天照館高等学校恒例の研修旅行は、執行部員を含めた希望者を集い、ここ、東京は上野を訪れていた。
上野公園に着く早々、てんでバラバラに好き勝手に駆け出す生徒達。
まぁ、総代御自ら自由行動を取ってしまう辺りが、この学校の大らかさ(?)を現しているのだろう。
課外授業と称した氷室教諭のデート(!)+野次馬の団体は、今回ははばたき市を離れて上野まで足を伸ばしていた。
愉しそうに笑う少女を囲み、男女入り乱れた生徒達を不機嫌そうに睨む教師、氷室。
上野公園をぞろぞろ歩く彼等の横を通り過ぎた数台のマイクロバスから、学生達が降りてくるのが見えた。
PANIC TRIP!
伽月 「東京だ〜!遠足だ〜!さぁ〜って、いっぱいまわるぞ〜!」
拓実 「一之瀬さ〜ん!案内するって、言ったじゃないですか〜!」
琴音 「ですか〜!きゃはははっ!」
美沙紀 「まったく…こんな山猿と一緒にされては、堪りませんわ!」
宝蔵院 「さーて、ワシもちょっと足をのばそうかの。」
九条 「俺も久し振りにあそこへ…。」
口々に散らばる仲間達をなす術も無く見送りながら、飛鳥は呆然としていた。
そこに残された、飛鳥と結奈と誠の3人で名所を散策しているうちに集合時間も近くなり、公園へと向かった3人は、
誠の験力の顕現により美術館へと向かう事になる。
誠 「何か、嫌な感覚が…。美術館です!邪気が溢れている!ダメだ…急がなきゃ!」
結奈 「若林くん、なにか感じるのですね。」
飛鳥 「とにかく、行ってみよう。誠、美術館、なんだな!結奈さんは、総代を!」
奈津実 「ちょっと〜、なんであんた等とこんなとこ歩いてるわけ〜!」
尽 「まぁまぁ、奈津実さん、落ち着いてよ。」
渉 「いやぁ〜、それにしても、さすがは都会ッスねぇ…いい男が一杯ッスよ〜!チェックチェック…!」
花椿 「まったく、なってないわよ!アタシのアドバイスをもっと参考になさい!」
一鶴 「お前は、こんな所まで来てよさないか…。」
和馬 「そんなこと、俺が知るかよ!気がついたら、あいつ等と離れちまったんだよ!」
ちょっとした隙に氷室達とはぐれてしまった事実に気付いた奈津実達はともかく、そんな事を気にもしていない者は好き勝手な事を言っている。
桜弥 「何か、あちらの方から僕を呼んでいるような…。ここの植物達でしょうか…。」
珠美 「どうしたの?誰か見つけたの?」
主人公 「うーん…とにかく行ってみようか。」
少し距離を置いたところにいた3人は、桜弥の勘を頼りに移動をはじめた。
京羅樹 「なんか、今日はやけにキュートなガールズがそろってないか?」
伊織 「なーにふざけた事言ってんだよ、たいしたことないだろ!
…それよりぃ、なかなかイケてるダーリンがいるじゃなぁーい。」
晃 「なんや?何の話や?どこにビビッとくるような娘がおるって?」
凛 「いい加減にしないか、お前たち…遊びに来ているわけじゃ無いんだぞ。」
飛河 「ミッションの遂行だけを第一にしろ。」
思わず外へ飛び出したくなるような穏やかな陽気の休日である今日、天照館の執行部が東京へ来ているのはリサーチ済。
美術館へ向かう道すがら、見かけない学生の団体に京羅樹はさっそく女の子の品定めを始め、それに同調するように伊織が
男の方をチェックする。
晃が少し遅れて反応するが、それをいつものように飛河と凛がたしなめる…いつもの彼等の姿だった。
色 「ボクは、ここのミューズに会わなければならない。ちょっと、失礼するよ。
住む所は違えど、ミューズ達は寂しがりやで嫉妬深いんだ。
ボクが行かなきゃ、彼女たちは狂気に震えてしまうんだよ。」
氷室 「待ちなさい、三原!勝手な行動は控えなさい!大体、団体行動という物を…。」
瑞希 「お待ちください、色様!色様が行かれるなら、瑞希もご一緒します!」
まどか 「お!なんや、おもろそうやないか!オレも便乗さしてもらうわ。」
氷室 「須藤に姫条、お前達まで調子に乗るんじゃ…!」
志穂 「私も、行こうかしら。」
葉月 「俺も…見てみたい…。」
氷室 「人の話を聞かんか!…不明な者もいるではないか!まったく、お前たちは小学生か!」
氷室の言う事になど関心すら寄せない三原の後を瑞希が続き、興味半分のまどか、何故か優秀で自慢の生徒である志穂や、いつもなら
どこかで眠っているような葉月までがどこかへ向かって行こうとしている。
