テーブルの上には、コーヒーカップが2つ並んでいる。
先輩が煎れてくれたコーヒーは、たとえインスタントだろうが、どんな店で飲むそれよりもうまかった。
向かいに座る先輩は、先程の気まずさからかうつむきがちで、たまに顔を上げて先輩を見つめているオレと目が合うと、
またうつむいてしまう。
そんな雰囲気の中でも、先輩はオレを追い出したりせず、ここに居させてくれる。
それが先輩の優しさで、強さだと思った。
オレは、先輩と2人きりのこの空間に、幸福感を感じていた。
「先輩は、サンタクロースって信じます?」
唐突に聞いた俺の質問に戸惑っていたが、少し考え込んだ後、ゆっくりと答えてくれた。
「私は、自分の目で見たことしか、信じられない人間だからな。だが、子供には信じていて欲しいが…」
そんな他愛も無い質問にもしっかりと考えてくれる先輩に、初めて会ったときからひかれていた。
「オレ、今ならサンタクロースはいるって、信じられます。オレの願い事、叶えてくれましたから。」
「願い事?」
先輩が不思議そうにオレを見つめる。
「あの階段に座り込んでた時、もしサンタがいるなら、帰ってくるかどうかもわからない先輩に会わせて欲しいって。
叶えてくれたら、今までのオレがした事を全部悔い改めるからって。そしたら、先輩が立ってた…」
「江藤…」
先輩は困ったような笑みを浮かべる。
そんな先輩の表情の一つ一つが、オレにとってかけがえの無いものだ。
いつまでも、いろんな姿を見せて欲しいと思う。
できれば、オレだけに…そこまでサンタにお願いするのは欲張りすぎだろうか。
静かな時間が、部屋の中を満たしていた。
流れていく時間は、気まずい雰囲気を打ち消してくれる。
「江藤、腹は空いてないか?」
先輩に言われるまでそんなこと気にもしなかったが、言われてみれば今日は昼から何も口にしていないことに気付いた。
「これしかないが、食べるか?」
そう言って先輩が出してきたのは、白い箱。
この時期に、その白い箱と言えば、中身は当然…。
「空見が用意してくれたケーキなんだが…」
やっぱり…先輩には言ってないが、実は甘い物、特にケーキは苦手なんですが…。
そんな事を考えているなんてわかるわけも無く、先輩はケーキを切り分けてくれた。
生クリームがたっぷりの、真っ赤なイチゴが乗っているケーキ。
お皿は3枚用意され、切り分けたケーキが2皿にサンタの砂糖菓子を乗せた皿が1皿。
サンタは向かい合って座るオレ達を見張るように、真ん中で微笑んでいる。
「先輩、これは…?」
「あぁ、これか。空見が、私が一人でケーキを食べるのは寂しいだろうと言ってな。サンタは自分だから、一緒に食べろと言って…」
と、幸せそうな顔で話す。
そのサンタが、空見君の姿とダブり、まるで先輩を取るな!とでも言っているように見える。
どうやら2人きりの聖なる夜というわけにはいかないらしい。
こうして、オレと先輩と空見サンタは3人仲良くケーキを食べる事になった。
甘いはずのケーキが、オレには苦い味だった。
「江藤、さっきのサンタの話だが、今までのお前がした事を悔い改めると言うなら、まずは大学を無事に卒業する事から始めないとな。」
先輩はいつものペースに戻り、少し意地の悪い笑みを浮かべそう言った。
「あ〜ぁ、オレ、もうサンタが信じられなくなりましたよぉ。」
頭を抱えるオレに、楽しそうに笑う先輩。
サンタを信じないなんて、嘘。
こんなに素敵なクリスマスにしてくれたサンタクロースに感謝!
END
続きです。
もう少し、進展するかと思ったのに、
期待はずれでゴメンなさい。
果てしなくあまあまでほのぼのです。
空見君、ストッパーですね。
番外編の空見君の奮闘も
良かったら見てやってくださいね。
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