本来、僕はこんな勝負事は嫌いなんだけど、今ならわかるよ…。
  これは神が与えた…美を追求する僕にとって必要な試練だったということが!
  なぜならば、当たり前すぎて忘れそうになっていた勝利の美学というものを、改めて認識する事が出来たのだから!
  なに、悔しがる事はないよ…これはあらかじめ定められた、そう…運命なんだよ!
  そろそろ行かなきゃ…僕のミューズが待ち焦がれてしまうからね。
  じゃ、鈴鹿君…僕は、行くね。」
さっきの葉月がかった口調はいつもの三原節に戻り、身振り手振りを加えひとしきり語り終えるときらきらしたオーラを振りまきながら 三原は帰っていった。
氷室はまだシート身を沈めたまま画面を眺めていたが、そのうちに俺の方へと視線を移した。
その鉄面皮な表情には、うっすらと微笑が浮かんでいた。
 「なかなかいい走りをしているが、まだツメが甘いようだな。お前は、今のバトルの敗因に気が付いているか?
  …その顔は、まだわかっていないようだな…。」
俯き気味に、ふふっ、と笑う。
なんだか、いつもの氷室とは別人みたいだ。
 「お前のその感情の乱れが、マシンのスペックを充分に引き出せない要因になっている事に気がつかないうちは、
  勝利は無い!
  ダウンヒルにおいて、お前のマシンの比重バランスを考えれば、当然タイヤの消耗も計算されて……。
  何を、言っているのだ、私は…。コホン…とにかく、鈴鹿!君は集中力に欠ける!
  それに、こんな事に時間を費やすよりも、もっと学業に力を入れたまえ!…以上!」
氷室は動揺を隠し切れず、早口でまくし立てるとそのまま足早に去っていった。
一人残された俺は、何が起きていたのか理解するのに少し時間が必要だった。
だが、妙に爽やかな充実した気分に包まれていた。

ゲームはいつの間にかデモ画面に戻り、また様々なステージを映し出している。
俺はそれを眺めながら、俺の中の誰かに言った。

 「いいバトルだったよな。」

END

あのぉ…またやってしまいました…。
パラレル物なんですが、今回はときメモGS in イニDで。
一応、声優さんつながりなんですが、
両作品の声優さんの役柄を知らないと、
全然わからない話ですね。
なのに、つい…。パラレル物好きなんで(^_^;)
でも、イニDで出さなかったAE86 vs R32を
こんな所で出すなんて(苦笑)
ちなみに、イニDのアーケードはやった事無いです(爆)

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