不明な者達のこともどうにかしなければならないのだが、このまま彼等を放っておく訳にも行かず、苦渋の決断を迫られた氷室は
やはり目前の事案を解決すべく、苦々しい表情で彼等の後を追った。
九条 「やはり、見失ってしまったか…まったく、見事な鉄砲玉だな、あいつは…。」
拓見 「はぁ、せっかく見つけたと思ったのに。案内するって、約束だったんですけど…。」
九条は自分の用件を終わらせて集合場所へ戻る途中で、人ごみの中に伽月を探している拓実を見つけた。
伽月はあいかわらずいろいろと飛び回っており、拓見が探すのはこれが最初ではなかった。
??? 「…もうっ!どこ行っちゃったのよぉ、あいつら…。」
九条は、人の波の合間で姿は確認できないが、聞き覚えのある声を聞き、話し口調も間違いなく伽月と思われ、
人の中に紛れる前にと咄嗟に腕を掴んでいた。
九条 「おい!伽月…。」
奈津実 「え?スズカー?」
腕を掴んだ少女を見て、九条は慌てて手を引いた。
そこにいたのは伽月では無かった。
九条 「失礼…知り合いと間違えたようだ…。」
奈津実 「え…あ、あぁ…って、もしかしてナンパ?やだ、その手はもう古いって〜!
ま、いい男だし、このアタシを誘う辺り、あんたって目が高いよ!
でも、ちょっとビックリ。その声、知ってる奴にそっくりでさぁ、一瞬そいつかと思っちゃった。
…あれ?珍しい制服…てことは、旅行かなんか?慣れない土地で迷子、ってやつ?
しょうがない、アタシが送ってあげる。どこ行くの?」
言葉をはさむ間もなくまくし立てる奈津実に呆気に取られていた九条だったが、気を取り直して髪をかきあげ一息つくと
奈津実の申し出を丁重に辞退し、拓実と上野公園へと戻る事にした。
和馬 「藤井のやろう、1人で勝手に飛んで行っちまいやがって…。知らねえぞ!」
尽 「まぁ、奈津美さんらしいけどね。」
氷室達を探していた和馬だったが、どうやら奈津実までがどこかへ行ってしまったらしく、尽と2人で途方に暮れていた。
渉は理事長や花椿と一緒にいたので大丈夫だろうし、奈津実だって始めての土地じゃないのだから、あまり心配する事は無い。
ただ、尽がここに残されたという事は、主人公に引き渡すまでは自分も帰れないかもしれないと和馬は思った。
和馬 「…ったく、俺はなんでこんなお子様と…。」
尽 「な!人をこど…!」
??? 「あ〜や、ひどいぞ〜!琴はお子様じゃないもん!」
??? 「そうだそうだ!ひどいぞ、総代!」
尽の抗議の声を幼い女の子の声が遮り、それに続いて奈津実の声が同意しているが、なぜか和馬を総代と呼ぶ。
不意に道影から姿を現した2人の少女が、和馬を確認すると怪訝な顔をした。
琴音 「あれ〜?あ〜や、いないよぉ。」
伽月 「本当だ…総代の声がしたのに…。」
和馬 「あの、あんた等…。」
琴・伽 「「あぁーっ!これだーっ!」」
和馬 「な、な、な、なんだっ!?」
2人同時に叫びながら指を指されて、動揺した和馬は思わず身を引く。
伽月 「あんたの声だったんだぁ。いやぁ〜、うちのガッコの総代の声にマジそっくりでさぁ!」
琴音 「でさぁ!」
伽月 「悪かったね。あたし達、急いでるからっ!じゃね!」
琴音 「じゃね〜!」
和馬に発言する機会を与えず、彼女たちは一方的にまくし立て、一陣の風を残して去っていった。
気を削がれた和馬と尽だけがその場に残された。
和馬 「…なんだ…ありゃあ…。」
結奈 「綾人様!良かった…榊原くんも御一緒でしたか。」
九条 「どうした、結?…まさか、何かあったのか!」
結奈 「若林くんが、なにか邪な気配を感じるというものですから…。他の皆さんは、まだ連絡がつかなくて…。」
拓実 「九条さん!とにかく、そちらへ向かいましょう!」
九条 「そうだな…行こう!」
九条達が奈津実の申し出を断り、公園に戻ろうとした時だった。
物陰から結奈が現われ、緊急事態を告げる。
奈津実がその会話を聞いていることなど気にも留めていなかった。
奈津実 「何々?なんか、おもしろそ〜!」
好奇心たっぷりに、奈津実は彼等の後を追っていた。
珠美 「やっぱり、鈴鹿くんだ。声が聞こえた気がしたから…。よかったぁ、やっと見つかった……。」
和馬 「どうしたんだよ、紺野。」
尽 「僕も助かりました、見つけてくれて!
