今朝の給湯室は、いつもより騒がしい。
騒々しいのはいつもの事だが、今日の話題の人物が彼女達のテンションをかなり上げさせていた。
事の発端は、総務部 みゆきのこの一言。
「ちょっと、聞いてよぉ。超〜ショック〜!」
これも、毎朝日課のように繰り返される台詞だが。
「昨日、大月主任が…」
この人物の名が出た途端、給湯室にどよめきが起こった。
その場にいた女性社員全員が一斉に振り向いた。
それほどまでにインパクトのある名を持つ噂の大月主任。
27歳の若さにして、開発プロジェクトの主任に抜擢されるエリート社員。
加えて容姿端麗・頭脳明晰。一見冷たく見える外見に対して、かなり面倒見のいい性格(いけてる後輩君談)のため、上司・同僚・後輩からの信頼も厚い。
もちろん、女性社員からの受けもすこぶる付きで良い。
密かにファンクラブまで作られているという、PRIMEWISE社一押しの注目株である。
ただ、本人にはその自覚は無いらしく、入社以来女性の噂が出たことが無い。
それがかえって女性社員の聖域とまで言われる所以である。
「大月主任がどうしたのっ!」
「ショックって、何がっ?」
彼女を取り囲み、口々に質問を浴びせかける。
今日の給湯室は、異様な雰囲気に包まれていた。
芸能人に集まるレポーターのような彼女達の勢いに押されながらも、みゆきは話を先に進めた。
「昨日、友達と行った居酒屋に、居たのよぉ、大月主任がっ!」
すると
「え〜っ、それって、どこの居酒屋なのっ!」
「プライベートの大月主任に会えるなんて、何て羨ましい…。」
「何で、居酒屋なの?給料日前だから?」
「大月主任なら、どこでも絵になるのよっ!」
等々、一言発するごとに彼女達の反応が返されて、なかなか話は先に進まない。
給湯室は、各フロアに1室設けられている。
そのフロアの社員分をまかなうためのゆとりのあるスペースが確保してあった。
お茶をいれる設備が整えられている一角のほか、数脚のテーブルセットが揃えられていて、ちょっとした喫茶室も兼ねている。
いつもなら、ゆったりとお茶を入れながら軽くおしゃべりをする場なのだが、今日はそんな余裕はなかった。
騒ぎを聞きつけたフロアの女性社員ほぼ全員が、いつのまにか給湯室に集まっていたからだ。
「居酒屋だったら、いつものいけてる後輩君とじゃないの?」
そのうちの一人の言葉に、皆安堵の溜息をついた。
「そうよねぇ。いつも一緒に飲みに行ってるし。」
「う〜ん、彼もなかなかいい感じよねぇ。」
「そうそう、2人が並ぶと後光が指すというか、華が咲くというか…。」
その光景を思い浮かべながら、うっとりと自分の世界に浸っていた彼女達を、続く言葉が奈落の底まで突き落とした。
「もう、聞いてってば!
女と2人だったの!!」
「「………」」しばしの沈黙。
水を打ったような静けさというのは、このことを言うのか?
急に静まり返った給湯室の様子を心配して、近くの席の男性社員が見に来るほど、この沈黙はいつまでも続くのかと思われた。
だが、それはほんの一瞬で打ち消された。
「
―――――――!!!」
声にならない悲鳴がフロア中に響き渡った。
その頃の、当の本人・大月埴史は、昨夜のアルコールの余韻を多少残しつつ、プロジェクトのプランを作成中だった。
「まったく…あの人は、ウワバミか、ザルだな…。」
とつぶやきつつ、こめかみを押さえながらパソコンと向き合っている。
『あの人』とは、噂の女・後輩の大学の助教授であるのだが。
自分の特殊な力を認識してから、不足している情報を補完するために何かとお世話になっている、相当豪快な女性である。
しかし、かなりいけてる外見のため、外から見ればいい雰囲気の2人に見えないこともない。
たとえ、それがおじ様御用達の赤提灯な居酒屋だとしても。
女性社員の落胆は杞憂に過ぎないのだが、そんなことは彼女達が気付くはずも無く。
大月自身も、そんなに大事になっているとは露知らず。
もっとも、本人には噂の的になっている自覚が無いのだから、いつ・誰と・どこに行こうと自由なのだ。
彼女たちは、この先彼の一挙一動に振り回されることになるのだろう。
「む、なんだ、この寒気は。この気配…。まさか、こんな所にもアルマが…!」
END
星のまほろばです。
でも、ゲーム内容とはかなり離れてます。
大月氏がお気に入りなので、自分が彼の
会社にいたら…というのを考えてたら、
こんな話になりました。(苦笑)
続く…かもしれないですね。
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