夏休み中だというのに、校内には生徒達の声が響いている。
グランドや体育館では、インターハイも終わりこれから次の大会を目指して練習に励んでいる生徒達で活気付いていた。
その中に、弓道場で真剣な面持で弓をつがえる火足の姿もあった。
練習も終わり、次々に生徒達が帰路につく。
校門の辺りでは、なにやら女生徒達の嬌声があがっていた。
気だるそうにカバンを背中にもたれさせた火足が、その声のする方に視線を向けた。
見なきゃ良かったと思った。
そこにいる男は通りかかる女生徒達に、ひらひらと手を振っている。
高い身長、ルックス申し分なし、端整な顔立ちに、金色に近い髪が風にそよぐ。
そんな彼に笑顔を向けられ、彼女達は頬を染めてうっとりとした表情を見せる。
―――バカ水支……。
火足は心の中で呟くと、水支を無視してその場を通り過ぎようとした。
「よぉ、火足!無視するなんて、つれないじゃん。どこ行くんだよ!」
声を掛けられて、周りの視線が一斉に自分に浴びせられるのを感じた。
いたたまれなかった。
「…声、かけんじゃねえよ!恥ずいだろ…。」
そのまま立ち去ろうとするのを、水支に阻まれてしまう。
「な、な。ちょっと、付き合えって!」
「嫌だね!なんであんたに付き合わなきゃならねえんだよ!」
「冷たい事言うなよ、従兄弟じゃん!なぁ、かわいそうな従兄弟を助けると思ってさ、ねっ?」
「………。」
「先輩のとこ行くのに、手ぶらじゃ申し訳ないでしょ〜!」
「あんた…また、大月さんに迷惑かけたんじゃねえのか…。」
「まぁ、それも無きにしも非ず…って、とこかな?」
「はぁっ……ホント、恥ずかしい奴…。もう、帰れって!」
「そうはいかんのよ!さ、乗った乗った!」
半ば強引に火足を愛車に押し込むと、水支は車を走らせた。
車の中には、甘い匂いが漂っている。
その匂いの元は、後部座席に詰め込まれた様々な店のケーキの箱。
その中に紛れて、何店かのコンビニの袋も混ざっている。
水支が甘い物…特にショートケーキとかを苦手としてるのは知っていた。
大月さんだって、まさかこんなに甘いものを食べるとは思えない。
何考えてんだ…水支の奴……。
火足の不安な気持ちを抱えつつ、車は目的地へと向かう。
初めて訪れる、大月のマンション。
火足は緊張した表情で、大量の袋を下げる水支の後を付いて行った。
「火足、オレ、両手ふさがってるから、インターフォン押してくれる?」
―ピンポーン。
「どうぞ、開いている。」
中から、大月の声がする。
振り返って水支を伺う火足に、水支が無言で入るようにとうながした。
戸惑いながらも、ドアを開けると……。
「「HAPPY BIRTHDAY!!」」
パンパンパーン!
驚いて立ちすくむ火足の体中に、クラッカーの色取り取りの細かいリボンが絡みついていた。
水支が、状況を把握できない火足をとりあえず押し込むと、部屋の中からクラッカーを鳴らした本人達、知風と空見が手を引いて
連れて行く。
「さあ、火足ちゃん、こっちだよ。早く早く!」
「江藤さん、おっそーい!待ちくたびれちゃったよぉ!ね?埴兄ちゃん!」
「こいつ口説くのは、骨が折れるんだよ!
それにこの荷物…ちょっとは、感謝して欲しいぐらいなんだけどねぇ。」
「ははっ、ご苦労だったな、江藤。」
「これって……何?」
一人訳がわからず、疑問符が頭の中を駆け巡る火足。
「何って…お前の誕生パーティーだろ?」
「おめでとう、火足ちゃん!」
「おめでとうございます、宇津木さん!」
「おめでとう、火足くん。今、飲物を持ってこよう…。」
テーブルの上には、水支が持っていた大量の荷物…それは全てプリンだった。
街中の洋菓子店のプリンに加え、コンビニやスーパーで売っている市販のプリン等。
よくここまで集めたと感心するくらいの種類のプリンが、テーブル一杯に広がっている。
―誕生日はわかった…でも何故プリン?
まだ納得できないでいた火足は、続く水支の言葉に顔から火が出る思いがした。
「お前さぁ、昔言ってただろ?街中のプリン食ってみたいってさ。」
「そんなの!ガキの頃の話しだろっ!いつまでも、ンなことおぼえてんじゃねえよ!」
「まぁまぁ、火足ちゃん。いいでしょ、今日くらい…それに、パーティーしようって言ったの、僕なんだよ。」
「そうですよ、宇津木さん。それより、はやく決めてくれないと、ボク、先に取っちゃうよ!」
「空見、主役より先に選んでどうする。火足くんも、早くしないと空見にとられてしまうよ。」
大月が、各々の飲物を持ってリビングに戻ってきた。
「知風くんは、紅茶だったね。空見はホットミルクだな。火足くんはコーヒーでよかったかい?」
「先輩!オレ、アルコールがいいんですけど…。」
「…却下だ。」
水支の意見をあっさりといなし、コーヒーを手渡す。
この状況下で平然としている大月に、この人も、すごいんだか抜けてんだか、よくわかんねえかも…と、密かに思う火足だった。
この際だからと開き直り、プリンを選び出した火足を、興味深そうに空見が眺めている。
どうやら自分のお目当てをもう決めているらしく、火足の動向が気になるようだ。
そんな視線に耐え切れず「先に取っていいぞ、空見。」と、言った途端…。
「じゃ、ボクねえ、これがいい!」
「ねえ、火足ちゃん…僕も選んでいい?」
「おっ、オレも…。」
「お前はダメ!」
「なんでよぉ、冷たいじゃん…。」
「まったく…いつまでも大人気ないぞ……江藤…。」
お目当てのプリンを頬張る空見や知風が幸せそうな顔を見せる。
火足も自分のプリンを選んで、一口含んだ。
甘いクリームの味が、広がる。
久し振りに口にしたその味に、子供の頃を思い出し思わず笑みが漏れる。
それにつられて、大月と水支もプリンを口にしていた。
テーブルの上には、まだプリンがヤマになっている。
いきなり連れ出されて、怒涛のように始まった宴だったが、火足はこんな誕生日もいいかな、と思っていた。
END
火足くん、BD記念です…が、このタイトル(笑)
結局、一番大人なのは、火足くんなのでは?
って感じの話になってしまいました。
確か、火足くんの好きな食べ物って、
プリンだったような気がしたのですが…。
違ってたら、大笑いですね。
でも、プリンを食するハニー…
なんだか想像できないような(^_^;)
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