鈴鹿と一緒にこのまま置いてけぼりにされたら、どうしようかと思いました。」
和馬 「おまっ…!なんだ、その言い草!」
珠美 「まぁまぁ、鈴鹿くん!それより、主人公ちゃんと守村くんが、気になる場所があるって。
鈴鹿くんも、行こう。」
和馬 「………しょうがねぇ、行ってやるよ。」
正直、和馬もこのまま誰にも会えずにいたらどうしようかと思っていたので、珠美達と合流出来て内心ホッとしていた…
もちろん、そんな事は表に出さないが。
主人公 「あ、和馬くんに、尽…よかった。見つかって。」
桜弥 「そうですね、本当に…。」
和馬 「で、気になるところって、どこなんだよ?」
桜弥 「ええ…コチラの方から、呼ばれているような気がするんです。
確か、この先には美術館があったと思いますが…。」
しかし彼等の行き先に、この胸をなでおろしたひと時を一瞬でくつがえす様な出来事が待っているとは、誰も予想していなかった。
美術館の入り口付近に、数名の人影がたたずんでいる。
京羅樹 「へぇ〜、ここが今日のバトルステージってわけね。こりゃまた、格式高いこって…。」
伊織 「それより、誰かこっちくるみたい…って、いやぁ〜ん、さっき見かけたダ〜リンじゃない?
やだ、ちょっと、どうしよ〜!」
晃 「おおっ、かわいい娘もおるやないか〜!」
凛 「今日は休館日じゃなかったのか…まぁ、いいだろう。」
飛河 「………問題ない。」
裏口へ向かおうとする彼等を呼び止める声があった。
氷室 「君達、待ちたまえ!どこへ行くつもりだ!休館の札が掲げてあるではないか!」
眼鏡の奥で、鋭い瞳が見つめている…はばたき学園 教師、氷室だった。
伊織 「う〜ん、休館だからいるんだけどぉ…ってかさぁ、消えてくんない?うざいからぁ…」
凛 「怪我をしたくなければ、すぐにここから立ち去った方がいい。」
その言葉が届いているのかいないのか、彼女達の前に進み出る人物がいた。
色 「やぁ、いたね。ボクのミューズ…。待たせてしまったね。いいんだよ、そんなに強がらなくても。
なぜなら、ボクはちゃんとここにいるのだから!」
長い髪を軽くなびかせて、色は右手を掲げるポーズを取った。
一方、他の女性に目を奪われている色を不満そうに見つめる瑞希と、それを呆れたように眺める志穂の前にも長身の男が歩み寄ってくる。
京羅樹 「やぁ、ハニー…ここで、ユー達に出会えたのは、マジにミラクルだよ。
これから、お互いもっと深く知り合うって事で、携帯番号教えてくれる?」
晃・まどか 「「なんや、お前等…キャラかぶっとるやんか…。」」
見事に台詞のはもった2人が、同じ関西人の匂いを感じ、思わず顔を見合わせる。
もう2人の間に言葉はいらなかった。
肩を組み、友好を深め合っている。
同じように、言葉を交わさずともお互いに視線をあわせるだけで、なぜかわかり合えている、飛河と葉月。
他人との関わりをあまり持たない2人だったが、この時だけは妙な親近感に包まれていた。
氷室 「…コホン…他校生との親睦を深めるのも結構だが、君達は今日の目的を忘れているのではないか!
