その日、いつものように眠い目をこすりながら布団から抜け出し、いつものようにカーテンを開けた。
ただ、いつもと違ったのは、窓の外が真っ白だった事。
布団から出た時点で気付くべきだった。
今日は、車は、使えない。
昨日の天気予報で、この土地には珍しいぐらいの寒気が上空を覆っていると言っていた。
確かに寒かったが、最近の予報は当たらないし…なんて、予報士のいうことを半分しか聞いてなかった。
昨日はテキストのコピーを条件に人数あわせのコンパに出て、帰ってきたのはもう日が変わってからだった。
そのテキストをあてにしたとしても、今日の講義を休む事はどうしても出来なかった。
「なんて、ついてないんだか…やっぱ、日頃の行いかねぇ…」
と、溜息交じりで呟いてみる。
少し熱めのシャワーを浴びて、一服した。
時計を見ると、そろそろ出かけなければ間に合いそうにも無い。
判ってはいるのだが…寒い。
タイヤを替えてまで、車を出す気にもならなかった。
先輩の顔が頭に浮かんだ。
「また留年するような事では、面倒見切れんぞ。しっかりしろ!江藤!」
うわ〜、頭の中でまで説教っすか〜、先輩…。
この間、久し振りに再会した、元教え子の知風の言葉を思い出す。
「先生、お久しぶりです!もう卒業されたんですか?…あぁ、大学院かな?」
そんなにこやかな笑顔で、結構痛いよ…ちーちゃん。
なぁ〜んか、むっすりとした従兄弟の火足の呟きが聞こえる。
「…恥さらし。」
ぐっさり…言葉のナイフが深々と刺さる。
先輩自慢の甥っ子、空見君がにっこり笑う。
「僕の中では、どうどうと留年した人ってインプットされてますから。」
そりゃないぜ…おちびちゃん。
しょうがない、今日は車を置いて行くしかないか。
諦めて大学へ行くべく、仕度を始める。
仕度を終えた頃には、もう車でなければ間に合わないのだが。
玄関を出ようとしたところで、家の前に車が止まる気配がした。
ドアを開けて、その現実に目を疑った。
そこには、シルバーに輝くS2000が止められている。
その横にドライバーである人物が立っていた。
まるでパンフレットのように、その立ち姿は様になっていた。
ぼんやり見とれているオレに向って、その人は声をかけた。
「何をしている、江藤!早くしないと間に合わないぞ!」
どうして?先輩…。
「お前の事だ、この雪で大学へ行くのをしぶっているだろうと思ってな。こうでもしないと行く気にならんだろう。
なんとしても、今年は卒業してもらわないとな。」
そう言って運転する先輩の横顔を、オレはただ眺めていた。
「どうした?江藤?」
「いえ、なんでも。お迎えつきなら、この先ずっと雪が降ってくれればいいのにって思ってました!」
「ばか、そんなことでどうする!」
「ははっ。」
でも、言ったことは本当の気持ち。
いつも先輩が来てくれるなら、毎日雪が降ってくれればいいと願う。
大学までの僅かな道のりが、いつもよりも楽しいと思える。
これはきっと、雪が叶えてくれたオレの想い。
今だけは、すぐに溶けてしまう雪にオレの願いを込めて。
END
北海道に、雪が降りました。
彼等のすむ土地に雪が降るかは
わかりませんが(苦笑)
なんとなく、水支は寒いの苦手そうな気がして…
あ、でも、水の恩恵を受けた人でしたっけ(汗)
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