よって、直ちに他の者と合流し帰宅する!他校の君達も不審な行動はせず帰宅するように!以上!」
離れ難い者そうでない者、お互いに感慨を残しつつ、氷室に急かされるように美術館を後にするはば学ご一行。
飛河 「………行くぞ。」
何事も無かったように、ペンタファング リーダー 飛河薙は任務遂行のため、行動に出る。
九条達が美術館についた時にはもう、建物の外にまで邪気が漏れ出ていた。
九条 「鼎さんは、間に合わなかったか…。」
まだ連絡のつかない者もいて執行部全員がそろう事は叶わなかったが、一刻の猶予もない状態に、今いる者だけでの討魔となった。
その中には、験力に目覚めたばかりの誠の姿もあった。
飛鳥と結奈は、まだ験力の発動に慣れていない誠をサポートしながらも、どうにか御封石の破壊に成功し、溢れていた天魔の気配も
徐々に薄れていった。
2階の天魔の群れを掃討した九条達と合流し、誠が不穏な気配を察知したという地下へと向かう彼等には、建物の外でおきている
出来事を知ることは無かった。
見知らぬ学生達の後をついてきた奈津実は、別の道から歩いてくる和馬達を見つけると大きく手を振った。
彼女達が合流したのは、休館日の美術館の前だった。
奈津実 「んもぅ〜、どこ行ってたのよ。探しちゃったじゃない!」
主人公 「なっちんこそ、どうしてここに?私達は、桜弥くんがこっちに何かあるって言うから…。
その途中で、尽達を見つけたんだけど…。」
奈津実 「う〜ん…なんか、見たこと無い制服の不思議な高校生と会ったんだ。
その人等がここに向かってたから付いて来たんだけど…なんか、訳アリっぽいんだよねぇ!」
好奇心にキラキラと瞳を輝かせる奈津実…その興味はもう、美術館内に注がれている。
主人公 「でも、今日は休館日みたいだよ?」
奈津実 「そうなんだ!それなのに入って行っちゃったから、訳アリなんだって!」
その時、彼等の周りを霧が包み込み、空気が重く垂れ込めるのを感じた。
普段そんなものを感じる事の無い者でさえ、はっきりとわかる気配がする。
思わず体を寄せ合うが、その姿を確認する事すら難しくなっていた。
和馬 「な…なんだよ…これって……。」
こういう類のことを大の苦手としている和馬だったが、男としての立場から無理矢理気を奮い立たせ、
女性陣を背中にかばう様に立っている。
実際は、膝が笑うのを鎮められないほどの恐怖に襲われているのだが。
和馬の目の前を何かが掠めていったようだが、濃い霧のためにはっきりと確認する事が出来なかった。
その何かが気になり目を凝らしたその時、いきなり目の前に温度の低い焔をまとった髑髏が、おぞましい奇声を発しながら
大きく顎を開いた。
和馬 「―――――――っっ!!」
髑髏のぽっかりと窪んだ眼孔と目があった和馬が、声にならない叫び声をあげる。
意識がすっかり飛んでいた数分…いや、数秒かもしれないが、辺りを取り囲んでいた気配が霧と共に消滅していき、
そこにはまた静寂が訪れた。
奈津実 「ねぇねぇ、今の、なんだったのかなぁ?」
主人公 「うん、変な霧だったね。」
尽 「ねえちゃんは、知らない方がいいと思うよ。」
桜弥 「そ、そうですね…あぁ、夢に出てきそうです…。」
和馬 「………こんなとこ……。」
主人公 「どうしたの?和馬くん。」
和馬 「こんなとこ…二度と来ねえぞー!」
和馬の雄叫びが、虚しく響いた。
九条達は、美術館の地下で相対した月詠学院の退魔班に、ある意味敵対と取れるような宣言を突きつけられ、
暗い面持で集合場所へと戻ってきた。
そこには、散らばっていた執行部員が全員揃っていた。
疲弊しきった様子の彼等に何が起きたのか問い詰める。
そして、先程の経緯を説明すると、美沙紀が憤然と言い放った。
美沙紀 「まったく…御前ともあろうお方が、無礼な発言を言わせたままなどと、情け無いですわ。
私がその場におりましたら、そのような不埒な輩などあっさりと仕留めて差し上げましたものを…。」
誠 「那須野さん、落ち着いてください…。」
美沙紀 「しかも、若林!ちょっと験力に目覚めたからといって、調子に乗ってるんじゃありませんこと?
あなたの力など、まだまだ瑣末な物なのですから、慎みなさい。」
誠 「あ、はい。気を付けます、那須野さん。」
九条 「まぁ、そのくらいにしておけ、美沙紀。少なくとも、月詠の者達とまみえることも叶ったし…。
なにより、誠が験力に目覚めた事は、大きな収穫だった。そうだな、飛鳥?」
飛鳥 「えぇ、そうですね。」
九条は、自分の中で膨らんでいく不安な想いを悟られないように、気持ちを切り替えた。
そう、自分の思ったとおり、古くからの血だけではない転生の者の出現によって、天照郷に新しい何かが起ころうとしている。
そんな未来予想めいたものを、ここにいる彼等に感じていた。
九条 「せっかくだし、皆で記念写真でも撮らないか。」
誠 「あ、僕が撮りますね。」
END
よく解らないですね…ごめんなさい。
『転生学園』と『ときメモGS』
これだけのキャラ数がいれば、声も、キャラも、
かぶってたりするんだろうなぁ…なんて考えて、
どうせなら、思いっきり会話ばっかりで…なんて、
思っちゃったのが間違いだったのかもしれません。
ちなみに、青枠が転生SIDE、
ピンク枠がときメモGSSIDE、
白枠は、一緒になってます。
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